七話 近くて遠いあの場所
リッくんが私を連れて檻にぶつかると悲しげなBGMと共に画面が暗転。体にピリピリとした刺激がはしった。
あれで一撃死? 私ちょっと脆すぎない?
「っハハハハハハハハハハハハハハ」
気づくと私はマイハウスのベッドの上だった。状況を理解する前にすぐ横でうるさい笑い声がした。
私をあんな罠に引っ掛けたミーちゃんだ。
先にログアウトしたくせに、なんでか私の横でバタバタ両手両足を大げさに振って楽しさをアピールしてる。
というかミーちゃんがさっきから連打してる『笑い転げる』のモーションがムカつく!
ワンループ終わるごとに足と手がピタッと止まるところとか本当に煽り性能高くない?
「ハハハハハハハハハハハぁあ……傑作すぎるぞユー。自分で設定したオプションで自爆デスって馬鹿じゃないの!」
「うるさいってか用事なんでしょ? さっさとログアウトすれば?」
まだ大爆笑して涙まで流してるミーちゃん。私は怒っているので彼女を冷たく突き放す。
だいたいあれって自分が誘ったゲームに乗ってくれた親友にする仕打ち?
ひどく傷ついたんだけど! メンタルも体力も!
体力一発で飛んだよ。ざっくり減ったよ。
敵の攻撃じゃなくリッくんの体当たりでね。
リッくんの新しい反応だったから、攻撃技でも使ってくれるのかと思ったのにまさか真正面にただ走り出すなんて。
めっちゃ早かったよ。私の体宙に浮いたよ。
そのせいで一日一回の無料全回復も使っちゃったし。
私がそんな思いを全部くどくどと教えてあげたら、ミーちゃんもやっと反省したのかモーション連打をやめて謝ってくれた。よし謝ったら許してあげよう。
「ごめんごめんって丁度ボスタイミングだったんだもん仕方ないじゃん。あの狼て出現曜日が固定だから珍しいんだぞ? 私もその素材獲得チャンスを不意にしたんだからさ、おあいこってことにしようよ」
「だったら! 一緒に戦って倒してくれれば良かったでしょ!?」
貴重なチャンスで無駄に罠仕掛けないでよ。
タイミングばっちりにログアウトまでしてさ。
ほんとふざけてるよ。
リッくんにも説教しなきゃ気がすまないよほんと。あれ? そういえばリッくんどこだろ。
お説教の前にまず回復しなきゃ。リッくんもダメ受けたよね絶対。
「ミーちゃんリッくん知らない? 私のリッくん」
「ああ瀕死だったから回復させといたよ」
「おっありがとー」
ミーちゃんがベッドの下からリッくんを抱き上げる。リッくんはさっきと変わらず真っ赤なプニプニボディだ。
よかった無事だったんだ。ないだろうけどキャラロストとか嫌だし。
「もう一回外行く? 今度はちゃんと街まで送るよ」
「ん。んー今何時? 明日、学校じゃん?」
「9時すぎってとこだね」
「ならやめとこうかなーお風呂とか入らなきゃだし」
ご飯はゲームしながら食べたからいいけど、流石にお風呂や授業の用意はできてないからね。
さっき森の中になんだかんだで一時間くらい居たのに着かなかったし。
「でもほんと近いよ?」
ミーちゃんが食い下がる。そんなに私と遊びたいの? しょうがないなあ。
でもなー。
「さっき一時間かかったじゃん」
「……そりゃ森に行ったからね」
ミーちゃんがあさっての方を見ながら呟く。
よくわからない。今の私には理解できない言葉だ。
何を言ってるのかなこの子。あまり私を怒らせないでほしい。
「どういうこと? 言葉を慎重に選んで話してちょうだい」
私を森に置いていったことはさっき許した。だけど別の罪状が出てきたら罪復活だよ?
「街ってこのテントの裏からすぐだぞ」
「もおおおおおおおおお!」
じゃあなんでモンスターが出る森なんて行ったの!? 馬鹿じゃないの。
リッくんの待機状態を解除して私はすぐテントから出た。
テントを出て後ろに回ると、本当に道路があった。
しかも三車線くらい有るおっきな道路だ。それに50mくらい先に大きな街の影も見える。
ほんとうに先に森に行ったのは私をからかう為だけだったんだね。
「ユー、お詫びに何か装備おごってあげるよ見に行こ?」
街を見て呆れていた私にミーちゃんが提案した。
装備? そんなの買ったら使いたくなるじゃん、でもこのゲームで戦闘はしたくないからいらないかな。
あっでも一つだけ有ったら楽しめそうな防具あった。
「私、買ってくれるならノーダメチートな装備がいいな」
「売ってるわけないだろ……」