六話 森って静かで気持ちいい
麻痺はミーちゃんがアイテムをくれたので治りました。
あの毛玉が麻痺持ってるなんて……かわいい見た目にすっかり騙されたね。
「麻痺でダメージってずるいよね。行動不能にダメージってさ」
「でも持続時間短いから」
私とミーちゃんはまだ森の中を歩いてます。
毛玉の抜け毛は手袋みたいなものを装備したミーちゃんが回収しました。
あれは布とかに加工すると接触する敵を麻痺にする防具になるんだってさ。
「これあとどれくらい歩くの? というかどこ目指してるの」
「街だよ。さっきも言ったでしょ?」
聞いたっけ? あんまりゲームの説明された覚えないんだけど。
毛玉を倒した後も毛玉の犬とか鳥とかを二人で倒しながら進んで行く。
どのモンスターもふわふわもふもふで可愛かったけどミーちゃんがワンパンです。
どの子もまっしろな毛なんだけど麻痺を持ってたのは最初の毛玉だけみたい。
ドロップするアイテムも毛以外に爪とか羽とか尻尾とか、色々種類があった。
そのいくつかは、ミーちゃんが使うだろって言ってくれて私がもらいました。
「もう少しかなー」
「何が?」
またモンスターを倒したミーちゃんがウィンドウを開いて時間を見てた。
私はお花をゴミにしてリッくんに食べさせながらたずねる。
そういえばさっきから時間を気にしてるけど何か見たいテレビでも有るのかな。
「んー? おっ」
ミーちゃんが嬉しそうにウィンドウを閉じる。なんかすっごい笑顔。
いいことあったんだろうね。
「ユーってまだ時間大丈夫?」
「ん。大丈夫だよ! 元気いっぱい!」
新しいゲームを始めたんだからまだ数時間は元気だよ。
「そっか。あっちょっとリアルなあれで落ちるわ。じゃあ明日街からスタートってことで!」
しゅぱっと右手を上げてミーちゃんが早口でそう言うと、私が反応する前に居なくなった。
「え? ミーちゃん?」
……え? ──居なくなるならなんで今時間あるって聞いたの!?
突然消えた親友。彼女が居たところを見つめて固まる私。
街までちゃんとエスコートしてよ、ここで置いてく? 普通。
静かな森に私とリッくん二人きり。モンスター出てきたらどうするのさ。
今まで二人でお話しながら歩いて来たけど。一人だと自然のBGMがいい感じだね!
……ログアウトしよう。一人でこんなリアルなゲームやるの虚しいし。
ウィンドウを開きログアウトを選択。リッくんに手を振ってから私はそれを押そうとした。
ガガガガガガガッ
あっ地震? リアルの? こっちの?
揺れが始まると同時にシステムウィンドウが勝手に消える。
びっくりして消しちゃったのかな。
またウィンドウを開こうとしたけどなんでか開かない。
そこで私は瞬時に天才的ヒラメキを発揮した。
ははーん。イベントか何かだね。……ハメやがったな!!!
ログアウト縛りのイベントってダメでしょ。
しかもゲーム初めてすぐの場所だよここ。なんなのもう。
いつの間にか周りにうっすら檻みたいな物までできてるし。
モンスターが出てくるガサガサ音もさっきより明らかに大きいしボスだよ絶対。
これって負けたらどうなるんだろさっきのテント送り?
というか負けるってことはダメージ食らうってことじゃんか!!
ピコーン
ゲーム内のメール着信音がなった。
チャットやメールはシステムウィンドウと別枠なのか、メールは普通に開ける。
差出人はミーちゃんだった。
メール内容
『ユーへ
そこに出てくるボスは強いので諦めて負けろ
痛みに耐えてがんばれ』
頑張らないよ!? 戦いたくないって言ってるんだからこの気持ち汲んでよ!!
……時間制限で負けになったりしないかな。ちょっと木の陰で隠れてよ。
「リッくんもこっち来て」
木の後ろでリッくんを足の間に抱える。ああこのぷにぷにだけが私を癒してくれるよ。
ガサガサ音が大きくなる。私は両手を合わせて気づかれないように祈った。
スンスンと鼻をならす音。ボスは犬系かな。
小さい犬でもあの可愛さなんだし、おっきな犬も少し見たい。
ちらっとだけ、ほんの一瞬だけ後ろを覗き込む。
もふもふだけど真っ黒で大きな犬が上を向いて鼻を鳴らしている。いやー私なんて一噛みで食べられそう。
スンスン……スン……
匂いを嗅いでいた犬が顔を下ろして私の方を見た。
なんか元気が出そうなBGMがどこからか流れ出す。
犬が! でっかい犬がこっち来る!!
リッくんどうにかしてよ。護衛のモンスターでしょ!?
リッくんを揺すってみるけどもにゅっとするだけで反応がない。
あれ、というかリッくんって意思あるのかな。
でも、なくてもいいから助けてよ!
どうしていいかわからなくてリッくんをもにゅもにゅ揉んでいると、急にタイヤが回転し始めた。
リッくん! なにかしてくれるんだね! ありがとう!
タイヤが回転しギュるギュるうるさく空回りする。あっ抱えてるからか。
リッくんを地面に下ろすとタイヤが土を噛んだ。リッくんは前方へ高速で走り出す!
──取っ手を掴んでいた私を連れて。
最後に見た光景は周りに有った半透明な檻で、気づくとテントの中でした。