四十七話 やっちゃった?
ダダダダダダダダダッ
ボスへと弾幕を浴びせ続けるカレンちゃん。
残念だけどボスには変化が全く無いね。
「カレン! ボスはもういい! 私が行く。ふーはもう少し様子見てて」
「ああわかった」
「……ぼくそんなに待たないから」
ミーちゃんが壁を超えて外へと走っていく。
倒しきれなかったことがよっぽど不満だったのか、それにぶっきらぼうに返事をするカレンちゃん。
でも、返事をしてすぐにボスへの銃撃をやめて雑魚を狙い始める。
ダダダダダダッカッカカッ……
狙いを変えて数秒。流石の勢いで雑魚の波が八割くらい消えた。だけど弾幕もそこで止み、銃が数回空転して止まった。
「っち。弾切れだ」
カレンちゃんのスタミナが尽きたらしい。
スタミナが尽きるとキャラも体が重くなるのか少しふらついて銃にもたれる。
休みながら撃っていたから今まで大丈夫だったけど、中ボス相手に消費しちゃってから、そのまま雑魚を連続で倒そうとしたせいだ。
スタミナ回復までどれくらいかかるか解らないけど、こういうのって使い切っちゃったほうが回復遅いよね。
だったら次の集団に間に合わないかも。
いよいよ私も出てかなきゃダメなの? 安全な所で見ていたいのに……。
「あっそうだ!」
私は一つアイデアが浮かび、手を合わせてあんずさんにお願いをした。
「あんずさん、お願いがあるんだけど」
「なあに? ウチそろそろ出番かなって思ってるんやけど」
「あのね! これ、投げれる?」
私はリッくんに岩を出してもらって指差した。
あんずさんって重そうな鎧着てるしパワーあるんじゃないかな。
なら岩の一個や二個投げれるでしょ。
まだミーちゃんはボスまで距離があるから当たる心配もないしさ。
「うーん。ちょっと持ちづらいけどいけると思う」
「ほんと! なら一発やっちゃって!! 私、ガンガン作るからさ」
重たい鎧を器用に動かしボーリング球サイズの岩を片手で持ち上げるあんずさん。
砲丸投げの様に腕を背中側に引き、ボスめがけて投げた! ほぼ水平に!
ミーちゃんの横を高速で過ぎていく岩! これには思わずミーちゃんもこっちを振り返って怒った。
「危ないだろ! 狙ってんのか!」
「ごめーん! って前見てよミーちゃん!」
「はあ? って危なっ」
「ひゃあああああああ!」
ミーちゃんに危険を知らせると私はすぐ壁の中に隠れ、それから数秒も経たないうちに銃声とは比べられないくらいうるさい爆発音がした。
何が起こったのか。
ミーちゃんの横を通り過ぎた岩はそのままボスの柔らかそうなお腹に当たった。
ふわふわの体がおへそのように凹む。
ダメージは与えられていなかったみたいだけど、それはまあ良いんだ。
問題はそのまま岩が跳ね返って来た事。
私の声に反応したミーちゃんはなんとかそれを避けたけど、飛んできた岩は一直線に壁へと当たって砕けた。
「びっくりしたぁ。壁大丈夫?」
「……問題ない。でも今のはもう耐えない」
威力を見るために壁の外を覗いていたふーちゃんが言う。
「そんなに威力あったの? ただの岩なのに」
あんずさんの投擲力が強かったのか、ボスのカウンターが強かったのか。
それとも岩が何かの効果を持っていたのか。
「ウチのパワーだけじゃ絶対無理だよ。ユーちゃんの岩が元から爆発物だったんじゃないかな」
「どっちだろうね。爆発系ならうまくやればダメージ与えられそうだけど……砲弾とかじゃダメだったしさ」
ちらっとボスの方を見ると、ミーちゃんがボスの足元で切りかかっている。
だけどあんまり効果出てなさそうだし、物理系じゃダメなんだろうね。
「……ユー他にアイテムなにある?」
「アイテム? 岩を出すのと同じ系統のアイテムが雷火氷ってあるよ」
壁の上に座ったふーちゃんが足をぷらぷらしながら言う。
雷や岩単体の射程的に考えて一個ずつ食べさせても近づかなきゃダメなんだよねぇ。
骨のドラゴンと戦ってたときはもう少し近かったし。
顎に手を当て何かないかと考えているとふーちゃんが手を挙げた。
「はいふーちゃん」
「……岩に炎当てて投げる?」
「それ、岩が爆弾だったらウチたちまとめて飛んじゃわん?」
「……だめ?」
うーん。良さそうなアイデアだけど、あんずさんの言うことも当たりそう。
それやった時にボーンと一発でミーちゃん以外全滅するっていう未来も想像できる。
それにしても、炎単品じゃなくて岩にまとわせるってのはあんずさんに投げて貰うからかな。
合わせるって発想自体は結構良さそうなんだけど。
……そういえば、一昨日カレンちゃんと変なお猿さんの所に行ったときすっごく強い攻撃出たよね。
あれ再現できないかな。その時に何入れたか分からないけどね。
何でもかんでも全種類たくさん入れて!
「あっちょっと待ってね! 今私いいこと思いついたから」
ジャラジャラとリッくんの中に黒水晶をたくさん。それになんとなく持っていた赤い木ノ実も入れちゃう。
ゴギャッバギッグギギギ
なんだか恐ろしい音がするけど大丈夫でしょ。
「できたよ! 見てみて! リッくんやる気十分だね」
「……ユー、それはない」
「うん。ユーちゃん、それはダメや」
「さっきから貴様ら何をしている? そろそろ私のSTも溜まる。余計なことをするなよ」
否定的な二人に加え、気だるげにしていたカレンちゃんも心配そうにこっちを見ている。
私はチッチッチと指を振って、三人に今にも爆発しそうなリッくんを見せる。
栄養がいっぱいなのか一秒ごとに色の変わるリッくんはカラフルでとってもおしゃれだ。
「いいからいいから見ててね? ミーちゃん! そこどいてー!」
「は? 何する気だよお前!」
私はふーちゃんの横を通って壁の外に出てボスの方にリッくんを向けた。
私がリッくんを構えてることに気づいたミーちゃんは慌てて射線から出る。
「いくよ! リッくん!」
足にリッくんを挟んで固定。きっと強いからちょっとだけ反動とかあるかもだからね。
ぶれてミーちゃん撃っちゃったら可愛そうだもん。
私大活躍。みんな褒め称えるのビジョンもイメージできたしそろそろ撃つよ!
私は最初片手でリッくんの取っ手を押そうと思った。だけど、いつもより固くて動かない。
だから両手を合わせて力いっぱい押したのだ。
ゴッ──
想像と違う音が頭の後ろからした気がして、かと思えば画面が暗くなっていき……
気づけば私は自分の部屋にいた。
いや、ずっといたんだけどね。正確にはヘッドセットが外れていたんだ。
あれえ? やっちゃった? これ。




