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四十六話 毛糸の波

 


 鐘の音を聞き戦闘が始まった事を知る私たち。

 みんな口を閉じて敵の姿や規模等を探ろうとしている。

 最初のコンタクトでどれくらいゲージが削れるか判断しないとね。


 身構えること一分。台の上で腕を組んで立っていたカレンちゃんが口を開く。


「見えたぞ、射程まで10秒」

「数は? 処理できるうちは私ら出ない方がいいか?」

「角度修正。2、1、斉射!」


 ダァンッダァンッタタタッタタタッ


 カレンちゃんが敵を指した腕を下ろすと二種類の砲撃音。

 台座の上は片面に長方形の大きな大砲みたいなやつが二門と普通の細長い銃が三丁並んでいる。それが前後二組。

 横は空いているけどなにか対応策はあるんだろうね。


「出ない方がいいか。だと? ふふん、そこから一歩でも出たら貴様らでも命の保証はないぞ?」

「ひゅー! かっこいいよー! その調子で全部やっちゃって」

「ああ、貴様はそこで手だけ叩いていろ」

「うん。応援任せて! ほらふーちゃんミーちゃんもこっち来て座ってようよ」」


 ちょっと銃声がうるさいけど我慢して台座の根元に腰を下ろす。

 そして両隣りを叩いて二人を誘った。

 今はやることないんだしさ。


「んー、こっちのが面白いぞ。ほらっこっちからも敵見えてきた、今に押されるんじゃないか?」

「……すぐ助けが必要になるかもね?」


 壁に顎を乗せて外を見ていたミーちゃんふーちゃんがカレンちゃんをからかう。

 もう、そんなことより私の相手をしてよね。

 二人が来てくれそうになかったから私は二人の間に潜り込んで外を見た。


 果ての見えない外から続々と走って来る丸い敵達。それは毛糸をぐちゃぐちゃと丸めた様な形。

 私は最初彼らは宙に浮いて移動してるのかと思った。だけどよく見ると細い足が生えているみたい。


 弾丸や砲弾の衝撃で弾ける度に敵の体から紙吹雪みたいなものが飛ぶ。

 グロテスクにならないように配慮されてるんだろうね。

 こんな大量の敵をいっぱい倒すんだもん倒した体が残ったら嫌になるよ。


「あんずさん、この銃って弾とか無くならないの?」

「ST消費だけね。休まず撃っても1分くらい持つんよ。でもこのゲームを始めて、こんな戦闘が初めてだから間違ってるところもあるかもしれないから、その時はごめんね」


 まだまだカレンちゃんには余裕がありそうだから敵を見るのをやめ、カレンちゃんの近くで立っていたあんずさんのところに近づく。

 ずっと撃ちっぱなしで弾とか心配ないのかと思ったんだけど心配は無いみたい。


「おっでかいの出てきたぞ!」

「中ボス。……そろそろ出番」


 その時、後ろでミーちゃん達の嬉しそうな声。

 二人の方を見ると壁の外を指差して飛び跳ねていた。

 なんか動物園とかではしゃぐ子供みたいで可愛い。


 それにしても、普通の雑魚じゃない敵が出たってことは結構進行してるのかな。

 ふーちゃんなんてハサミを抜いて外に投げる準備までしてるし。


 空を見上げると球体はやっと半分赤く染まったくらいだ。

 色的にもボス的にもここが折り返し地点だね。


「カレン、あのデカイの集中的に撃ってくれよ。それで時間かかるなら私らがあれだけ狩るから」

「ああ任せろ」


 ダダッダダダダダダダダダ


 ミーちゃんが差す方向へ集中的に弾幕が撒かれる。


 ダダダダダダダダダダダ


 うーんカレンちゃんも中々に長い時間同じ場所を撃っているね。

 それだけ敵が堅いのか。

 手こずるかもしれないし私も何かする準備だけしとこうかな。


 まあまずはボスの姿を見なきゃダメか。

 どれどれ、弾幕を受けきる強い子はどんなご様子ですかな。


 再び外を見ると、大きな黒い毛糸の山がこっちの方に向かってきていた。

 上に乗ったら幸せな気分でぐっすり眠れそうなモンスターだ。

 その柔らかな実態のなさそうな体で銃弾も砲弾も受け止めているみたい。


「小さいの抜けてくるよ!」

「わかってる!」


 カレンちゃんがボスだけに構ってる隙に小さい子達はゾロゾロと脇を抜けて近寄ってくる。

 放っておいたらここに来るのは十秒くらいかな。


 はあ仕方ない。そろそろたくさん持ってきた黒水晶の使いどころだね。


 



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