四十二話 第一エリア突破
探し物なんて言ったってどんなものか、本当に背中の上に有るのか、どっちもわからない。
とりあえず他と違う部位がないかを見てみるのがベストだと思う。
グネグネ揺れる背中から落ちないように気をつけながら、私はまず近くの毛をかき分けてみた。
「うわぁ……」
長い毛に隠されたボスの肌。そこも毛と同じ濃い緑色。
うーん不健康な感じでますますイメージダウンだ。
私がちょっと引きながらそれを見ていると、肌のすぐ下では体液が前から後ろへ流れていることに気づいた。
細い血管で血を流してるんじゃなくて、体の中全部が血液みたいな感じ?
肌の色は不透明な濃い緑なのになんでそんなことに気づけたのかというと、たまに野球ボールサイズの球が流れているから。
……あっもしかしてあれって弱点になる?
ええっとええっと弱点だったら何をしたらいいんだ? 攻撃したらいいの?
皮を破って取り出すとかそういうグロい方向は無理だよ。
リッくんで叩けばいい? リッくんはまだ青い実の効果で鈍器になってるからボスの皮膚よりも堅いと思う。
私は手で持っていた毛を両足で踏んでリッくんを頭の上に構えた。
次にあの球が来たらリッくんで叩く!
スイーーー
来た! 2・1! 今!
「てりゃあ!」
ぷよーん
タイミングを計って落としたリッくんはちゃんと球の上に当たった!
「──ゥワォーーーーーーーーン!!」
「わわっ──あ、リッくん!」
リズムゲーのような私の攻撃がうまく決まり、ボスが鳴いて立ち上がった!
ほぼ垂直になる背中。
私は慌ててしゃがんで毛にしがみついて耐えたんだけどリッくんはコロコロと滑り落ちていっちゃう。
「ミーちゃん、ふーちゃん! リッくん落ちちゃった! 投げてちょうだい」
「あー? ちょっと待てよ、これ攻撃チャンスだろ。たぶん」
「回収した。後で渡す」
攻撃チャンスって立ち上がった以外に何か変化あったんだね。
まあ何かあっても私はしがみつくことで精一杯だけど。
ボスの向こう側からはミーちゃんの「てりゃ!」や「おら!」みたいな勇ましい声と一緒にボスの悲鳴。
ちゃんと攻撃出来ているみたいだ。
でも、そろそろ普通の体勢に戻って欲しいかな。
なんだか手が滑ってる気がするし。
「てりゃああああああ!」
「グワアアアアアァァっ──」
一際気合の入った咆哮をあげるミーちゃん。
ボスもその声量に負けない程の長い悲鳴をあげ、体が倒れた。
私は毛に掴まっていたから、ボスが倒れるのと一緒にその体に叩きつけられたんだけど、体が柔らかかったおかげでダメージは受けなかった。
このまま力尽きてくれれば良いんだけど……。
「ッフーーウウウウウッアア!!」
満身創痍な体でミーちゃん達から逃げようと暴れ、走り出すボス。
うーん走っちゃったか。
毛を掴んでいる手、それ以外の部分はただ寝そべって乗っかっているだけ。
だから、ボスが走ると上下に激しく揺れて体が浮いちゃう。どれくらい掴まっていられるか。
数分そのまま揺られる私。
壁にぶつかったりしないけど止まることもない。
今どこら辺を走ってるんだろ。
「ユー。リッくん」
ふーちゃんに呼ばれ、私はなんとか顔をあげる。
彼女はボスの進行方向上に浮いている。高さは背中の私よりももう少し高い。
それより今リッくんって言った?
「あっふーちゃん! って今!?」
たしかに寄越してって言ったけど! 私の両手はしがみつくのでいっぱいいっぱいなんだけど!
あっダメ、ホントに落とさないで、ああ届いて!!
ふーちゃんの下をボスが通る一瞬。その瞬間を狙ってふーちゃんがリッくんを投下。
私は揺れで視界も体勢もブレる中で腕を伸ばして、なんとか取っ手を掴んだ。
ホッとしてその取っ手へと腕を通そうとした時だ。
「ユーーー!! しがみつけ!!」
「ええ?」
ダァァァァァァアアンッ!
「ひゃああああああああああああ!!!」
この背中に乗ってから一番の衝撃を受けた。
どれくらいかというと完全に手が離れて、背中上で数メートル後ろに飛ばされるくらい。
「危ないよ!! 落っこっちゃうでしょ!!」
「悪い! 許してくれ!」
「わかった! 許す」
危なかったけどボスは止まった。
今の内にもう一回攻撃しなきゃ!
リッくんを構えて……あっ実の効果切れちゃってる。また堅くなってもらわないと。
さっきのは青い実だったよね?
私は実を入れようとリッくんの蓋を開ける。
「あれ、中にまだ実が残ってる? リッくん、お残しはダメなんだよ?」
リッくんの中には青い小さな欠片が何個か入っていた。
たぶん青い実を消化し終える前に固まったせいじゃないかな。
まあリッくんのお腹事情は本人に任せて新しい実を入れるよ。
もしこれがまた残っても、ボス戦が終わったら取り出してあげるから我慢してね。
残っていた青い実2個をまとめて入れて揉む。
ぷにぷにぷにぷにぷに。
「おっおお? っおお!」
2個入れたのが効いたのかハリセンボンの様にトゲトゲに膨らんでいくリッくん。
ついでに取っても持ちやすい棒状になる。
ひゅー! ついに生き物を捨てたんだねリッくん。
打撃だけじゃなくて刺突判定も乗りそうでパンクな見た目だよ。
「二人ともー! いくよっ!」
「オッケー」「おーらい」
私はリッくんを両手で持って太陽へ掲げる。
赤から青に変色した澄んだボディーにきらりと光りが通る。
次球が通ったら決める。
「リッくん刺アターック!!!」
振り下ろしたそれはボスの背中に刺さり、柔らかな皮膚をも食い破る。
パンッ!!!
風船が割れるような音がし、その穴から空気と液体が漏れだす。
私の立っていた場所も沈み、気持ちの悪い液体で足が汚れていく。
えっちょっとまって離れたいのにさっき以上に足が取られて動けない!
やだ汚れたくない! ばしゃばしゃかかるのやだあああ!
「二人供笑ってないで助けてえええええええ」
────────────
私を汚したボスの体液。
それがこの迷路脱出のキーだったらしく、尽きることなくエリア全体を覆っていき迷路の生け垣を枯らしていった。
あっ私を笑っていた二人もすぐにこの体液まみれになったよ。
三分くらい三人でぐちゃぐちゃに汚れて騒いでいたら、気付いた時には戦闘ステージ前の広場に戻っていた。
とうぜんカレンちゃん達も一緒だ。
「……ふふっ役立たず。歩かない帽子かけにでもなった方がいいと思う」
「ふん。今のうちに囀≪さえず≫っておけ。純粋な戦闘エリアであれば小鼠100人分の働きを見せてやる」
「終わって早々揉めるなよ二人とも」
集合してすぐにボス戦に間に合わなかったカレンちゃんを煽るふーちゃん。
戦闘大好きなカレンちゃんは今日戦えなかったのが随分不満みたいで今すぐにでも爆発しそう。
それでも銃を抜かないのはふーちゃんが疲れているからだろうね。対等な条件じゃないのは嫌いだから。
「そうですよお嬢様。今日楽させてもらった分は明日返せばいいんですよ」
「そうだよ! カレンちゃん、明日は期待してるからね」
「言われるまでもない! 明日は私一人で蹂躙して見せよう」
「ユー、ぼくもがんばる」
「うん、ふーちゃんも頑張ってね」
二人が頑張ってくれれば私は楽できていいからリタイアしない程度に頑張ってほしいです。
そんな感じで今日はお開き、続きは明日みんなが集合してからエリア侵入抜け駆け禁止に決まった。
そろそろ一つの区切りになる10万字ですね。
これからも更新がんばっていきたいと思います。




