四十一話 緑の海で探し物
うーん。足はダメで頭は堅くて……あっなら胴体は?
背が高くて私はうまく乗れないけどふーちゃんなら狙えるんじゃないかな。
もっとも私は乗れても乗らないけど。
「ふーちゃん、この子の体は攻撃できるの? ふさふさの方!」
「……ヒットはする」
私の声に応えて武器をボスのお腹に投擲するふーちゃん。
私と彼女はボスを間に挟んで立っている。
ガラガラな足の隙間からキャラクターが動いているのは見えるけど、投げた武器がどうなったかはこっちからじゃわかんない。
「でもダメ。手応えがない」
「そっか……なら! 飛んで直接狙うのは? それならいけるでしょ」
「ダメ。毛に毒があってぼくじゃ近づけない。真下も無理」
空を飛んで迷路脱出は無理だったけどこの子の上に乗るくらいできるんじゃない?
そう言った私に、刃を引き寄せ首を振るふーちゃん。
真下もと言ってボスの近くに刃を投げたのは耐えられるラインがそこらへんなんだと思う。
「そっか毒まで有るんだ。うーん、ん? 私さっきお腹の下通ったけど?」
「毒に気づかなかっただけじゃないか? ──悪い、一度離すから避けろ」
言うより早くミーちゃんが剣から手を離す。
すると、重りが無くなったボスは壁の方へと走っていく。
壁を使って剣を抜きたいのかな。
「わわっ! 危ないよ! あとミーちゃん、私でも毒なんかは気づくってば!」
足に巻き込まれないように飛び退いて私は文句を言った。
大きいとはいえボスは私がちょっと屈まなきゃお腹の毛に触れちゃう程の体高。毛の長さを考慮しても本体の高さは2メートル位だと思う。
そこをさっき通り抜けたんだから私も毒の影響を受けているはずだ。
そして毒なんか受けたら絶対に痛いと思う。でも、私は毒で痛みを感じていない。
痛みに慣れるなんてないし、私が気づいてないということは毒を受けていないんだよ。
「……あっ」
「どうした? ふー」
ボスが居なくなり、遮るものが無くなったからふーちゃんが私のところに歩いてきた。
彼女は近くまで来て私の顔を見ると何かに気づいたような声を出した。
頑張る私の可憐さに気づいちゃった?
「ユー、ぼくの帽子被ってる。それの効果」
「帽子? あっふーちゃんのプレゼント! 耐性ができるんだっけ。この子にも効果有るんだ」
このゲームを始めて次の日にふーちゃんから貰った帽子。
それは森エリアで出現する敵の攻撃に対する耐性を上げるという効果だったはず。
貰ってから装備変更とかもしてないから被っている事を忘れてたよ。
「ああそっか加護付きか。──あっならユー、お前がボスに乗ってみればいいんじゃないか?」
「えっやだよ。あの子気持ち悪いんだもん」
思わず即答。
今断るか? みたいな二人の視線が痛い。
でもだって気持ち悪いんだもん嫌なのは仕方なくない?
近くで戦うのだけでも褒めて欲しいくらいだよ。
「……なら帽子だけ貸せよ私がやるから」
「えー、ダメだよ。ねえふーちゃん」
プレゼントで貰った物なんだもん。そう簡単に貸し借りはできないよ。
それよりも一度、乗るって考えをチェンジしちゃった方が良いのかもね。
「……うん。ユーが被ってて」
「だよね! だからミーちゃ──」
「だから、ぼくが打ち上げてあげる」
「えっちょっと待って、今別のことを探す流れになったんじゃないの!?」
ふーちゃんがガシリと私の腕を掴んで木の方へ引っ張っていく。
陰に連れ込んでどうする気なの!? まだ明るいのに強引なのはちょっとダメなんだからね!
「大丈夫、信じて。ミー、引きつけて」
「いやっでも……」
「信じて」
「……はい」
ほんの少し乱暴気味に振りほどこうとしても全く腕が動かない。
これが前衛職とその他の差!?
「ははっユー頑張れよー」
「頑張りたくないー!!」
ミーちゃんの笑い声が遠ざかっていくのを聞きながら、私はふーちゃんと一緒に木の根元に座って気配を隠す。
たぶん今からの作戦はこう。
ミーちゃんがもう一度正面でボスを受け止めて隙を作る。
ふーちゃんが私を上まで送る。
そして私は上で何か倒す手がかりがないか探す。
ザックリとしていて、上に正解があるかも分からないけど二人はやる気だし止められない。
はぁ。何も危ないことがないと良いんだけど。
私は木の後ろに座って隠れながら、片手にリッくんを持ってもう片方の腕をふーちゃんの腰に回す。
ミーちゃんが敵を止めたら、ふーちゃんが武器を敵の上に投げてそこまで飛ぶ。
私はふーちゃんから離れないように抱きしめておけばたぶんオッケー。
トトトトトトトトトトッ
「……きた」
「だね。ふーちゃん、もし倒せそうなら倒しちゃっていいんだからね?」
「……とくべつ」
「うん? 特別?」
「とくべつ譲ってあげる。ユーに」
「そんな特別なら違うサービスしてよ!!」
「ふふっじょうだん。ユーならできる」
ふーちゃんは小さく笑うと敵を見るために顔をそらす。
その顔は木陰でもうっすらとわかるほど赤くなっていた。
珍しくジョークを言ったから照れてるのかな。
でもまあ、うん。
その様子が可愛かったし、私が頑張ってあげるのもやぶさかではない。
ミーちゃんと敵との接触までもうすぐ。
気合入れてロデオガール決めて上げるんだから。
「いくよっ」
「ふーちゃん。信じてるよ」
「うん」
ふーちゃんを抱いた腕に力が加わったと思ったら、体が宙に浮き、地面から遠ざかっていく。
移動スピードは走るよりずっと速く快適とは言えないけど中々に楽しいかも。
「あとお願い」
「わかった! ふーちゃんはもう行って!」
ボスの背中には飛んでからすぐに着いた。
ふーちゃんは私を上から落とすのではなく、一緒に背中の上に降り立ってくれた。
でも、そのせいで少し苦しげにしている。
私は彼女から腕を外し、もう離れるように伝える。
やっぱり帽子のおかげで毒が効かないみたい。
緑のふさふさした毛に覆われた背中。そこはウォーターベッドのように足が取られ歩きにくい。
背中自体はそこまで長くない、でも長い毛に覆われているから体の表面がどうなっているかわからなくて探し物は難しそうだ。




