三十九話 ほのぼのお食事タイム
「君も食べ疲れたんじゃない? 少し食休みってものも必要じゃないかなーってゴメン──」
喋ってる途中なのに私を食べようと噛み付いてくる。
そんなにがっついたってダメなんだぞ!
「ゥウアウ!!」
「やっちょっと待ってってば!」
もう、ウィンクまでサービスしたのに全然ダメだ。
ううー勘弁してほしいよ。攻撃手段がないんだよ。
使えそうなアイテムはあそこの果実くらいでしょ?
一度木の近くまで行ったんだけど拾う前にモップくんに襲われちゃった。
今私達は生垣の方に追い込まれていて、木はボスを挟んで反対側。
走って逃げたらなんとかなるかな?
でもあれが攻撃に使えなかったら、もう観念して本当におやつになるしかなくない?
どうしようか悩むよ……なーんて悩んでる暇ないんだけどね!
今まさに彼ったら噛み付こうと口開けちゃってるし。
「バウゥ!」
「ひゃんっ! やめてよね!」
鳴き声なのか顎が立てる音なのか。
どっちなのか分からないけど、私の体を包もうとそれは閉じられる。
包み込む様な抱擁はもう少し可愛く愛らしくなってからやってよね。
私はなんとか噛み付きをしゃがんで避け、リッくんの取っ手を掴んで中腰で敵のお腹の下を潜る。
お腹の下っていうのは、噛み付きというある意味予測しやすい顎よりも、何か変な攻撃手段がないか気にしなきゃいけない分疲れるよ。
それにしてもこの足って本当にただの角材だ。木目までくっきりしてる。
その堅そうな木材がスポンジのように弛んだりして私を踏みつけようと忙しなくデタラメに暴れる。
中腰のままお腹の下からで出て一度振り返る。
モップくんも丁度ぐねんと体を曲げてこちらを見ていた。
「ひっ────」
骨とか無いわけ!? なんなのあれ!
彼の体は海老反りで完全に折れていた。
お尻のところに顎が乗り、足の上半身側半分は天を向いている。
トスットスッ
「やめてよっ! せめて、普通に来てよ!!」
トスットスットストス
そのまま後ろ? を向いたままこっちへと走ってくる!
なんなのもうホラー入ってるんだけど!
私の走力とあのよくわからない走りはだいたい同じくらい。
このままじゃ木のところに行けても悠長に果実拾いなんてやってられないね!
でも片手で拾っていけるとこは全部取らなきゃ。
果実落下ゾーンに入った! まず一個。
さっと左腕を伸ばして赤い実をキャッチ。胸の前に持ち上げてアイテムバックにしまう。
手が空いたら次に届きそうな実。そうやって十個位の実を拾えた。
あとはどこか落ち着ける場所が……ないよね。
トストストストス──
だったら逃げながら使ってみるしかないの!? ああもうっそれしかないんだよ!!
一度しまい込んだ実から一つ取り、リッくんへ入れて揉む。
入れたのは赤い色の実だったと思う。
もし攻撃に使えるなら、安直だけど火属性の技になるのかな。
うん。リッくんは準備できた、一発撃ってみるよ。でもどのタイミングで撃てばいいんだ。
またお腹の下に行ったって折りたたんだ体を戻すだけですぐ走ってくるだろうし。
あーもう……いっそのこと見ないで撃っちゃう?
スタート位置から反対側にあったはずの壁がすぐそこに迫る。もう時間がない。
さっきからなんでこんなに急いで決断させるの? これじゃ考えなんかまとまらないよ。
よし! 決めた! 壁まで余裕ある今反転して撃つ。
回復薬は5個あるんだし、ダメージ受けても大丈夫。ちょっと痛いだけ。大丈夫。
3・2・1!
ズザッと個人的にカッコいい効果音鳴らして靴を滑らせ反転。
そのまま片膝を地面に着け、立てた膝にリッくんを置いて取っ手を引く。
ポフッ
赤いビー玉のような、ビーチボールみたいな丸い物がリッくんから出て私たちから1メートルも離れない空中で止まった。
なんだこれ、うーんどうする。攻撃なのかなんなんだぁ?
もう敵はすぐそこで今更立ち上がってももう逃げられない。
噛まれるよりは轢かれた方がマシ、たぶん。
私はリッくんをお腹にかばい丸まった状態でモップくんの足元に飛び込んだ。
トトトトトトトトトトッ
ただの足音もこの数まで行くと圧巻だね。生き残れるのかな、私。
大丈夫。痛いのはゲーム、ゲームだけ。
固く目を閉じ少しでもライフが残ることだけを祈った。
「うぅ……」
トトトトトト──
え、止まった?
すぐ近くまで来ていた音が止む。
たぶん目を開けたら足はすぐそばにあるはずだ。だからすぐに目を開けて確認しなきゃダメなんだ。
でも、ゲームなのに目を開けるのが怖くて。私は動けなかった。
今の状況のどこが怖いのか、それもわからない。
そんな回転の鈍った頭でもゆっくりと考えた。もう少しで私を踏めたのに止まった理由ってなに?
たとえば……私がダメージを考えて踏まれようとしたように、踏むよりも食おうとしたら──
「食べられる!!」
冷水をかけられた様な嫌な驚きで鈍くなっていた思考が戻される。
目を開き、勢いのまま首を横に。やっぱりだ……
私の視界に広がる密集した何百もの歯。それがゆっくりと閉じられた。
「──っううううううう」
顎が閉じられる瞬間、私は手前の歯を右手で掴んで押した。
相手の顔ではなく自分の体を。
そのおかげで上半身全体を食べられるなんて最悪なことは無かった。
だけど、痛みと一緒に私の右手がなくなっちゃった。
思ったよりも痛いし、ダメージ表現グロすぎない? 治るにしても限度って物があると思うんだけど。
もう泣きそうなんだけど。なんなのもう。
私が半泣きになりながらリッくんを持って立ち上がった時、背後の生垣が崩れ何かが入ってきた。
「ユー! はぁっはぁ……無事?」
「間に合ったのか? なら良かった」
ミーちゃん! ふーちゃん! 私待ってたんだからね!




