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三十三話 元気が有り余ってる人たち

 

 脱出を選択すると視界が暗転。

 数秒のロードを挟み私達は森の外のキャンプ地点へ戻ってきた。


「……んん。外に出れた?」

「どうやらそのようだ。どうなることかと思ったが、大したことも無い物だったな」


 転移の影響で落ちたライフルを拾い上げ、髪をファサっと決めるカレンちゃん。

 彼女からは相変わらず謎の自信が漏れ出ている。

 穴に落ちてすぐ寝落ちしたのに!


「カレンちゃんは寝てたでしょ!?」

「それはどうかな? もし本当に危険でも有れば起きたであろうさ」

「どうだかなー」


 絶対起きないと思うけど。

 まあ終わったことはいいや。

 それより一段落着いたんだし、このあとは違うことでもしようかな。


 戦闘は疲れたからもういいし。なにか面白いこと……あっ街の中探検でもしようかな。

 部屋借りれるとかいうのも見たいかも。


「カレンちゃん、これからどうする? 私は疲れたし街の方に行くけど」

「街か……流石に街では戦えん。ユー、今日は顔見せで済ませといてやる。次こそ相手をしてもらうからな」

「うーん、さっきも言ったけど勝負は他のゲームにしてよね。私、このゲームでは絶対やらないよ。襲ってきたら絶交まで行くからね」

「うむっ、それは困る。だが勝負出来ないのも嫌だな。……わかった貴様が気変わりするまで私から手出しはせん。だが諦めないからな」


 私と彼女の間では半年に一回くらい交わすこっちからの一方的な約束。

 彼女も常識的なラインで物事を弁えているし、実際今までそこまでのことは今まで起こっていない。

 だけど、一番嫌なことに対してだけ念押しの為に宣言する。今回はダメージのフィードバックが痛いから攻撃されたくないって事だけ。

 まあPVP以外で何か競ることがこのゲームに有れば着地点にできるんだけど。


「……ユー。なにしてる?」

「ふーちゃん? わっ!?」

「うぐっ」


 何かいい案あればいいなーとぼんやり思っていたら別の友達の声。

 上からの声に見上げるとふーちゃんが木から降ってきて、カレンちゃんの上に着地した。

 スポっという感じに、背の高い彼女に肩車される形で綺麗に収まるふーちゃん。  


「なにしてた? 今日も狩り行く?」

「ううん。今日はもう戦闘してきちゃったんだよね。それで疲れたから街を見ようかなって」

「……そう。ぼくも付いてっていい?」

「うん! 大歓迎だよ!」


 自分が乗っているカレンちゃんには声をかけず私に話しかけてくるふーちゃん。

 小柄な彼女が喋るたびにその小さな足がカレンちゃんの胸にトストスと当たる。


 私とふーちゃんが喋っている間、下の彼女は驚いた顔で固まっていた。

 チラチラとその様子を見る私。カレンちゃん怒ってないかな?

 ふーちゃんの顔とカレンちゃんの顔を何度か往復させると、ようやく再起動がかかった瞳が動き、私としっかり目が合った。


「……いつまでそこにいる? いい加減人の上からどいたらどうだ。小鼠め」


 口調はアレだけどあまり怒っていない丁寧な声色。

 よかった。驚いただけだったみたい。


「……ユー、このポール喋った? 新NPC? ……ハズレキャラだね」


 あー。逃げる準備! 開始!


「──ふっふふふはははは」


 タンッ!!


 ふーちゃんを乗せたままカレンちゃんが笑い出し、躊躇なくライフルを肩に当てて上へ引き金を引いた。

 弾はふーちゃんに当たらず空の向こうへ。


 組体操のようにカレンちゃんの肩の上で仰け反るふーちゃん。

 仰け反った勢いのまま地面に落ち、バク転で転がって距離を取る。

 その手にはいつの間にか剣が握られていた。


 二人共、そういうことは私の目の届かないとこでやってよね。

 私は流れ弾が来なさそうなテントの横まで逃げて、それを見ていた。

 でも、二人共戦闘始めようとしてるけど、こんな共有スペースで暴れて平気なのかな?


 ライフルを片手で操りふーちゃんに弾を浴びせるカレンちゃん。

 その弾丸をハサミで切り払いながら距離を詰めるタイミングを測るふーちゃん。


「それにしても……相手が小さすぎるというのも辛いな。目を凝らさねばホコリと見間違う」

「うるさいばーか。そのままでっかくなってある日天井に頭うって死ね」

「ふははははっ──展開! ステージ開放。斉射ようい!」


 あっなんかヤバそう。

 とうとうブチギレたカレンちゃん。声を張り上げ号令をかける。すると、彼女の後方にどこからか大きな石が降ってきた。

 その石は白色で表面に光沢のある滑らかな半円状。高さ0.5メートルくらいで半径は3メートルくらい。


 そしてその石の上には台座に固定された銃器が色々。

 カレンちゃんはライフルを投げ捨てふーちゃんを指差す。

 それに倣い火器群の銃口もふーちゃんを追う。


「やらせっない!」


 その銃の出現に少し驚いた様子を見せたが、ふーちゃんは双剣をハサミに戻して突っ込んだ。


 ピーーーーーーーー!


 ん、笛? 誰が?

 いつの間にか二人の間には片手にホイッスル、もう片手にイエローカードを持った審判みたいな女の人がいた。

 お姉さん、その位置危なくない?


 あっふーちゃん達固まってる。もしかして強制的に動けなくなってる?

 なら運営の人なのかな。


「はい。そこのお二人、ここは多くの人が通る場所です。ここでの戦闘は認められません」

「誰だ貴様。なんの権限で私を止める?」

「……ばか。GM」

「なにGM? っち、もう少しというところで」


 GMと聞いて舌打ちするカレンちゃん。

 二人が理解したのを見計らってお姉さんは両方の拘束を解く。

 ピッピッピッと笛を吹いて二人並んで立てと場所を指して指示を出す。


「はいはい。ちょっとお話聞いてくださいね? 規約にも有るのですが公共エリアでの│STLスタミナロック1以上の攻撃スキルは使用禁止です。それに殴り合いの喧嘩以外ではPVPも違反になります」

「わかったから罰を簡潔に言え」

「イエロー? ぼくは注意だけでもいいよ」

「ちゃんと反省してくださいよ? ルール違反したのはあなた達なんですから! ペナルティーはイエローです!」


 並んで立たされても全く反省が見えない二人にお姉さんもちょっと語気を強める。

 そしてイエローカードを二枚取り出して一枚ずつ彼女らに手渡す。


「わかった。だから早く自由にしろ」

「……運が悪かった」

「悪い? 運が良かった。だろ小鼠。醜態を晒さずにすんでな」

「また幻聴。バグ報告しなきゃ」


 イエローカードを持ちながらにらみ合ってる二人にお姉さんも呆れ顔だった。

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