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二十八話 たまにはアクティブに

 

 一応初心者同士の私たち。どっちも始めて二日しか経っていないのでこのゲームについてわからないことが多い。

 だから森を歩きながら、ゲームについて思ったことや知ったことを語り合う情報交換をしていた。


「リッくんはすっごく便利なんだよ。アイテムを変換してくれるんだから」

「だが消耗品なぞ無くなろうと買えば良いではないか。わざわざ上位のアイテムを下位に落とす意義があるか?」

「それだけじゃないよ。たぶん拡張パーツの効果なんだろうけど私のリッくん、強い攻撃も撃てるんだよ」

「ふむ。工夫すれば活用方がないわけでは無いということか。私はそういった小難しいことは嫌いだ。全て一発撃てば済む」

「ふふっ相変わらずデストロイ思考だね」

「当然だ。今更考えを変えろというのは無理なこと。私はこういう人間なのだからな」


 話をしながらも茂みに銃を向けることを止めないカレンちゃん。私に戦わせるという最初のすっかり宣言は忘れちゃってるみたいだ。

 少しでもモンスターの影が見えれば撃つぞという雰囲気が伝わってくる。

 この分じゃ今日も私は戦闘しなくてよさそうだね。

 私も楽なとこで戦闘に慣れとかなきゃいけないのに。


 なぜ嫌な戦闘をしなきゃダメなのか。それは大事な所で痛みを避けるためには常に準備が重要だから。

 私一人で遊ぶ分には戦闘全避けでいいけどミーちゃんやふーちゃんと遊ぶなら昨日みたいなボス戦も多くなるだろう。

 そうなると足でまといっていうのもなんだか気分が悪い。


 他のゲームなら多少の被弾なんて気にしないけど、このゲームはかすっただけでもそれなりにびっくりする。

 びっくりしたら体は固まっちゃう。固まったら色んなチャンスが逃げていく。

 だから、攻撃を避けられる範囲は知っておくべきなんだ。


「──わぁっ!?」

「え、カレンちゃん!?」


 銃を構え先行する彼女の後ろを歩いていたところ、急に彼女の姿が消えた。

 急いで彼女のいたところに行くと草に覆われた地面に底の見えない穴が空いている。

 これに落っこちたのか。

 下ってどうなってるんだろ。私も行くべきかな。


 一撃死とか有るかな。

 あっいや、よく見るとエリア切り替えのモヤエフェクトがかかってる。

 下は別のエリアに繋がってる? ……私も行こうか。一人にしたら可哀想だし。


「とおおぉぉぉぉ!」


 気合を入れ目をつぶって私は穴に飛び込んだ。



 穴に落ちた私たち。

 やっぱりエリアが切り替わったようで、目を開けると見覚えのない岩穴の中だった。

 けっこうな高さから落下したはずなのに、下に柔らかな草の層が有ったためダメージはなかった。


 私たちのいる岩穴は一目見ただけでも体育館数個分の広さがある。

 壁や天井は岩。その岩を覆うコケやそれらを貫き生えた木々。


 上の小さな穴からは僅かにしか太陽の光は届かない。だけども明るさは調整されていて少し薄暗い程度の感覚。

 洞窟全体は見通しがいい。だけれど露出した壁に横穴とかは見当たらない。


「ずいぶん落っこったね」

「……こんなエリアがあったなんて。ユーは知ってたか?」

「ううん。私も初めてだよ。全然探索なんてしてないし」


 前回も前々回も森に来てちょっと歩いて、すぐ帰ったからなあ。

 こういうエリア分岐みたいなことってよくあるんだろうか。

 どんどん下りていくダンジョン的なマップじゃないといいんだけど。


「ふむ。どこかに脱出できる通路が有ればいいのだが」

「そうだね。それにいざとなればアイテムで脱出すればいいし、ちょっと探索しよっか」

「ああ。この非常時だ私も出し惜しみせず力を振るおう」

「ここまで出し惜しんでる様子全然なかったけどね」


 とりあえず壁沿いに歩いてみるのがベストかな。

 もしエリア移動が下へと通じる落とし穴だけだったならアイテムで帰るよ。

 底が見えないダンジョンなんて気分で来るもんじゃないし。


 一応ミーちゃんにメールしとこ。ここがどんなところか知ってるだろうし。

 彼女は今インしてないから一瞬VRを切ってスマホからメールを送る。

 脱出経路を見つけるまでに返信くれればいいけど。 


 パァーーーーーンッ


「ひゃ!? どうしたの? 敵?」

「……いや、木が揺れているだけか。驚かせてすまない」 

「そう? ならいいけど」

「うむ。次あら……気をちゅけ──」

「カレンちゃん!? どうしたの!! ……寝てる?」


 唐突に銃を撃ったかと思えばカレンちゃんは銃を抱いたままその場に倒れてしまった。

 敵の攻撃でも有ったのかと様子を観察するとキャラクターは目を閉じ、寝息が聞こえる。

 これって……状態異常ではないよね。


 優しく彼女の顔を叩く。無反応。

 アイテムバックから状態異常用のアイテムを出す。無反応。

 ……ね、寝落ちだこれ。ちょっとなにもこんなとこで寝ないでよ。


「えっ起きてよ! ねえ! そんなに眠かったんならあんずさんと一緒に休めば良かったでしょ! 起きてたんなら今も起きててよ!」

「……ふふっ。どうしたぁわたしぃの勝ちだじょ」


 だめだすごく気持ちよさそうに熟睡してる。

 ……このまま放置して帰っちゃダメかな。


 まあそれは冗談としておっきな荷物が出来ちゃったんだしさっきより真面目に帰り方探さなきゃ。

 インスタントゲートって別のプレイヤーを担いで移動させたりできるのかな。

 そんなことを悩んでたらスマホが鳴った。ミーちゃんからメールだ。


 そのメールによると私たちがいるのはザコ敵が大量に湧くランダムマップらしい。

 脱出方は中の敵を一定数倒すか負けるかのどっちか。

 勝って条件を満たすと下の階に挑戦するか選択肢を貰えるそうだ。


 ……うん。私が負けるのは論外だから倒そうか。


 カレンちゃんを壁際に寝かせ、リッくんに乗せていた人形もそこに置いて大きく背伸びする。

 このゲームを始めて今日で三日目。いい加減操作法には慣れた。

 あとは敵の攻撃判定に慣れなきゃ。

 まあそれでもダメージを受けないで倒すくらいのことできるでしょ。


「リッくん! 真面目に戦うよ!」

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