二十七話 天然系ストーカー
「……っていたぞ。ユー!」
「うん?」
森に入るエリア切り替えポイント。そのすぐ前で誰かに呼ばれた気がした。
誰の声かと立ち止まり、周囲を見回すけど人は見えない。
「待っていたぞ! 私のライバルっわわっ!」
「んん? うわっ……」
誰もいなかったので無視して先に行こうとしたら、木の上から人が降ってきた。
ズシャっと嫌な音が出たけど、その人は気にせず立ち上がって私の方を見る。
「久しいな。我がライバル、ユー」
「久しぶりだね……カレンちゃんもこのゲームもやってたんだ」
「当然。貴様が居るならば私もだ」
「うん。だよね……」
木の上からサプライズ登場をかましてきた人物。
それは背が高く髪はショートカットでドレススーツを着た一見王子様にも見える女の子。
高い木から落ちてきて、顔色一つ変えずに話しているけど足がヤバイ感じにガクガクしてる。
彼女の名前はカレンちゃん。
私が新しいゲームに手を出すとどこからかその情報を仕入れて目の前に出現する子だ。
勝負関係以外ではいい子なんだけど、私の中では私専用のストーカーNPCなんじゃないか疑惑が出てる。
彼女が私をライバルって言うのはどんなゲームでもプレイの腕前が同じくらいだから。
でもプレイレベルは同じなのに私は彼女に負けたことはない。
どんなゲームでも私の構成が何故か彼女へのピンポイントメタになるから。
だけど彼女は負け続きでもこうやって元気に勝負を挑んでくる。
そういうメンタル的な所は見習うべきなのかもね。
「私今一人で遊んでるんだけどカレンちゃんも一緒に行く?」
「良いだろう。ふんっ私に手の内をさらけ出すがいい。……ユー、すまないが移動前に傷薬をくれると助かる」
「グシャって言ったもんね。ちょっと待ってね」
バックから回復薬を取り出して彼女の足に塗る。
カレンちゃんは自分でアイテム持ってないのかな。
彼女はいつもメイドさんと一緒にゲームをやってて、そういうサポートは全部任せてる。
だから今日も自分では回復すらないんだろう。
「そういえばカレンちゃんも一人なの? あんずさんは?」
「そう一人だ。あんずとは先程までは一緒に居たんだが、今に貴様が来るだろうとあいつは寝てしまったよ」
「へー珍しいね。カレンちゃんを一人で置いてくなんて。それにもう寝ちゃったんだ」
あんずさんはカレンちゃん専属のメイドさんで、私と同い年のカレンちゃんより二つ年上のお姉さんだ。
カレンちゃんが何をしてても横にいるんだけど今日は居ないらしい。
しかも留守な理由が寝るからって。まだけっこう早い時間だよ。
ちなみに私の行動スケジュールがバレてるのはもう慣れたのであんまり気にしてないです。
「ああ。少しゲームをし続けたから疲れたのだろう」
「……あのさ、二人がこのゲーム始めたのっていつ?」
「貴様と同じ日だ」
「今のレベルは?」
「一通りクラフト済みだ」
「二人で?」
「当然だ。妥協はしない」
「そっかぁ……」
たぶん一昨日からずっとゲームしてたんだろうね。
お疲れ様あんずさん。
主を私に押し付けて今頃ぐっすり眠ってるであろうメイドさんに心の中で手を合わせる。
「私適当に歩こうと思ったんだけど何かやりたいことって有る?」
「ない。今日は貴様の実力を観察すると決めた。さあ行くぞ」
「このゲームPVPはメインじゃないと思うんだけどなあ」
すぐ張り合ってくるところ以外はいい子なんだけど。
私はカレンちゃんをPTに入れ、森の中に入った。
エリアに入ったらまず天井の球体をチェック。昨日みたいに敵が居ないとつまんないしね。
うん。敵は減ってないみたい。
なるべく弱い敵を見つけてふーちゃんから貰った帽子の効果でも試そうかな。
耐性アップの威力とかは検証しておかないといざという時頼れないから。
「……貴様が連れてるそれ。それはなんなのだ?」
「んー? なんなのってリッくんだよ。マイルームに居たでしょ? 私テイマーさんなんだ」
「マイルーム? ああ、手配だけさせまだ利用していなかったな。それにしてもテイマーとは貴様手加減のつもりか?」
「……手加減って誰にさ。ただこのゲームでは安全に行こうって思っただけだよ」
森に入るとカレンちゃんは今更リッくんに気づいたのか、立ち止まってしゃがみこんだ。
私がリッくんの説明をすると、彼女は口を緩ませ嬉しそうに笑った。
「ふっ……とうとう私の勝つ時が来たのだな。──いや皆まで言わずとも大丈夫。私も多少は追われる苦しみというものを理解している」
「何も言ってないんだけどなぁ。というか私を追いかけてるのはカレンちゃんだけだよ」
私はそんなご機嫌な彼女に少し苦笑いしモンスター探しに戻る。
ガサガサッガサガサ
正面の草が揺れている。何か居る。
えーっと耐性で防御を試したいんだし敵は何が出てもいいや。
うん。一応黒水晶も出しておこうかな。
パァーーーーン
え!? 何? 銃? けっこう大きい、どこから!?
私がモンスターとの遭遇に備え準備をしていたら銃声がし、狙っていた草むらが爆散した。
今の絶対プレイヤーの攻撃だよね。他のプレイヤーがいるの?
狩場が重なるのはしかたない。あとから来た私たちが離れたほうがいいか。
「流れ弾に当たるかもしれないし離れよ? カレンちゃ……」
「ん、ああすまない。ここ二日こういった狩りばかり行っていたせいで体が動いてしまった」
銃声がやたら大きいと思ったら、私の真横でライフルを構えている人がいました。
弓を射るように長い腕を伸ばし、片手でライフルを水平に保つ。
非効率的だけどカッコ良くて絵になる美しさ。
カレンちゃんって銃を使うクラスなんだ。
……さっき私の実力を見るとか言ってたのに即自分の能力見せちゃったよこの人。
「カレンちゃん射撃職なんだ。好きだもんね」
「ん? ああ……まだ隠しておくつもりだったのだが」
「いいじゃん。カッコよくて似合ってるって。一緒に遊ぶんだから隠すことなんて無理だしさ」
「……それもそうか。そもそも、情報を隠し貴様に勝ってもつまらんからな」
「お互い情報フル開示でも戦わないけどね!」
このゲームはPVPメインじゃないんだよ。




