二十三話 そろそろお休みの時間です
ええーボスのおかわり?
今いい感じに解散って流れだったじゃんもう。
ドラゴンの骨から這い出てきたのは土で出来た人型モンスター。
大きさは2メートルくらいで細長いシルエット。
下半身はロングのスカートを履いたような末広がり。
上半身は何も着てなくてほっそりとした修行僧みたいに見える。
その細い体には六本の腕が生えていて、手のひらをこちらに向けながらひらひらと揺らしている。
体全体が汚れた土でできているのにその手だけは透明で、キラキラと太陽の光を通していた。
「おっちょうどいいじゃん。当たりだぞ!」
「当たり? ……出てきたことがすでにハズレだよ」
もうやめる気でいたから私の体は完全にお休みモードだよ。
こういう時って効率とかじゃなくもう全部後ででいいやって気になっちゃう。
「おいやる気出せって。コイツって経験値稼ぎモンスターだぞ。コイツだけで60まで上げられるんだから」
「経験値なんて後でゆっくり貯めればいいじゃん。めんどくさいよ」
「……大丈夫。すぐ終わる」
私の腕をふーちゃんがひっぱる。
うーん可愛くて高得点だけど今はそれでもやる気出てこないかな。
後で抱き枕にでもなってくれるんなら話は別なんだけど。
私たちが敵の前でグダっているとボスエリアを隔離している檻が薄暗くなっていく。
よく眠れそうなプラネタリウムみたいな雰囲気。
でも私に気持ちいい眠りをくれるってわけじゃないよね。
やっぱり暗くして襲ってくるのかな。できれば一発も喰らいたくないんだけど。
と思ったらボスの六本の腕に色が点いた。イルミネーションみたいにピカピカだ。
右下から赤、青、黄色。左下からオレンジ、紫、緑。
綺麗に光るそれを上下にウェーブさせ、とても素晴らしいお祭り感。
「なんか綺麗だね。なに? もしかして見てるだけで経験値くれるの?」
当たりで経験値稼ぎってそういうことなの? だったら私ここで横になって見てるんだけど。
それともダンスでも一緒に踊ってレベルアップなら、諦めつつ喜んでご一緒するよ。
──キンッジャキンッ
どこからかスポットライトが照らされ、地面にはボスの手の色と同じ光が六つ。
なんだろこの演出。あの光に入れってことなのかな?
……きっとそうだよね。
ジャキ──キンッ
だからその光が二つ私の周りをくるくる回ってるのも、ミーちゃんふーちゃんがもう敵のところに走って行ってるのもきっと演出だよ。
そうだよね? ……私置いていかれて囲まれちゃってるんじゃないよね。
ジャ──ジャキンッ
……はぁ。そろそろ無視できないよ。さっきからなんなのこの音。
ハサミみたいな音なんだけど、やたら大きくて怖いんですけど。
どこからしてるの!?
ジャキンッジャ──
んん? あぁこれ光から聞こえてる。
やっぱり中に何かいるんだね。
私の周りを回っている赤とオレンジの光。
私は音を聞こうと地面に顔を近づけていた。
ジャッジャッジャッ!
「んっ?」
音の間隔が急に早まったと思ったら光の中から剣が飛び出してきた。
その剣を避けようとして尻餅をついちゃった私の前で赤の光が止まる。
土の床、それを照らし作られた直径1メートルの赤い光円。
その光と土の境目をとっかかりに這い出す影。
光から現れたのは1メートルの土人形。
デフォルメされた赤い鎧と大きな剣。手足、頭部は大きく3頭身でコミカルなキャラ。
また召喚系か。さっきのドラゴンもメイン攻撃は土で作った遠距離技だったよね。
でも大きくて大振りなそれとは違って、今度の敵は小さい。
小さいけれども剣を持ってる分のリーチもある。
うーん逃げたいし眠い。
「ユー! なにしてんだこっち来い!」
「むーりー」
ミーちゃんが向こうで私を呼んでるけど今襲われてるのにそっち行けるわけないよ。
敵がいなければ胸に飛び込んであげるから早く助けてよね。
上段から振り下ろされる剣を避けながらそんなことを思う私。
相手は私よりも小さい。なので上段から振り下ろしても剣の軌道は私の頭じゃなくお腹あたりをメインに通っていく。
敵は体のサイズを剣のリーチで補ってはいる、だけど腕を伸ばして振るから円形に鋒が動く。そうしたら当然ヒットする有効範囲は狭い。
……冷静にやったら避けるのは簡単だ。向こうが終わるまで避けてるのも可能だと思う。
でも、眠いし時間が惜しいから全部壊して行こうか。
もし攻撃喰らって痛かったら目が覚めていいかもしれないし。
外れた剣を再度持ち上げ馬鹿の一つ覚えに上段に構える土人形。
「遅いよ」
私は黒水晶を一つリッくんに入れて揉むと人形の横に回ってレバーを引いた。
シュバッッ!!
薄暗闇に映える雷がリッくんの口から吐き出された。
それは人形の上半身を消し飛ばし檻まで伸びる。
今回私は前回の反省から撃つ前に片目を閉じていた。
そのおかげで視界を奪われずに済んだ。
電気の届いた範囲を見て思う。
水晶1個でも20メートルは飛んでる、ということはやっぱりメインとしてそれなりの火力あるねこれ。
檻から足元に視線を戻すと頭を砕かれた人形がその場に崩れていた。
……これってゴミ? リッくんおたべ。




