二十二話 ヘイトの行方とおかわり
リッくんの一撃でボスに勝った私たち。
周りにはキラキラ光るボスドロ品がたくさん。
使う使わないは置いといてアイテムじゃらじゃらはいつの時代も楽しい。
拾ったアイテムはこんなところ。
ほとんどが骨でダブりばっかりだった。
【竜骨の破片】
R3
素材アイテム。
合成により龍属性(弱)を与える。
【朽ちた龍の心臓】
R4
素材アイテム。
合成により龍属性(中)を与える。
【湧き出る汚泥】
R5
設置式アイテム。
効果時間中、範囲内に泥の沼を出現させる。
みんなで楽しいアイテム回収をしながら私は考えていた。
さっきはなんで私ばっかり狙われてたのか。
私は攻撃もなにもしていなかったのに。
もしかしたらまたミーちゃんが何かしてたのかな? ちゃんと聞いておかなきゃ。
「ねえさっき私ばっかり狙われてなかった? ミーちゃん何か使ったの?」
「んー? そうだったか? なんか今日はデレてんなとは思ってたけど」
「うん。確かにユーの方にヘイトいってた」
「だよね! 私大変だったんだよ!」
ミーちゃんはアイテムを拾う手を止め、こっちを向いたけど知らないって言ってる。
彼女がイタズラしてたらすぐに顔に出てにやけてると思う。
だからこんなに上手に嘘は隠せないはず、なら別の要因が有るのか。
「……ユー、ステ見せて」
「オッケー」
ふーちゃんに言われウィンドウを開く。
あっけっこうレベル上がってる!
でも相変わらず数値低いけど。
ネーム :ユー
種 族 :人(女)
職 業 :テイマー
レベル :25
攻撃力 :30
守備力 :20
移動力 :8
装備重量 :10
職業スキル
指揮範囲 :1
威 圧 :8
観 察 :5
「おーもう25レベルなんだ。これっていい調子?」
二日目で25なら今週中に上限の60いっちゃうんじゃない?
「……ミー、これ」
「ああこれか、というかなんで一つだけ上がってんだか」
「なんの話? 私にも教えてよね」
私はレベルの上がりっぷりを見て喜んでるのに、その私のステを見て二人はたぶん別のことを言っている。
もう私のことで内緒話なんてやめてよね。
友達なんだから、はぶっちゃダメでしょ。
「わるいわるい、原因はこの真ん中のスキルだ」
ミーちゃんが欄の真ん中にあるスキルを一つ指差す。この汎用っぽい威圧ってやつだね。確かに一個だけ8に上がってる。
一応詳細を見ておこう。
【威圧】
テイマー系限定スキル。
主従関係を結んだモンスターの忠誠度が上昇する。
8ならば初期忠誠度5のモンスターまで適応される。
あんまり変なこと書いてあるようには見えないけど何がダメなんだろ。
「スキルの威圧。これ自分のモンスターが指示を聞きやすくなるって効果なんだけど、実際はペットにならないボス系からヘイト集めるだけなんだよ」
「そもそもこのゲーム、これがなくても指示全部従ってくれる」
「だよな。指示聞かずに暴れるのなんて捕まえたばっかりの奴くらいだわ」
二人は原因がわかってスッキリな感じだけどもうちょっと詳しく教えてよ。
「でもなんでこれでヘイト集めになるの? ちょっと命令聞かせるだけのスキルなんでしょ?」
「……うーん。ユー想像しろ、まずお前は自分の部屋でくつろいでいます」
「くつろぎ方って自由? ベッドで寝ててもいい?」
ベッドの上でくつろぐ。うーん、ベッドの上で何してるんだろ私。漫画でも読んでるのかな。
ゲームとかは椅子に座ってやるし、ベッドでお菓子食べたりなんてしないし。それくらいしかやることないよね。
「好きにくつろげよ。……それで何か物音したなと思ったら、部屋の真ん中にネズミがいました」
「ミーちゃん本物のネズミってみたことある? 私好きだよネズミも」
ベッドで漫画を読むほど暇なときにネズミなんか出たらちょっと喜ぶかも。手のひらサイズだしふわってるし。
害獣だとしても可愛いんだよね。外に逃げてくなら見逃してあげるかな。
「……で! ネズミが言うんだよこの部屋は乗っ取ったから出て行くんでちゅーって。ムカつくだろ?」
「ちょっと待って! もういっかいちゅーって言ってみて」
今のかわいい『ちゅー』でイメージの中のネズミがミーちゃんに変わった。
つまりちっちゃいミーちゃんが私の部屋でドヤ顔しながら強気なことを言う。
……いつものミーちゃんだよこれ。
「は? 嫌だよ。つまりお前は弱いのに喧嘩売ってると取られてたの」
「いいじゃん、ね? ちゅーってさ。あっふーちゃんも一回言ってみて! お願い!」
「……ちゅー?」
「いやんかわいい」
ふーちゃんのちょっと首をかしげながら言うちゅーが可愛すぎる!
これはミーちゃんも対抗するべきなんじゃないかな? ちらっ。
「やらないってば。ふーも甘やかすのやめろ」
「ちゅー」
「もう。いじわるなんだから。でもなんとなく分かったよ。このスキルをどうにかしなきゃダメなんだね」
レベルが60まで行けばスキルとかをカスタム出来るって聞いたしそれまでちょっとだけ我慢かな。
雑魚モンスターは二人がワンパンで倒してくれるし。
ボスなんて相手にしなきゃいいんだよ!
「レベル上げは僕が手伝うからすぐいける」
「うん、ありがと! でも今日は時間も遅いしやめよっか」
「だな。久しぶりに竜骨補充できたし私は満足だ」
時刻は深夜の12時近く。今日もそこそこ長くゲームしちゃったね。
私は『おやすみ』と二人に言って、ログアウトしようとシステムを開く。
「あっ……」
だけど、彼女の声に気を取られ、そのボタンが灰色になっていることに気づかなかった。
「ふーちゃんどうかした?」
「確変入った」
「──え」
尋ねた私に見えるようふーちゃんが剣で指した先、そこに有るのは倒したばかりの龍の骨。
骨に開いた大穴。そこから何か人型のモンスターが生まれようとしていた。




