二十一 山のボス戦2
ビームを吸収するって決めたんだからまず準備しなきゃ。
攻撃を避けながら、ビームを出す灯篭の生えてこない壁際にリッくんをセット。
あとはのんびりビームを待つだけ。
広場の中央ではミーちゃん達が本体と戦っている。
ミーちゃんが刀を突き刺すたびに、ふーちゃんが剣を降らせるたびに、ボスの体から泥が剥がれ動きが鈍っていく。
落下した泥の破片は土に帰らず消滅する。
そのまま地面に残っていたらボスに再吸収されそうだもんね。
おっ向こうの地面がボコッと盛り上がってる、攻撃が来るよ。
あの感じは腕じゃなさそうだし──
「出た、灯篭!」
ボスと戦ってるミーちゃんの横に灯篭が生えた。
龍の形をしたそれは真横のミーちゃんじゃなくしっかり私の方を見てる。
あれのタゲがミーちゃん達の方に行ってくれたら私は楽できていいのに、なんでこっちにだけ攻撃してくるんだろうね。
まあなんにせよ相手の攻撃にハズレ判定を出すため、ギリギリまで待って避けるだけ。
形成が終わり灯篭に光りが溜まり始める。石の口からそれの余力が湯気のように溢れる。
灯篭が現れてからそのチャージ完了までだいたい5秒。
私はその5秒が終わるまで動かない。
あれは一度出現してビームのチャージが始まれば横にズレるだけで簡単に避けることができる。
でもそれだと私が避けたことになるのか、それともターゲット不在で目標がリッくんに切り替わるのかわからない。
だから万全を期す為に動かない。
光が強く、強くなって──今!!
「やっ!」
私の心臓に狙いを付け貫き焦がそうとするビーム。それを私は地面に飛び込んで避けた。
ジジジッと電気のような音を残しビームが私の体横を通っていく。
背中の辺にちょっと痛みが有ったけど大丈夫! ……大丈夫、ちょっとしか痛くないよ。ほんと。けど一応あとで回復薬塗ってもらわなきゃ。
「リッくんどう? 出来た!?」
アイテム確認のために後ろを見ようとしたけど横から攻撃音が聞こえる。もうっリッくんと遊ぶ暇も無いよ。
ちらっと右を見ると出現した攻撃は土くれの蛇だ。向こうの準備が整う前に起き上がってよける体勢を整える。
まっすぐ飛ぶけど3、4回避けると粉々に砕ける蛇。これもできればリッくんに食べさせたいけど出来るかな。
蛇は一瞬体を縮め、それを伸ばすことによって10メートル位の距離を飛ぶ。攻撃が外れると落下地点でまた素早く丸まり方向転換だ。
私はそれを一人だけ残ったドッジボールの内野手みたいにピョンピョン転がり避ける。
落下地点からただ私の方へ飛ぶだけなのでリッくんへの誘導はビームよりやりやすいかも。
いーち。にーい。さーーん。よん! おっけーリッくんにパース。
ヒュポンッ
「ふぅ……」
今度は見ずとも吸い込み音で成功がわかる。さあ急いで確認だ。
一応左右と後ろを見てからリッくんに走りよる私。
「さあリッくん! 成果を見せてちょうだいな」
安らぎのプニボディーを抱き上げ、パカっと蓋を開ける。
中にはアイテムが二つ。一個目は大きくて透明な玉。占いとかで使う水晶の球みたいなアイテムだ。
もう一つは茶色く飾り気のない輪っか。サイズは私の頭が通るくらい。
どっちも見ただけじゃ効果がわからない。なので一度アイテムバックにしまって名前をチェック。
まず球の方。
【灯篭の種火】
R4
効果時間中、使用者に状態【導きの加護】を付与する。
~揺らめく炎に道をゆだねよ。さすればあなたは成功へと到るであろう~
……ちょっと効果がわかんないや。
たぶん探索系のアイテムかな? でも今は使わないよね。
よくわかんないのは保留、さてさてもう一つはなんだろな。
【蛇の光輪】
R3
投擲アイテム。
着火後数分間自動で敵を追尾し爆発する。
光輪? 茶色いのに?
ちょっと名前負けしてるんじゃない? でもそこがいいね、私好きだよそういうの。
爆弾なのもいい。レア度低いけどさっきのよりもこっちの方が使う機会あるだろうね。
ガガガガッ
あっと……また攻撃だよ。
今度生えてきたのはドラゴンの両手。二階建てサイズのそれが私を潰そうとモーションを取る。
うーん。ボスの攻撃も吸えるってわかったしちょっと反撃しちゃいますか!
上を見ながらちょっと移動し、アイテムバックから黒水晶を三個取り出してリッくんに入れてモニュモニュっと揉みしだく。相手はボスだから黒水晶も多めにいっちゃおう。
あの叩き潰す攻撃は両手の間が安置だ。つまりここね。
バスーーンッ
私のいる1メートルほどのスペースを除き、周囲に土の壁が降ってくる。
景気づけだしこれに撃っちゃうか。
リッくんを抱いたまま壁に一歩近づき、腕を伸ばして体から離す。
そしてレバーを下ろす!
ッカ!!!!
石と石をぶつけたような乾いた音。その瞬間私の視界は封じられた。
「ひゃっ!?」
音は小さかったけどすっごい眩しい……なんでだろ。周りが壁だから? というか目がくらんで何も見えない。
今新しい攻撃来たらちょっと困るかも。
取り合えずしゃがんでリッくん頭に乗せとこ。
「ユー!!」
「……ミーちゃん? なーにー?」
「おまえー! なにやったー!!」
「えー? なにもしてないよー!」
やっと少しだけ視界が戻ってきた。土壁は消えてて、広場中央の方からミーちゃんがこっちに走ってくる。
んー? なぜにこっちへ? それになんだか違和感が……あっボス居ない!
ど真ん中に生えていた大きなドラゴンがどこにも居ない。私の目が見えない内にトドメ刺してくれたんだ。
「おーい! 戦闘終わったんだねー!」
私はリッくんを地面に置き、立ち上がって手を振る。
走ってきたミーちゃんも片手を上げ、私の手にバチンッと強いハイタッチをしてきた。
「痛いよ、ミーちゃん」
右手をさする私をバンバンとミーちゃんが叩く。痛いってばちょっとやめてよなんなの!?
「そんなことより! ユー! すごかったぞ!! さっきの!」
「だからなんの話? あっ攻撃避けてたこと? あれは頑張ったよ」
「違う違う、ボス倒した攻撃だよ」
「ボス? 穴空いてるの……?」
ミーちゃんに促されボスの方に近寄る、すると化石状態のボス頭に大穴が開いていた。
え、もしかしてこれさっき撃った攻撃!?
す、凄いよリッくん! 私の目に狂いはなかったんだね!




