十六話 お部屋で火遊びいけません
ミーちゃんの部屋は本当にかわいい物で溢れていた。
私のマイルームは物置か何かだったんじゃないかと思えるほどのコーディネートだ。
まあ私はまだそこら辺に手をつけていないだけと言い訳できるけど。
「部屋とか飾れるゲームって多いけどこの視点で見るとすごいね」
「だろ? 私も集めるの大変だったんだ」
飾られたぬいぐるみを一つ手に持って私が言うと、ミーちゃんは嬉しそうに苦労話を始めた。
その内容は素材集めや制作のこと。
今後のプレイに参考になるだろうしおとなしく聞いておくよ。
「そこの棚のぬいぐるみって少しはユーも見たことあるだろ?」
「んー? そう言われれば見たような気も。うーんみんなモフモフでいい感じだね」
「だろ! これ全部このエリアのモンスターなんだよ! ここのヤツらはふかふかでプレイヤーに人気が有るんだよ」
そう、棚のぬいぐるみたちは数回行ったあの森のモンスターを再現したものだったのだ! ……私は数体しか見たことないから気づくの遅れたけど。
数え切れないくらいに並んだモンスター達。私はミーちゃんの話を聞きながらそれを一通り眺める。
あっこの毛玉! 最初に出てきた麻痺+ダメのいやらしい子じゃん。
「ねえこれって触っても平気? しびれない?」
「大丈夫だよ。このゲーム、アイテムの毒抜きとかやる必要があるのが面倒でさ。それ作るときなんてリアルタイムで三日もかかったんだぜ」
「ふーん。おーすっごいふわってるねー」
また嘘付いてるんじゃないかとちょっと疑いながら触ったそれ。
ネズミを模したぬいぐるみはコントローラーグローブ越しでも伝わる軟らかさだった。
なぜネズミとわかったかというと毛玉の中に三角の鼻とつぶらすぎる瞳が隠れていたから。
毛玉を棚に戻して手は隣の黒ウサギへ。この子は電気雲みたいなモヤ? を飛ばしてきた子だよね。
あんなに私を追い回してくれてーこいつー、ああでも毛並みがすべすべつるるんだから許しちゃう。
「へいミーちゃん! ビリビリー」
「はいはい、びりびりびりびり。……ユーそいつと戦ったことあるんだ? 強かっただろ」
「ほんとね! 私めっちゃ追われたよ。あっでもそのおかげでリッくんの使い方わかったんだよ!」
「ああそういやそんなこと言ってたな。んでなによ戦い方って」
私がうさちゃんぬいぐるみを構えてポーズを決めてあげたのにミーちゃんったら超適当な対応。
でも私とリッくんの活躍が聞きたいって言うなら話しちゃうよ。
できれば森の中とかで実戦しながらカッコよくお披露目したかったんだけどさ。
「ミーちゃんこのアイテムって知ってる?」
私はアイテム欄から黒水晶を取り出してミーちゃんに見せる。
彼女は顔を近づけてそれを覗き込み。そして残念な子を見るような顔でこっちを見た。
「ユー、それ銃系のやつに使うアイテムだぞ」
「知ってるって! でもそれ以外にも使えるんだよ!」
「ほんとかー?」
「じゃあ見ててよ? えーっとまずリッくんを揉みしだきます。そしたらそしたらー」
すっかり存在感の薄くなっていたリッくんを抱き上げ棚の上に置く。
その次に両サイドから優しくムニムニと柔らかボディーを堪能します。
さすれば気分はすっかり盛り上がってきますね。
ムニムニぷにぷにうへへへへ。
「……まだか? ユー」
「っは!? ちょっと天国に行ってたよ。こうやって揉んでるとねほら蓋が開いて──」
リッくんの四角いボディー天辺についた蓋がパカっと開く。
リッくんをまた抱えてミーちゃんにその中を見せる。
中に何もないのを確認させてから黒水晶を中に入れた。
「ん? 取り出すとこじゃんそこ」
「だと思うでしょー? ふふーん」
「うざっ」
「まあまあ黙って見てなさいな。アイテムを放り込んだらもう一揉み。そしたら完了です」
小さくだけどペカペカ音が聞こえてきた。準備完了もちかいね
「ところでユー。もしかしてそれ攻撃技をこんなとこで使う気じゃないよな」
「何言ってんのミーちゃん。戦い方って言ったでしょ!」
話聞いてなかったの? もう失礼な子だよ。
あとはこのレバーを引いたらバーンだ。
3・2・1!
「ドカーーン! ……あれ? ってなにやってるのミーちゃん!?」
「ふざけるなよ!! 人の部屋で変なことするな!」
発動したと思ったのに何故か何も起こらない。
なんでだろうとリッくんを見たら、乱心したミーちゃんが装備していた剣でリッくんを貫いていた。
リッくん!? ミーちゃん流石にこれはダメだよ。
「ミーちゃん! 私のリッくんに何したのさ!! これは私でも怒るよ?」
「うるさいっての。何したって動き止めただけだし、マイルームで誤爆して家具消滅は初心者がよくやるミスの鉄板ネタだぞ」
ミーちゃんに言われてよく見たら確かに剣はリッくんの体に当たってない。
「リッくんは大丈夫だよ! だってさっき使った時私ダメ受けなかったもん!」
「じゃあ自分の方を向けて撃ってみろよ」
リッくんを抱えてくるっと私の方へ向けるミーちゃん。いや、それはあれだよ。
「部屋の中で撃つなって行ったのはミーちゃんだよ。それはよくない──ごめんなさい」
部屋の中で火遊びは良くないってのは常識だよね。やめようよそんな危ないこと。
ピンポーン
私が両手を上げて頭を下げていると部屋のチャイムらしきものが鳴った。ふーちゃんじゃないかな? 待たせるのも悪いし早く入ってもらおうよ。
私は両手を挙げたまま部屋の入口らしき方へ向かった。