十三 リッくんの可能性
あとはこの能力をどう攻撃に活かすかだね。
攻撃のモヤも止み、私は森の中を歩いていた。
右手の中でさっき手に入れた黒水晶をカチャカチャと遊ばせる。
今すぐに使い道はないんだろうけど新しいアイテムって良いよね。
それにしても……リッくんが敵モブの攻撃を無効化できそうだとしてもさ、あのモヤの様に遅い攻撃なんてそんなに多くないと思うんだ。
結局接近された時や素早い攻撃からは戦わずに逃げなきゃない。
そこらへんの対応も考えないとダメだね。
まあそんなこと急いで考える必要もないか。
たぶんそろそろ待ち合わせ時間だし一度森から出ようかな。
……さてさて街ってどっちだろうね。
立ち止まって右左右と見渡す私。どっちも同じような森で道らしいものもない。
このゲームってマップ機能とかないのかな。
システムウィンドウを開いて色々見てみる。
おっマップあるじゃん! ……あっだめだ歩いたところが埋まるタイプのマップだこれ。現在地らしき場所が黄色い点で表示され、その周りにだけデフォルメされた森が描かれている。
せめてもの救いはマップの外に赤矢印が付いていて、街の方角だけは分かるってとこくらい。
まあその反応も左右に一個づつあってどっちから来たのかわかんないけど。
うーん。メールで連絡したら来てくれるかな。
……ミーちゃんはオフだ。ふーちゃんのIDはまだ知らないんだよなあ。
よし! 決めた。右の方の街を目指すよ!
ダメでも歩いてればその内あっちから連絡来るだろうしね。
元気よく右へと踏み出した時だった。
くにゅっと何かを踏んだ。嫌な予感しかしないんだけど。
そうっと下を見ると、靴のそこから伸びた黒い毛皮。
またうさぎだあああああ!!
咄嗟に反対へと逃げる私にさっき以上の速度で追いかけてくるうさぎ。
悪気があったんじゃないって! 事故だよ事故! というか道端にいないでよね! ん? あっちが地面で寝てたなら悪いの私じゃないじゃん?
悪いのはこの子だよ。許してあげるから巣に帰ってよ!!
うーんしつこい。もう百メートルくらい走ったんじゃない?
この手のアイテムぶつけたら効果とかないかな。
いや、特殊効果がなくても石が当たれば痛いでしょ。
「うさぎが電気なんか出すんじゃないよもう!」
私は振り返り、右手に持った黒水晶を黒うさぎへとぶつける。
コーーーンといい感じの乾いた音。
うさぎの額に当たった水晶は何も起こさず、すっと消えた。
「……ダメだね」
ミーちゃんふーちゃん助けてよーー!
うさぎは全くダメージを受けた様子がない。それどころか怒りでもましたのかスピードが上がっている。
ああもう捕まっちゃう。ええっと何かないの? UIが不便すぎるよこのゲーム。
何か危機脱出方はないか走りながらシステム画面を適当に見る。
あっ間違ってリッくんのステ開いちゃった。
閉じる閉じる……ん? 変なとこ押しちゃった? もう忙しいってのに!
私が開いたのはリッくんの行動を管理する画面だった。
プレイヤーの後ろについて来いとか、戦闘エリアでの自動行動を設定するところだ。
アイテムの拾い食いや所持アイテムのオート消費なんかの項目がある。
所持アイテムって私のバックかリッくんが作ったものかどっちだろう。
って考えてる時間がないんだって。全部ONでいいよこんなの。
目に付いた項目をONにし画面を急いで閉じる。
さっきみたいに木で撒いて遠距離攻撃だけ避けようかな。
それの方が確実だよね?
木、木、木、木、木うーんいいサイズの木がない。
もう面倒だし最悪死に戻りでいいかな。痛いの嫌だけど追っかけっこも飽きてきたんだけど。
死に戻りといえばリッくんて移動技あるじゃん! あれで逃げればいいんだよ。
走りながらリッくんをキャッチ。もにゅもにゅと体を揉んでタイヤが回るのを待つ。
もにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅもにゅ……
全然動かない!!
「お願いだよリッくん! 何とかしてよ」
ペカペカッペカペカ
私の祈りが通じたのか、リッくんに反応が有った。
アイテム生成時みたいな点滅を繰り返す。今って何か食べてたっけ?
ああ走りながらだと忙しくて頭回んない。
ペカーっと大きな音を出してリッくんの蓋が開いた。やっぱり何か入ってたのか。
私はリッくんを斜めに構えて右手をその中に入れた。
「ん? 何も入ってないよ? リッくん」
その体内はぷにぷにするだけでなんのアイテムもなかった。それどころか──
「あっアイテム取らないでよね」
先ほど自分が出した黒水晶を私の手から奪い取り、どこかにやってしまった。
アイテムを奪うとリッくんは私の腕を外に追い出し蓋を閉じてしまう。
結局なんだったの?
すると、リッくんの上、私の視界を塞ぐように小さな矢印が現れた。
なんだろこれ。リッくんどうしちゃったわけ?
取り合えずリッくんは地面に下ろして走る私。
矢印って何指してるんだ? リッくんの体……じゃないか。もうちょっと上の、取っ手? 何があるってのさ。
私は逃げながらリッくんの取っ手を掴んだ。そんなに力は入れていないはずなのにそれは簡単に後ろに倒れ。
ガコンッ
「っえ?」
バシュゥゥゥゥゥゥッ──
「うるさっ! なんなの!?」
まばゆい目くらましと耳に残る炸裂音。
目を細めて見れば、リッくんはが吸い込み口からまばゆい電撃を吐き出していた。
明日も昼くらいに更新します