十二話 リッくんの特技
木を突き抜け現れた黒いもや。
それはパチパチと火花のようなものを飛ばしながら平行にゆっくりと移動している。
これってさっきのうさぎの攻撃なのかな。
私を見失ったんじゃなく遠距離攻撃に切り替えただけ?
ゆっくりまっすぐ飛ぶ攻撃って高威力なイメージあるよね。
オブジェクトも壊れてるし。
その黒いもやを避けてどこまで飛んでいくのか見守る。
それはスーッと飛んでいき10メートルくらい先で消滅した。
場所変えたほうがいいね。
あの攻撃はこっちを追尾してる気配がない、場所だけを狙ってるなら少し移動するだけで当たらないでしょ。
「リッくん、いこ」
攻撃の方向から反対、斜め後ろの方に私は移動する。
でも戦いたくは無いけどすぐ逃げてばっかりなのもどうなんだろうか。
こういうアイテム採集の自衛くらいどうにかしなきゃダメなんだろうなあ。
投擲武器とか攻撃呪文なんかの一方的に敵を倒す方法が有ればいいんだけど。
クラスもお供も変えずにさ。
「──ひゃっ」
そんなことをぼんやり考え視界をキョロキョロさせていると現実の方で椅子が倒れてしまった。
椅子に座りながら体を左右に振っていたせいでバランスが崩れたのだ。
幸い転んでも体を痛めることはなかった、だが黒いもやが来る。
「おっとぉ」
体を横に転がしそれを避ける。もやは草を焦がし、私がいたところを通り──
「リッくん!!」
もやの進む先にはリッくんがいる。私は避けるように命令するが、指示は微妙に届かない。
もやはリッくんに吸い込まれるように近づき、爆発した。
黒の塊から青白い稲光が発生し私は思わず目を閉じる。
直撃しちゃった?
カバンから回復薬を取り出し、体を起こしてリッくんの元へと近寄る。
あんまりダメージ受けてなければいいけど。
近寄る頃には煙が薄まりリッくんの姿もうっすら見える。
良かった、あんまり見た目にはダメージなかったみたい。
赤いプニボディは少し煤がついただけで弾力性も何も失われていない。
私はリッくんを抱きかかえ、ステータス画面を開きながら慎重に歩く。
ん? ダメージ受けてない? 弱めたとかじゃなくノーダメージだ。
しかもなにかリサイクル品まで持ってる。
もしかしてうさぎの出す攻撃をリッくんが飲み込んでアイテム化した?
なにそれ無敵じゃん。
ちょうどその時ペカペカとアイテム生成完了の合図。
開いた蓋の中に手を入れると硬い石のようなアイテムが一つ。
それは黒い石で私の人差し指位の細さ。黒い表面の奥に黄色い水晶が埋まっている。
なんだろこれ。攻撃アイテムなら良いんだけど……説明見なきゃ。
もやが飛んできた方を見ながら木に寄りかかって座りアイテム画面を見る。
【黒水晶(雷)】
ガンナー・砲術師専用アイテム。
武器に装着し使用することにより中に封じられた雷を解放する。
……あんまり私には関係ないアイテムみたい。
まあ相手の攻撃もアイテムに出来るっていうのがわかっただけでも大きいかも。
リッくんに盾役を頑張ってもらおう。
パシュパシュ……
私たちの正面からまたあの黒いもや。
私はにやりと笑って立ち上がり、リッくんを胸まえで構えた。
「ちょうどまた飛んできたね! もう逃げないよ」
むしろこっちから迎えに行ってあげる! さあアイテムになりなさい!
私はリッくんと一緒にもやに近づき、そして──爆発した!
「──ひゃああああああああ」
なんでええええええ。すっごいびりびりするんだけど!?
痺れて地面に転がる私。HPは半分くらい消し飛んだ。
どういうことなの吸収できるんじゃなかったの!?
アイテムバックから回復薬を取り出し自分とリッくんに塗る。
スーッとした匂いが気持ちいい。薬一本で回復量は四分の一くらい。
2本づつ回復薬を使って立ち上がった。
「なにか条件があるってことなのかな」
さっきの状況を思い出せ、私。
寝転がった私にもやが来て、それを避けてリッくんに当たって、治そうと思ったらダメージがなかった。
ということは?
誰かが攻撃を一度避けるとか?
やってみよう。それなら私は痛くないし。
リッくんを木の前にセット。私はその前に立ってもやが来るのを待つ。
パシュパシュパシュッ……
来た! 私の方にまっすぐで真後ろにはリッくん。これで避ければいいんだよね。
もやは遅いので分かっていれば歩いてでもよけられる。
数秒前に私がいたところを通ってもやがリッくんに向かい、爆発!
どう? 一応回復薬を取り出して煙が晴れるのを待った。
「良かったあ!」
そこにはダメージを受けた様子のないリッくんだけがたっていた。
狙ったプレイヤーが避けると攻撃はハズレ判定になりゴミとして認識されるってことだね。
二個目の黒水晶(雷)を持って私はこの可能性にワクワクしていた。