十一話 一人だけの森林浴
ミーちゃんとも別れて帰宅。
二人との約束は夜7時から。現在の時刻は夕方5時前。
うちの夕飯は早くて5時半くらいまでには食べ終える。
うーん、ご飯食べても時間あるね。それまでちょっとやってようかな。
お母さんと一緒にご飯を食べ終え、学校の準備も済ませて……よし。
今日は椅子にキャスター付きの回る座りながらVRヘッドセットとグローブを装着。
電源をつけてゲームの起動を待つ。
薄いドームに包まれた巨大な島とタイトルが表示され、ログインをクリック。
暗転して数秒、私は昨日のテントの中に戻ってきた。
「ただいまーリッくん!」
ベッドの脇に居た赤いぷにぷにを抱き上げ感触を楽しみながら椅子で回転する。
あっやばい椅子の速さに視界がついてこなくて気持ち悪い。
「……ちょっと待っててリッくん落ち着いてね」
止まったのにまだ目がギュワンギュワンと回ってる。
二十秒くらい待つと気持ち悪いのが無くなりどうにか歩けるようになった。
「よし! 行くよリッくん」
リッくんの状態を追尾に変更してテントの外へ!
テントの外には今日もたくさんのプレイヤー。
それぞれが一人で、あるいはパーティーで森の方へと歩いて行く。
このゲームってMMOだからモンスターって取り合いなんだよね? ほかの人の邪魔にならないようにしなきゃ。
私はその人の流れに乗って森にいく。
昨日は気づかなかったが、森に入る時も街と同じくエリア切り替えのぽわっとしたエフェクトが有った。
それを受けて一歩踏み出すといつの間にか周りに居た人達が消えていて、近くにいるのはリッくんだけになっている。
ミーちゃんと一緒に来た時は分かれなかったんだからパーティーごとに遠くへ飛ばされるんだろうね。
ボスでもない戦闘エリアで他のプレイヤーから隔離されるなんてないだろうし。
何はともあれアイテム採集でもしよう。
でもどれがアイテムだ? 昨日ミーちゃんが見分け方を教えてくれたような、教えてくれてないような。わかんない。
取り合えず掴んでみればわかるかな。
私は近くに生えていた草を一枚ちぎってみる。
ポンっと音を立ててそれは黒いゴミになった。
「リッくんご飯だよー」
そのゴミをリッくんに食べさせながら赤色の葉っぱも取る。ゴミ。
その横の青い葉。ゴミ。黄色い葉。ゴミ。ゴミゴミゴミゴミ。
「ゴミばっか!! こんなにゴミだけなら森なんて燃やしちゃって焼却炉にでもした方がいいんじゃないかな」
次々出てくるゴミに嫌な気分になる。
「次は……この黒い葉っぱだよ。お願いだからアイテムになってね!」
私は祈りながら緑の茂みより突き出た黒く平らな長い葉を引き抜く。
だが想像していたブチッとした葉がちぎれる感触が無く、なにか重いものを持ち上げた感覚が有った。
「ん? もしかしてアイテムに!?」
喜んで見たそれは、黒い毛皮の大兎だった。
「モンスターだあああああああ」
私がモンスターと認識した瞬間、その子が急に重たくなり私は手を離してしまう。
プレイヤーに認識されるまでは重さとかが無効化されてるのかな。
って考え事の前にさっさと逃げなきゃ!
大黒うさぎ君はいかにも戦闘任せろ! みたいな表情でこっちを見ている。
戦いは嫌です。さようなら!
私は、現実の床を蹴って椅子を回し、画面が後ろを向くとすぐに走り出した。
道もない草の中に突っ込む私。
思った通りアイテム化されてないものに触れることが出来るのはグローブだけ。
それ以外の部位には草の当たり判定が無いらしい。
でもまっすぐに走れたからってどうしよう。
後ろからはザッザとうさぎ君の追跡音がやまない。
どこかで撒けるかな。ん? あの木あたりが良さそうだね。
少し遠くに見える横幅が2メートルはありそうな木。その影に隠れよう。
視界を振ってリッくんの位置を確認。
近づいて来た、リッくんに手を伸ばして確保。よし、ここ!
リッくんの取っ手を引っ張り私は木を曲がった。
うさぎ君の足音を聞きながら木の周りを回る。
早くいなくならないかな。
足音に追われて木を回ること数週、いつの間にか足音は聞こえなくなっていた。
「ふぅ……良かったあ」
視界移動のため現実でもくるくる回ったせいで思ったよりも疲れた。
VRヘッドセットを外して汗を拭いていると突然体にピリピリと痛みが走る。
「いったあ……なにぃ?」
慌ててヘッドセットを着けるとパシュッっという音が聞こえていた。
なんなのこの音? 足音じゃないよね。
周囲を探ると、大木の幹に手のひらサイズの穴がいくつか空いている。
この穴が空く音?
パシュウゥゥゥゥ
まただ、せめて何が出してるのか見なきゃ。
ちょっとだけ距離を取って幹を見つめる。
音と一緒に木を食い破って出てきたもの、それは黒いもやだった。