九話 現実ではむにむに
翌日
朝起きて牛乳サラダトーストの朝食。
急いで食べ終えるとすぐ制服に着替えて家を出た。
「行ってきまーす!」
バスに乗って学校に向かう。運良く席に座ることができ、車内での暇な時間にスマホで攻略サイトを見ていた。
あのゲームに今どんな要素が実装されているのかをサイト左側に並んだタブでチェックする。
おすすめレベリング方や序盤の効率的な金策。
職業別の育成方針、ボス別攻略。
他にも色々項目がありすぎた。
いくら暇でもその全部を見る時間はないか。
なら一番必要そうな、テイマーの項目かな。
職別のテイマー項目を開くと更にプレイヤーのおすすめ装備やモンスターの捕獲方、育成方なんかが載っている。
「育成だよね」
リッくんの姿を想像しながら呟き、それを選択。
「モンスター多いなあ」
育成可能モンスターだけでも数十種以上いるらしい。
リッくんのページ探すのだけでも大変そう。
検索ワード入れてっと。あっ一番下だったのか。
「えっと?」
種族名 リッくん
最大レベル 20
最大攻撃力 100
最大守備力 200
移動力※ 3
固有スキル アイテム変換
(※とはオプションなしノーマル状態)
備考:
言わずと知れた看板モンスター
初心者テイマーは外へ連れ出せるという理由のみで連れ歩いているがそれはおすすめできない
なぜなら上限レベルが20と平均値を大幅に下回っていることや、申し訳程度の攻撃力も攻撃方が無いため
更に固有スキルのアイテム変換もリッくんが部屋にいるだけで使用できるのでわざわざ外で使うメリットは少ない
ただ、着せ替えて連れ歩くの文字通りマスコット役としてならその豊富なバリエーションを活かすことができるだろう
総じて、戦闘に飽きた場合や他プレイヤーとの交流目的の場でしか役に立つことはない
すごい断言の仕方だ。たぶん普通にプレイする分にはこの通りなんだろう。
でも、私はエンジョイ勢だから!
野良でパーティー組んだりする予定もないし、そもそも戦闘する気なんてないからね。
本当の意味で詰むまでリッくんでいくよ。
プシューーー
決意を新たにしてるとバスが学校前で止まった。
私が通っている学校は生徒数700人くらいの中規模な物。
バスの外には電車通学の生徒や徒歩の生徒で溢れていた。
私は他の生徒達と一緒にバスから降りその群れに混ざる。
さあサクっと勉強して、ゲームだよ!
校門を通りグラウンドを歩いていると前方に小柄な影を発見。
私は人ごみの隙間を縫って近寄り、抱きついた。
「やっほーミーちゃん! いえーいむにむにー」
覆いかぶさるようにジャンプで飛びかかる。
「きゃっ──ユー! 危ないだろっ降りろ!」
「ノー。むにむにー」
後ろから親友を抱きしめたまま腕をクロスさせ、その体をむにむにと堪能する。
あー安らぐー。
昨日の分まで回収させて貰うよ。
「……おはようユー、ミー。こんな暑い日によくやるわね」
ミーちゃんに乗ったままむにむにし続けていたら友達のシーちゃんがやってきた。
彼女は薄いカバンを日よけのように頭上に掲げている。
確かに太陽強くて暑い……。うん。すっごい暑い。
──でもまだいける!
「おはようシーちゃん、ほんとに暑いねー。溶けちゃうよもう」
「だったら降りろ! 私のほうが暑いわ!」
ミーちゃんが超暴れてる。しょうがないなあ開放してあげるよ。
私が腕を離すと汗だくなミーちゃんがよろけて出てきた。
「暑いのにくっついて来るなよ馬鹿」
「ミーちゃんが抱き心地良すぎるのが悪いんですー。ねえシーちゃん」
「いや、やめなさいよユー貴女も汗すごいわよ?」
シーちゃんの言葉にミーちゃんがほらと言いたげに睨んでくる。
もう、そんな顔されても可愛いだけなのに。
「シー、もうユーを置いて行こう。あいつは太陽にやられてもうだめだ」
「あっ待ってよミーちゃん!」
疲れたようにミーちゃんが校舎の中へ入っていくのを私達は追いかけた。
午前中の授業をなんとか耐え切り、お昼ご飯。
私は朝の二人と更にもう一人ふーちゃんを加えた4人でお弁当を食べていた。
机を四つ並べ、私の横にシーちゃん、正面にミーちゃん、その横にふーちゃんの席順。
正面のミーちゃんはゲーム内キャラにスラッとした大人の女の人を使っている。
だけど実際には私より十センチほど小さい可愛らしい子だ。そして小学校時代からの親友でもある。
よく一緒にゲームをして遊んでくれる。
シーちゃんとふーちゃんはこの学校に入ってから仲良くなった子達。
シーちゃんはふんわりとしていて包容力があり、それでいてしっかりと話もまとめてくれる子。
勉強もたまに見てくれるし抱きついてもあんまり怒らないから好き。
ふーちゃんはミーちゃんよりも更に小さいけどその事を武器として自覚してる立派な子。
あと可愛いもの好き仲間としてよく市中見回りについて来てくれるよ。
「ユー、できれば夏の間だけでもくっつくのやめてよ」
ご飯を食べ終え、お話しているとミーちゃんが暑いのか胸元のボタンをあけ、ダルそうに言った。
「だって暑いんだもん。それくらいの楽しみがないと夏を乗り切れないよ」
夏の日差しを耐えるには同じぬくもりが必要なんだよ。
「だってってただでさえユーでかいのに体温も高いんだっての」
「でかくないよ!? 平均! 値許容範囲だからね!?」
年代別の身長平均値ジャストくらいだよ。
「……ミーがちいさい」
牛乳を飲みながらふーちゃんが仲間になってくれる。
「ふーも変わらないだろ。今更牛乳飲んでも無駄だぞ」
ミーちゃんはやる気なさげにふーちゃんの牛乳を指差す。
「僕は……これがベスト。この牛乳もファッション」
「ファッション牛乳ってなんなのよ……ユーも控えなさいよね」
「はーい。一日十分位にしまーす」
「だからやるなら、ふーにやれよ」
「うぇるかむ」
右手の親指をクイッとふーちゃんの方に倒すミーちゃんと、両手を広げるふーちゃん。
「ご招待されたら喜んでお邪魔するよ!」
私が勇んで立ち上がると、予鈴のチャイムがなった。おしい!