八話 最初の街で
ミーちゃんと二人で道路を少し進むと、ポワッというエフェクトと共に街の姿が鮮明になった。
そのエフェクトの部分がエリア切り替えのポイントなんだろうね。
街に入った私たちが立っているのは十字路のど真ん中。
左右に伸びた道路沿いにはカラフルなレンガや瓦で飾られた住宅街。
中央に伸びていく道路のずっと先に大きな塔が見えた。
街の様子はけっこう私好みのごちゃごちゃとした造り。
明らかに上の重さを支えきれそうにない積み重なった家、やたらと連絡通路がぐるぐる張り巡らされたビル。
入口がなく2階に登るハシゴだけが見えるお店屋さん。そんなゲームでしかありえない利用しづらすぎる建物達。
そんなふざけた建物を等身大のサイズで見れるのもVRの良いところなんだろうね。
ミーちゃんがまず中央塔でキャラの正式登録をしようと言うから真ん中の道を二人で歩く。
道すがらチラチラ見える建物もそれぞれ個性が有って、似たような物はない。
ここは冒険前にアイテムを揃える商店街らしく、どの店にも看板がかけられている。
その看板にはゲームオリジナルっぽい言葉が書かれているけど、そこを注視すると上に日本語訳が浮き出てくる。
「このゲームってゲーム内通貨で部屋を借りれるんだ。ひと月単位でさ。街に入ってすぐにあった一戸建てはそこそこ値が張るけどアパートとかなら月1万コインくらい」
「それって安いの? このゲームの金銭感覚知らないんだけど」
ステータス画面の所持金項目にいくらか数字書いてあったきがするけど覚えてないや。
「安いよ、真面目にお使いでもすれば溜まるし。まあそのレベルだとさっきのテントと変わらない内装だけど」
「ふーん。あとで適当にやってみるよ」
それにしても街だけあって人が多いね。プレイヤー同士で当たり判定があるからよそ見してるとぶつかっちゃいそう。
私たちが歩いてる道路だけでも行く人来る人数十人はいる。
見た目も個性豊かで人を見てるだけってのも楽しそうかも。
男の人や女の人、どっちかわからない人に人じゃない人。
装備してる物も剣やハンドガン以外にながーい槍とか弓矢、キラキラの斧なんかもいる。
他にも──
「ミーちゃん! モンスターがいるよ!」
プレイヤーよりおっきな黒い馬? 角が何本か有るから違うのかも。
鞍を着けた小さなドラゴンなんかも居た。
「ユーと同じテイマーの人だ。モンスターを捕まえるのも餌代もすごい大変だけどかっこいいよね」
「うんかっこいい……あっでも! 私はこのリッくんを鍛えるよ。一回の失敗で諦めちゃダメだからね」
「だからその子は戦闘用じゃないっての」
「それでも! だよ」
カッコいいドラゴンや前のボスみたいなモンスターを手懐けたらそりゃ見た目も戦闘力も良いけど、あえて私はこのリッくんで頑張るんだよあえてね。
「何考えてるか大体わかるけど、私は大変だと思うよ。それ。っと、着いたぞユー中に入って登録」
「はーい」
まずキャラ登録して、攻略サイトか何かでハイ効率育成法を学んで、そしてそしてえーっと。ゆくゆくはトップテイマーだ。
中央塔は外観が青白い石で作られていて、高さは見上げてもわからない。だけどかなり高い。
自動ドアを通り抜けると、円上のフロアとその中央に同じく円状に並んだ受付カウンター。そして数人NPCのお姉さん。
「あのお姉さんに言えばいいの? NPCだと分かっても自分の声で言わなきゃダメだと緊張するね」
「いや、話しかける言葉さえ認識してもらえればそれ用の案内が出てくるよ」
「親切設計だ。よし、ちょっと待ってて」
ミーちゃんを残して私は中央カウンターまで近づいた。
受付のお姉さんNPCかわいい!
お姉さんは数人いて、顔は全員同じだけど髪型と髪の色がそれぞれ違う。
「あっあのー」
私は青い髪のお姉さんを選んで声をかけた。
すると無表情に真正面を向いていたお姉さんが私の方を見てニコリと微笑んでくれる。
あざとい。でも好き。
お姉さんは笑顔のまま両手を机の上に乗せ、手のひらを上にした。
するとそこにシステムウィンドウが表示され利用規約などがずらずらと流れてきた。
それを流し見しながら指でスクロールしていき、最後の承認チェックボックスに丸をつける。
画面が切り替わってウィンドウ上に私のデータが表示された。最初から3レベルも上がってたらしい。
このゲームは職業の切り替えが難しいらしい。
なのでここまではチュートリアルとして複数の職業を気軽に試せて、ここで登録すると以後転職に大金が求められるようになるんだとか
私はテイマー以外試してないけどね。というかテイマーすらあんまりわかってないけど。
無事登録も終わり、離れようとしたらお姉さんがお別れの挨拶に手を振ってくれた。なので私も手を振りながらミーちゃんのところに戻った。
「登録できたね? じゃあ今日はそろそろやめる? 家とか明日でいいでしょ」
「だね。あっログインする時ってどこスタート? ここ? それともテント?」
「まだ家がないからテントだ。でも近いしいいじゃん」
「そうだね。じゃあお休みー」
システムからログアウトを選択すると穏やかなBGMと一緒に画面が暗くなりタイトル画面に戻った。
そのままヘッドセットの電源を落として頭から外す。
「うーーーーん。疲れたーー」
私はヘッドセットやコントローラーグローブを机に置いて体を伸ばす。
このゲームは座ってもプレイできる。だけど最初だからと私は気合を入れて立ちっぱなしでプレイしてた。
だから思ったよりも体が疲れていたみたいで、お風呂に入って部屋に戻る頃にはものすごく眠く、学校の準備をそこそこに私はベッドに潜り込んだ。