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第9話 ぼくとエミーリアと深淵の怪物 ※R-15

 おはようございます、ぼくはスライムです。

 ええ、朝です。

 カーテンの隙間から、日が差し込んできます。

 ぼくは日の光にさらされて少しばかり目を細めました。

 ぼくの隣では今、上掛けの下は一糸まとわぬ姿のエミーリアが安らかな寝息を立てて眠っています。


 あ……あのですね。


 ぼくと、エミーリアはですね。


 よ、夜中に親睦しんぼくを深めました。


 ……。





 うっ……はい、あの、しました。


 あ、でもですね、ぼくは紳士ですので、まだ発育途上のエミーリアに対して最後まではしませんでしたよ!

 もちろん、彼女を怖がらせないように人型で、ですけれど。

 ……ただですね、昨晩はエミーリアをたくさんかせてしまいましたが。

 や、あの、鬼畜な行為は一切していませんからね!

 努めて優しく、丁寧に接しましたよ。

 やー、しかし以前、先輩の屋敷で綺麗なお姉さんたちから手ほどきを受けておいた甲斐がありました。

 女性の体でどこが気持ち良くなれる場所なのか、とか、ムード作りも大事だ、とか、「いや」と「だめ」の「気持ち良い」の意味の見分け方とか、大変勉強になりました。

 それに淫気もたくさん摂取できましたよ!

 真名を奪った相手だからか、本気で摂取したエミーリアの淫気は格別美味でした。

 体中に活力がみなぎっているのを感じます。

 ああ、これでエミーリアが大人の女性になったときは、一体どれほどの淫気が摂取できるのでしょう。

 とても上質な淫気を持つエミーリアです、今から楽しみで仕方がありません。


 ああ、浮かれるなって?


 わかっていますよ、一時の羽やすめだと思ってください。

 あ、エミーリアのまぶたが震えています。

 もうすぐ起きるのですね。

 そして僕の予想通り、エミーリアがぱっちりと目を開けました。


「おはよう、エミーリア」


 ぼくの声に、エミーリアは一瞬固まったあと、恥ずかしそうに両手で顔をおおいました。

 彼女の体温が急激に上昇するのを感じます。

 耳たぶまで赤くなっているので、本気で照れているのでしょう。


「エミーリア、君の可愛い顔を見せて?」


 ぼくがそう言うと、エミーリアはぼくに背を向けてしまいました。

「いやっ! 天使様が、あんなことをするとは思わなかったです」

 ぼくはくすくすと笑いながら彼女の耳元でゆっくりとささやきます。

「あんなこととは? 君に口付けしたこと? それとも君の体を隅々まで舐めたこと? ああ、もしかしたら君に刺激を与えて何度も絶頂させたことに対して怒っているのかな?」

 僕はそう言いながら、エミーリアの背骨に沿ってゆっくりと指を這わせます。

「あ……天使、様っ」

 エミーリアがぶるりと震えました。

 昨晩の余韻が残っているのでしょうか。

 ぼくは続けざまにこう言います。

「ねえ、エミーリア、ぼくを選ぶということはこういうことなんだよ。ぼくはこれから毎日、君に昨晩したようなことを何度もするよ。君はそれに耐えられる?」

「あっ……」

 彼女のなだらかな弧を描く脇腹にそって手を滑らせ、彼女の可愛らしい太ももに手を添えます。

「やっ、やめて……」

「それとも、そんなにぼくの指や舌が欲しいの?」

「違いますっ! 天使様の意地悪!」

 わずかに官能のともしびを宿した瞳で、涙ぐみながらエミーリアはキッと僕を睨みます。

 ぼくはそんな彼女の頬に手を添えると、おはようの口付けをしました。

 最初は驚いていたエミーリアでしたが、ぼくのテンポに引きずられるようにして、すぐに体を委ねてきました。

「んっ……ああっ」

 ぼくはごく自然にエミーリアを仰向かせると、彼女のあごを固定して、至近距離から覗き込みます。

「可愛いエミーリア、ぼくはこれからも君を守ると誓うよ。でも、ひとつだけ条件があるんだ。この朝の光の中で、ぼくの本当の姿を見て欲しいんだ」

「はい、天使様」

 ぼくは自嘲気味に笑いました。

「ぼくが本当は天使なんかじゃないことを証明してあげる。本当は、おぞましい怪物だってことをね。覚悟はいい?」

「ええ、天使様」

 少しばかりとろけるような瞳のエミーリアに、ぼくは触れるだけの口付けを与えて彼女から離れ、ベッドを降ります。

 そして、ぼくは彼女の前で、本来の姿である透明なスライムになったのです。


 しばらく、沈黙が訪れました。


「天使様」


(なに? エミーリア)


 ぼくは心話でエミーリアに返事をします。

 目を見開いていた彼女はくすくすと笑い始め、そのままお腹を抱えてベッドの上に突っ伏しました。

 彼女の肩はふるふると痙攣けいれんしています。


(え、エミーリア!? どうしたの? どこか痛いの?)


 ぼくは慌ててエミーリアの傍に近寄りますが、自分の姿をかんがみて、ベッドの傍でゆらゆらと透明な丸い球体になりました。

 不安そうにエミーリアを見ていましたが、ようやく笑いの発作が治まったのか、エミーリアが涙を拭きながらこちらに視線を送りました。


「ねえ天使様、その姿、ご自分ではおぞましいと思っていらっしゃるの?」


(うん、そうだけれど。だって水みたいなスライムなんだよ? 形が定まっていなくって、気持ちが悪いでしょう?)

 ぼくが意を決してそう言うと、エミーリアはぼくが今まで見たことがないような大人びた笑みを浮かべました。


「天使様は、ご自分のその姿がお嫌いなのね。でも私は、天使様のその姿、とっても好きですよ」

(えっ!?)

 驚く僕に対し、エミーリアはゆっくりとぼくに向かって手を伸ばします。

「怖がらないで。天使様は、昨日は何度も私の体を触ったでしょう? 今度は私に触らせてください」

 伸びてくる手を忌避しようとしていたぼくは、ぴたりと止まると、彼女が触るに任せました。

「わぁ、見た目通り、ぷるぷるなんですね。気持ちが良いです」

(エミーリア……)

 しばらく僕の表面の感触を楽しんだエミーリアは、いそいそとベッドの上から降りてきました。

 もちろん、一糸まとわぬ姿です。

(エミーリア、風邪を引いちゃうから早くベッドに戻って)

 慌てるぼくに対して、エミーリアは床に膝をつくとこう言いました。

「天使様、いや、スライムさん」

(はい、何でしょうか?)

「その姿で、私を抱き締めてはくださいませんか?」

(あ、あの)

「私、スライムさんに抱き締められるまでベッドには戻りませんから」

 にこっと笑ったエミーリアは、ごく自然に両腕を横に広げます。

 ぼくは彼女を冷やしてはいけないと思い、できるだけ迅速に彼女の体を包みました。

「スライムさんの体、ほんのりあたたかいです」

(それは君の体温が移っているからですよ)

 ぼくはそのままエミーリアの体を持ち上げ、自身とともにベッドの上にあがりました。

 ちなみにぼくは水ではないので、ベッドが濡れることはありません。

 エミーリアをベッドの背もたれにもたせ掛けるようにして座らせます。

 もちろん彼女の背後にも、前面にもぼくの透明なクッションつきですが。

 すると、彼女はごく自然に自身の両膝を立ててM字に広げます。

「ふふ、こんな私の姿、お父様やお母様に見られたら何て思われるかしら」

 エミーリアからはまたも淫気が漂ってきます。

 そしてそれは余すところなくぼくに吸収されていきます。

(エミーリア、そんな、淫乱な)

「ふふ、私、天使様の為だったら何でもできるんです」

 そう言うと、エミーリアはこんなことをつぶやきました。

「ああ、早く天使様とひとつになりたいです」

 まさか、無垢で可愛い、でも時に小悪魔のようなエミーリアが、そのように直接的な誘いの言葉を言うとは夢にも思わなかったぼくです。

 しかしぼくは怪物のさがで、淫気をもっと摂取しようとうごめきます。

 それがエミーリアにとっては全身を愛撫されているのと同義のようで、だんだんと呼吸が乱れてきました。

「あっ、天使、様っ」

 エミーリアの体はひくんひくんと動き、切なげにぼくを求めています。

 彼女の痴態に興奮したぼくは、そのままのスライムの姿でエミーリアを絶頂にまで導きました。

 おかげでまたも大量の淫気を摂取することができましたが、エミーリアは官能の余韻でぐったりとしています。

 ぼくはそんな彼女を天使の姿で着替えさせてベッドに寝かしつけ、部屋をあとにしたのです。



 さて、順調に行っているかに見えるぼくの養子生活ですが、このほど、難問が持ち上がりました。

 バルターク家の仇敵のところにいた、深淵の怪物がついに動き出したのです。

 深淵のやつ曰く、「バルターク家のエミーリアはもともと自分に差し出されたものだ。もし彼女を寄越よこせば、自分は大人しく洞窟に帰ろう」とのことです。

 その要求はバルターク家にとってもはや許容できないものでした。

 仇敵と深淵のやつには正式に断りを入れ、その一方で先輩とぼくがバルターク家の人々を守るような手筈てはずとなりました。

 貴族の家同士の権力闘争に関しては、バルターク伯爵自身が一手に請け負っており、先輩とぼくは対怪物用として控えているといった感じです。

 そんなある日のこと。


 それは夕暮れ時でした。

 エミーリアの瞳と同じ菫色の空に、大きな月が出ている、そんな不思議な時間帯のこと。

 ふらりと、一人の男性が屋敷の門の前に立っていたのです。

 その男性は、金髪のツーブロックで緑の瞳、しっかりとしたガタイの、まるで軍人のような出で立ちをしていました。

 男性は門に手を掛けました。

 すると、門の錠が外れ、地面にごとりと落ちます。

 男性は悠々と門から中に入ってきました。

 明らかな不法侵入ですが、すでに先輩とぼくは、この男性が何者なのか看破しています。


 先輩が緊張感をにじませて言います。


「来たぞ、やつだ」


 ぼくはバルターク家の皆さんに声を掛けます。

「皆さんはここで待機していてください。ぼくらが良いと言うまで、決して屋敷の外に出ないように」

 エミーリアが不安そうに見つめます。

「天使様、どうかご無事で」

 ユーリアさんも、先輩に声を掛けます。

「グレゴル子爵、あなたは私の命の恩人です。まだ、あなたにはお礼をしておりません。ですから、ここで倒れるなんてことは、決してなさらないでください」

 先輩はユーリアさんに視線を送ると、ふっと笑顔になりました。

「あなたと、あなたの家族は、俺と相棒が必ず守ります。だからご心配なく」

 その笑顔を見たユーリアさんは、泣きそうな表情でぐっと息を呑みました。

「……ありがとうございます」

 ユーリアさんは、エミーリアとアロイス君をしっかりと抱き締めます。

 バルターク家の人々に見送られながら、ぼくと先輩は屋敷の外に出ました。


 菫色の空は、これから夜に向かってかたむいています。

 ぼくら怪物が動きやすい、暗闇がやってくるのです。


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