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第1話:都市伝説

 未央がヘルメット男に遭遇してから夜が明けた翌日、朝の門松高校の一年C組の教室にて……


「イヤそれ、ホントかよ?」

「マジだっつうの。ヘルメット被った奴が乱入してきて、ゴロツキ三人ぶっ倒してたんだよ」


 「まぁ最後はオレがトドメ刺したんだけど」と付け加えながら、末央は目の前の席に座っている同級生、佐渡さわたり浩司こうじに昨夜目撃したヘルメット男の話を持ち出していた。

浩司とは小学生の頃からの仲で、両親が死んだ頃からも気遣ってくれた末央の数少ない友人だ。

 最初はそこいらの同級生と同じように奇異な目で見ているだけかとも思っていたのだが、どうやら本気で友達になろうとしていたらしい。

 何でもその頃は本気で「友達100人作ろう」とか言う、実に小学一年生な目標を六年生になるまで掲げていたらしく、今にして思えば黒歴史以外の何物でもないのだとか。

 そしてそんな経緯で作った友達みおともどう言った訳か未だに悪縁と言う形で続いている。


「ヘルメット被った……ねぇ……何か銀行強盗みたいだな」

「あぁ、それはオレも思った。純玲すみれはどう思うよ?」


 パーマ掛かった前髪を指先で弄くりながら感想を述べる浩司に同意しつつ、未央は続いて左隣の席に居る分厚い文学書を読み耽っている前髪で目元が隠れた女子に話を振る。


「ひぇっ!? わ、私は、その……カ、カッコいいと思いますよ? 正義の味方みたいで……」


 話し掛けられた途端に小さな肩を弾ませ、その後に率直な意見をボソボソと答えた。

この文学少女、四方院しほういん純玲すみれは、未央の二人目の友人である。

 未央とは全く違う人種にしか見えない彼女ではあるが、こうして話し合う仲になったのにも、ちゃんとした理由がある。

 実は彼女、ノートに自分の趣味前回の自作漫画を描く程の、かなりの厨二病患者なのである。

 高校に入学して間もない頃に彼女のノートを未央が間違って手にしてしまい、その内容を見てしまった未央に対し純玲が相当の勇気を振り絞って「な、何でも言う事を聞きますから誰にも言わないで下さい!」と凄まじい気迫で懇願してきたのだ。

 その鬼気迫る勢いに飲まれていると、その場に偶然居合わせた浩司が妥協案として「未央と友達として接してくれ」と条件を取り付けたのだ。

 当然、その時未央は勝手に決めた浩司に食って掛かったのだが、やはり未央の見た目と言動が相俟って友人が浩次くらいしかいないのは事実。浩次はそれを気遣ってそんな事を言ったのだそうだ。

 未央としても、浩司の気遣いに悪気がないのは分かっていたし、何でもいいから条件を付けなければ純玲も納得行きそうになかったのでこんな関係が出来上がっているのだ。

 そんな関係もまだ2週間程度しか経っていないので純玲の方にはまだぎこちなさがあるが、まぁその内慣れてくるだろう。


「正義の味方、かぁ……。男の子だったら一度は憧れるな」


 純玲の意見を聞いた浩司がそんな事をぼやいているのを余所に、未央は黒板の頭上に備え付けられた時計を見る。

 時刻は9時10分。そろそろ一時限目が始まる時間だ。最初の授業は確か古典だったかと記憶の海から掬い上げながら学生鞄の中から古典の教科書とノートを取り出す。

 いくら見た目が不良にしか見えなくとも、授業態度だけは何気に真面目だったりする。

 「成績だけは落とされたら敵わん」と言う未央の思考回路から来る行動である。


「やっぱり、意外と真面目な人なんですね、未央さんって……」

「意外とは余計だっつうの」

「あ、ご、ごめんなさい! そんなつもりで言ったんじゃないんですごめんなさい!だから放課後に体育館裏に連れ込んで地獄のデストロイヤーシステムを起動させるのはやめて下さいお願いします!」


 その様子を見ていた純玲が溢した言葉を未央が拾い上げて応じると、予想以上の動揺を誘ってしまい、なにやら危ない単語を交えながら許しを乞い始めた。地獄のデストロイヤーシステムってなんぞ……。


「あ、そう言えばヘルメットで思い出した。B組の輝義てるよしが話してたんだけどさぁ」


 今の空気を読んだのかどうかは定かではないが、浩司が突然新聞部の話題を持ち出し始めた。


「アイツの入部してる新聞部の部長、ヘルメット被った奴がどうとか言う噂で色々と調べてるらしいぞ。昼休みにでも会ってみるか?」

「ア? なんで昼なんだよ、普通に休み時間にでも行けばいいじゃねぇか」

「何でもその人、一度話すと適当な所であしらわないと延々と話すタイプらしいんだよ。それだったら時間が十分に空いてる時が一番いいだろ」


 浩司からの情報を聞いた未央が形の良い眉をハの字に曲げながら訊ねると、彼は手櫛てぐしで整う筈もない天然パーマを梳きながら理由を答える。

 確かに長話をするような輩であれば途中で話が脱線しかねないだろうし、部長と言うくらいなら相手が少なくとも上の学年の生徒だろう。

 不良が私情で上の学年の教室に長居すると面倒になりそうだし、ここは浩司の言った通りに昼休みまで待った方が良いだろう。


「……わぁったよ、そんじゃあ昼にでも食堂に呼び出して紹介してくれよ」

「あいよ」


 そんなやり取りをしている間に、教室の戸が開いて古典の担当の女教師が入ってくる。

 とりあえず今は頭を授業モードに切り替え、ノートを取る作業に入る準備を進めることにした。






 同時刻、共和警察署少年課に配属する若手刑事・安藤あんどうじん巡査長は、何時もは熱意に燃えた瞳も、今では気力が大分削がれてしまっているのか完全に意気消沈し、刈り上げた短髪をガリガリと掻き毟っていた。その原因は、昨日起きた暴力事件にある。

 事件が起きたのは昨日の午後6時過ぎ頃。被害に遭ったのは最近万引きや暴行等で問題になっていた犯罪グループ「毒蛇」の三名だ。一人は失神による軽傷、一人は脳震盪と顎の骨に罅。そしてもう一人は後頭部に軽傷と鼻骨骨折だ。特に三人目が一番重症である。

 この街では夜になると彼等のような犯罪グループが多く闊歩する。そのため今回の暴行事件は警察側にとってもあまり言いたくはないが有り難い事件だ。

 しかし、それでも事件は事件。何時今回のような事件が民間人に牙を剥くか分からない今、今回の事件を起こした犯人は捕えておかなければならない。それが我々警察の仕事なのだ。

 この事を上司に言えば青臭いと言われるかもしれないが、自分はその為に警察という職業に誇りを持っているのだ。何と言われようがこの信念は定年退職するまで絶対に守ると誓おう。


(ふぅ~……よしっ、もう一度)


 改めて気合を入れ直した仁は、もう一度デスクの上に散らばった報告書に目を通す。

 一番被害の低い失神による軽傷を受けた男の話によれば、ヘルメットを被った男と門松高校の女子高生に暴行を加えられたと証言していた。

 一応女子高生については細かい容姿を聴いているのですぐに分かるだろうが、ヘルメットの男については情報が足りな過ぎてどう調べればいいのか分からない。


「どうしたもんかなぁ……」

「よっ、どうしたんだ安藤、そんなだらけた状態になってからに」


 今度はデスクに頭を突っ伏した状態で再び頭を悩ませていると、白髪混じりの中年の男が両手にコーヒーを入れた紙コップ持って仁に声を掛けてきた。


「あ、千登勢ちとせさん。おはようございます」

「おうおはよう。それにしてもお前がそんな状態になってるのって、ここに勤めるようになった頃以来だぞ?」


 仁のあいさつもそこそこに、千登勢ちとせ檀蔵だんぞうは彼のデスクに二つのコーヒーカップを置いて改めて訊ねてきた。

 彼は今年で警察に勤めて25年になる警部である。本来ならばもっと上の階級になっていてもおかしくない手腕なのだが、出世には全く興味を持っていないとのことで、こうして少年課の課長を務めているのだそうだ。


「ああそれがですね、今調べてる事件でどうも行き詰っちゃいまして……」

「ん~どれどれ?」


 千登勢がデスクに散らばった書類に手を取り、顎をジョリジョリと擦りながら内容を吟味していく。

 やがて全てに目を通した千登勢は視線を仁へと移し、神妙な表情を浮かべながらその内容の概ねの感想を放った。


「ヘルメットを被った男……かぁ。こりゃあまた、随分と懐かしい事件だな」

「懐かしい? 千登勢さんはこいつの事知ってるんですか?」

「俺の娘も今そいつに興味を持っててなぁ……もうかれこれ20年以上前、俺がまだお前くらいの若造だった頃の話だ」


 そこで一旦区切って書類からコーヒーカップに持ち帰ると、「お前も飲め」と言ってもう一つのコーヒーを仁に勧めてきた。

 仁は「あ、どうも」と断りを入れてからコーヒーを手に取り、一口啜る。コーヒーにはあまり詳しくない仁だが、このブラックコーヒーが上手いという事は分かる。


「その頃は今よりも随分と街の治安が悪くてゴロツキ共も多くてなぁ……そう言った奴等を徹底的に潰して行くヘルメットを被った奴がいたんだよ」


 千登勢はコーヒー片手に部屋の窓に近づき鍵を開ける。開け放たれた窓から朝の冷たい空気が入り込み、随分と部屋の空気が淀んでいた事に今更気付く。


「今となっちゃあ知ってる奴も殆どいないが、そいつはちまたではこう呼ばれていたんだ……」


 そこで一区切り着けて仁の方へと振り返ると、千登勢はそいつの名を口にした。


「ヘルメッター……今や都市伝説になっちまってる喧嘩屋さ」






「ヘルメッター? 何そのダッサイ名前」

「ダッサイとは歯に衣着せぬ物言いだねこの子は。流石は校長の姪ってとこかな?」


 門松高校の食堂では、昼休みの時間を利用して件のヘルメット男の話を聴き出している未央と浩司、そして新聞部の男女の二人組の姿があった。

 彼女の座っている席の向かいには、二つに分けたおさげと丸眼鏡が特徴的な新聞部部長の少女・千登勢ちとせまつりが目を爛々と輝かせながら、興味深そうな眼で未央と対峙している。

 彼女の視線は未央にとっては居心地が悪すぎて、思わず視線を逸らすと、その先には祭の付き添いで来ていた新聞部副部長の青年・牧瀬まきせ輝義てるよしが、眉間に皺を寄せながら手元にある自前であろうやや大きめの一眼レフカメラをジッと見つめていた。

 新聞部は元から部員が少なく、現在では存在しない三年生の代わりにたった一人の二年生である祭が部長になっているとの事。

 しかも一年生の新入部員が彼女の横に座っている輝義しかいなかった為、彼が自動的に副部長になってしまったのだとか。どんだけ人気がないんだこの部活は……。


「叔母さんは関係ねぇだろうが。それで、そいつってどんな奴なんだよ」

「そんな怖い顔しないで頂戴なミオちゃん。せっかくの可愛い顔が台無しだよぉ~?」


 獰猛な目つきで睨みつけながら続きを催促する未央に臆することなく、祭は冗談を交えながら丸眼鏡の奥から見える天真爛漫な瞳を未央に向けてくる。

 この時点で、自分と彼女では水と油の関係だという事がすぐに理解できた。


「ほらほら笑って笑って! テル君もミオちゃんが笑ったらシャッターチャンスだから見逃さないでよっ!」

「ヘイヘイ」


 肩をバシバシ叩かれながらも律義に返事を返した輝義は、眉間に皺を寄せながらも部長命令に従って両手に大型のアナログカメラを構えた。

 浩司から得たどうでもいい話だと、彼は常に眉間に皺を寄せる癖が付いているらしい。

 しかも言葉数も少なく、殆ど喋らないので無愛想な男にしか見えないのだとか。

 だが、実際にはかなり良好的な性格らしく、嫌々そうにカメラを構えている今でも満更でもないそうである。


「あの、そろそろ話を進めてくれませんか? 昼休みも終わってしまいますし」

「おっとゴメンゴメン。今校内で話題の不良少女と話ができるとなると盛り上がっちゃってねぇ~」


 未央の不機嫌ゲージが上がっている事に勘付いた浩司が祭にそう言うと、彼女もようやく本題に入ってくれた。


「良いから話せっつうの」

「はいはい急かさない急かさない。まぁ私の知ってる限りの情報で、どれも本当かどうか分かんない内容だから真に受けないようにね」


 祭はそう前置きを入れると、ようやく本題に入り始めた。

 ヘルメッターが現れたとされているのは今から23年も前になるという。

 夜中に暴走族や不良がたむろしているところに突然ヘルメットを被った男が現れ、男が「俺のバイクはどこだ」等と叫びながらその場にいる全員に徹底的に殴り倒して行くのだとか。


「これがヘルメッターの伝説その一! 40人掛かりで攻めても絶対に勝てない!」

「それってホントですか? 不良の溜まり場に乱入してケンカ売るなんて、まず勝てる訳がないでしょう」

「ああ、流石にウソだなこれは」


 祭が人差し指を立てながら高らかに宣言してきたのに対し、未央と浩司は胡散臭そうに否定した。

 確かにあの時未央が見たヘルメット男も、タイマンの時は一切迷いのない的確な攻撃で大の男一人を一撃でノックアウトさせていた。

 しかし、その後の背後からの奇襲には気付いてはいなかったし、あれではどう考えても40人なんて大人数に勝てる訳がない。


「だ~か~ら~、あくまで実証されていない噂だってば~。そもそもミオちゃんが見たヘルメッターが本物って確証もない訳だしさ」


 祭に自身が目撃した内容も踏まえて意見を入れると、彼女は「真に受けないようにって言ったでしょ?」と付け加えながら再度前置きを説明してきた。

 実際彼女にとっても、今のところ何処までが本当で、何処までが嘘なのか分からない状況なのだ。確証を得られるまでは断言できないとのことだ。


「じゃあ続いて伝説その二、ヘルメッターの正体は首のない幽霊。まぁこれは流石に嘘っぽいけどね」


 詳しい話は以下の通りだ。

 ある日一人のライダーが、かなり高価なバイクで夜の峠を走っていた。山頂まで付いた所で喉が渇いたのか、バイクから降りて丁度そこにあった休憩所の自販機で何か買おうとしていた。

 だがその周辺を縄張りにしていた暴走族がやってきてライダーを取り囲み、彼からバイクを奪おうとした。

 ライダーは抵抗するも、暴走族達に取り押さえられて喉をナイフで裂かれて殺された。

 しかしそれだけでは飽き足りず、そいつらはナイフで人の首は切り落とせるのかと面白半分で確かめてみようとライダーの首回りをどんどん切り裂く。

 結局首の骨が邪魔で切り落とされる事はなかったものの、最後は首の骨をへし折って無理矢理首をねじ切った。

 そこでやり過ぎたことに気付いた暴走族は、急いで首だけでもと思い、全員で切り落とされたライダーの頭部を山奥に埋めた。

 その後に胴体の部分も埋めようと元の場所まで戻ると、そこには男の身体はなく、あるのは置き去りにされた彼等とライダーのバイクだけであったという。

 それからというもの、街に夜な夜な暴走族や不良に徹底的に暴力を振りまく怪人が現れるようになり、それが都市伝説のヘルメッターになったと言われている。


「怖えよっ!」

「何食事の場でえげつない話持ち出してんだテメェッ!」

「いやいや、この話は嘘だってば。多分」

「「多分じゃねぇ!」」


 祭のグロテクスな怪談話を聴き終えた二人は一斉に抗議の声を荒げる。浩司に至っては、あまりの恐怖に敬語ではなくなってしまっている始末である。

 しかし怪談話をした当の本人は涼しげな顔で水を飲んで喉を潤しながら二人を宥め、彼女の横に座っている輝義も同じくほうじ茶をジジ臭く啜っている。

 例え今の話が嘘だったとしても、こんな話を聞いたらもう夜の山になんて絶対に行けない。何せ祭の話に出ていた峠は共和町に実在するものなのだから。


「まぁそんな事件なんて公にもならなかったらしいし、父さんもないって言ってたから、まずこの噂は間違いなくデタラメなんだけどね」

「父さん……と言うと?」

「あ、言ってなかったけ? 私の父さん、警察やってんだよ」


 祭の発言に浩司が敬語に戻って反芻すると、彼女は簡単に自分の身内の話をして説明した。確かに父親が警察勤めならば、これくらいの都市伝説とも言える情報は教えてもらうことは可能だろう。

 彼女の身の上話はともかく、とりあえずこの話は確実に嘘らしい事に内心ホッとする未央。しかしその内側を読んだのか、祭が「ははぁ~ん」とにやけてながらこちらを見つめてくる。


「な、なんだよ?」

「いやぁ、流石のミオちゃんでもホラーは苦手なんだねって思ってさぁ」

「んなこたぁどうだっていいだろうが! さっさと続き話せ!」


 逆切れだとは理解しつつも未央は絶叫に近い催促を促し、祭はにやけつつも次のヘルメッターに関する情報を提示した。


「はいはい。それではヘルメッターの伝説その三、これが今んところ一番確実と言える噂で、尚且つこれがあって初めて都市伝説になったって言えるね」

「それって、どういう事です?」


 意味深な祭の発言に浩司が問い掛けると、輝義が顔を上げて祭の言いたい事を説明してきた。


「今から20年前、つまりヘルメッターが現れるようになってから3年後、忽然と姿を消した」

「あぁーテル君! それ私が言おうと思ってたのに~!」


 輝義に先に言われてしまった事に腹を立てた祭は、横から輝彦の頭をバシバシと叩く。対する輝彦は眉間の皺を寄せる事も広げることもなく、表情を一切変えようとしなかった。

 と言うか、輝彦がまともに喋ったのを初めて見たような気がする……。


「え、えーとそれで……何でヘルメッターが消えた事が都市伝説になった理由なんですか?」


 一足先に復帰した浩司が祭に問い掛ける。そこでようやく叩くのをやめた祭が詳細について話し始めた。


「伝説って言うのはね、あくまで言い伝えなのよ。昔こんな人がいてこんな事をしたんだーみたいな酷く曖昧なね。もし今話したヘルメッターも消息を絶たずに20年以上もずっと喧嘩屋なんてやってたら、それはただの日常風景にしかならないからね」


 つまり彼女は「いなくなって初めて伝説となる」と言いたいのだろう。この話をしている祭りの顔は、未央には真剣そうなものに見えた。


「もしこの都市伝説が復活したんだとしたら、父さんが掴めなかったヘルメッターの正体を暴くチャンスだからね。今しかできない事なんだから、やるなら今しかないでしょ!」


 握り拳を作りながら語る祭りを見ながら未央はヘルメッターへの興味が俄然湧いてきた。

 何故あの場に現れ、自分だけ見逃して立ち去ったのか。そしてその正体とは一体誰なのか。

 そして何より、あんな面白そうな奴を、このままみすみす逃す手はない。


「……なぁ、オレ達もそいつの正体探しに付き合わせてもらってもいいか?」

「お? 早速やる気だねぇ~。実は近々ちょっと危ない所まで調べに行くつもりなんだけど、誰か一緒に来てくれる人を探してたんだよねぇ~」


 未央の発言に、面白そうに笑みを浮かべながらギブ&テイクを持ち出してくる祭。どうやらヘルメッターを調べる際のボディガードにでもするつもりのようだ。


「ああいいぜ。噂のヘルメット男に会えるなら、な」

「うんうん。それじゃあそういう訳だからテル君、今日は外で調査するよぉ~」

「ヘイヘイ」


 未央の返事に納得した祭は、輝義に今日の活動内容を説明し、彼はやる気のなさそうな返事を返す。アレでも浩司曰く快く引き受けている時の反応なのだそうだ。


「浩司も来いよな。流石のオレでもこの二人守りながら戦うのは無理だからな」

「初めっからそのつもりだよ。そうじゃなけりゃお前にこの二人を紹介しないってぇの」


 パーマ掛かった前髪を弄くりながら未央からの強制労働に承諾する浩司。やはり小学生からの仲だけあって、こちらの考えも予測済みのようだ。

 その後しばらくの間、昼食を摂りながらどう動くかスケジュールを組み立て、放課後には4人で集まって調査を開始することになったのだった。

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