#9
警戒心まる出しで見返すと、友悠は隣に腰を下ろした。俺を横目に見て、頬杖をつく。
「このままだと過労で倒れそうだから、まだなら早めに行けよ」
「いや……今年っていうか、去年も一昨年も一昨々年も受けてないけど」
「嘘だろ」
淡々と返すと、彼は珍しく慌て出した。蒼白になりながら、俺の手を掴む。
「お前の雇用形態だと健康診断は義務だ。会社で実施しないなら自分で病院行って結果を知らせるんだよ」
「そりゃそうか。でも一度も催促されたことないから」
「なら有休使ってでも病院に」
「無理無理、絶対貰えないからいいよ。今は元気だし」
珈琲を飲み干し、パソコンをケースに入れる。そのまま立ち上がろうとしたが、強引にソファの上に押し倒されてしまった。
「ちょっと、友悠っ? どうしたんだよ」
腕を掴む力が強くて、顔を顰める。しかし、鏡でも見てるのかと錯覚するほど、彼も苦しそうに顔を歪めていた。
どうしてそんな顔をしてるのか。訊きたかったけど、どう考えても俺のせいだから、開きかけた口を閉じた。
やっぱり悋気は感じないけど、胸がずきずきと痛む。
「心配で、頭が痛いんだ。本当は誰もいない場所に閉じ込めておきたいとか思っちまう。お前を泣かせる奴らがいるところに……行かせたくない」
「友悠……」
友悠はいつだって冷静だ。他人に過干渉な姿は見たことがない。
そんな彼の掠れた訴えを聴き、言葉を失った。
だって。……いや、不謹慎だけど。……嬉しい。
「何様だって話だよな」
掴まれていた手首を離される。それと同時に、心も離れていく気がした。
「友悠……ごめん」
「謝るのは俺の方だよ。悪かった」
「違う……いつも俺のこと心配してくれてるじゃんか。お前だけだよ」
狭いソファの上で、後ろに肘をつき、上体だけ起こす。彼と向かい合い、視線を交差させた。
「俺が気付いてないだけで、絶対今まで傷つけてたよな。……ごめん」
「……」
目頭が熱くなり、視界が歪む。
これじゃ本当に泣き虫だ。体質のせいなんかにできないな。
軽く鼻をすすると、また頭を撫でられた。
「休みの日はちゃんとあるのか?」
「う、うん。一日ぐらいは」
「じゃあ、そこでしっかり休めよ」
頷くと、彼はわずかに微笑んだ。
無理して笑ってることは分かった。何だかんだ言って、もう二十年近く一緒にいるし。
でも、常に見えない壁が反り立っている。
いつかそれを取り払える日が来るんだろうか。
抱き起こされて床に足をつけても、俺の視界は依然としてひっくり返っていた。




