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りんきおうへん!  作者: 七賀ごふん


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8/16

#8


「弦美。朝だぞ」


長い夢を見ていた気がする。

頭上で自分を呼ぶ、優しい声。ずっと聞いていたかったけど、現実に戻るのは一瞬だった。


仕事しなきゃ!


脳の覚醒と同時に飛び上がる。そのとき、思いっきり唇に何かが当たった。

「んっ!?」

柔らかい。でも視界は暗い。


何だ……。

恐る恐る後ろに退くと、正面には目を見開いてる友悠がいた。


「んん? ……友悠」

「あぁ」

「俺達、今キスした?」

「あぁ」


自分から訊いたものの、しばらく情報を処理できず、固まっていた。

キス。友悠と、キス……。


「おかしくないか? ピンポイント過ぎる」

「奇跡だな。でもお前がいきなり飛び起きるから」


友悠はベッドに腰を下ろし、頭が痛そうに額を押さえた。

「眼鏡掛けてたらお互い怪我したかも。外してて良かったよ」

「そうか。確かに……眼鏡って、普通顔にあるもんな」

俺は何を言ってるんだろう。

動揺してる上に寝起きのせいで、全然会話のキャッチボールができない。


あ。そういえば久しぶりに眼鏡外してる友悠を見た。かっこよ過ぎて直視すんのきついな。

……ってそんなこと考えてる場合じゃないだろ。

ばっちり目が覚めて、ベッドの上に正座した。


「すまん、友悠! まず謝らせてくれ。お前の、多くの女性を魅了した唇を奪ったこと!」

「…………」


友悠は表情を変えず、無言でこちらを見つめている。

謝りつつ褒めたんだけど、全然手応えがない。

むしろ怒らせた? でもいつもこんな反応だし……く、読めない。


「わざとじゃないんだ、それだけは信じてほしい。誠意見せろって言うなら土下座するよ。家の中を土下座で這いずりながら一周する」

「ホラーじゃんか。もういいから顔洗ってこい。仕事するんじゃなかったのか?」

「あぁっ! そうだった!」


高速で顔を洗い、パソコンを開く。持てる力全て注いで作業し、何とか一時間で終わらせた。

ふう。とりあえず出勤には間に合いそうだ。ソファの背にもたれてると、目の前に湯気が立ってる珈琲を差し出された。受け取って、満面の笑みを返す。


「ありがとう、友悠。さっきのキスはマジでごめん。これからは飛び起きたりしない! 静かに起床するって、健やかなる時も仕事辞める時も誓うよ」

「今年健康診断って受けた?」


友悠は俺の話を華麗にスルーし、眼鏡を掛けた。


ていうか何だ、その返しは。

暗に病院行けって言ってんのか? 健康診断で脳の検査はしないぞ。




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