#6
小走りで会館から出る。
斜め後ろから見える横顔は同年代とは思えないほど凛としていて、見とれてしまった。
初めて見る子だ。名前も分からないけど、こんな綺麗な男の子が存在してることに驚いた。
心臓は過去一で爆音を鳴らしている。
脇腹が痛い。息が苦しい。
だけど知らなかった。無我夢中で走ると、こんなにもスッキリするのか。
『はあぁ。……君、何であんな嘘ついたの』
信号の手前で息が切れて、立ち止まる。肩を揺らしながら尋ねると、男の子はこちらに振り返った。
『ゲームあげた子に、もう泣いてほしくなさそうだったから』
額に流れる汗をぬぐい、彼は首を傾げる。
『違った?』
『う、ううん。合ってる』
それはもう、寸分違わず。
『……ありがとう』
初めて俺の気持ちを正確に読み取ったのは、初めて出会った男の子だった。
『良かった。何となく、ゲーム欲しくて泣いてるようには見えなかったからさ。……もっと苦しそうに見えた』
そんな風に言ってもらったのも、初めてだった。
泣いてる時に言われるのは、またか、という言葉。そしてウンザリした視線だけ。
かまってほしいわけでも、助けてほしいわけでもない。だが無理やりあの空間から連れ出してくれた少年に、俺は救われた。
焼きもちから遠ざかって、動悸もおさまりかけていたけど……頬に、また一筋の涙が伝った。
『あれ。ごめん、大丈夫?』
『だ、大丈夫。どっちかって言うと嬉し泣きだと思う』
『そ? 赤くなるからあまり擦らない方がいいよ。……泣き顔は可愛いけど』
俺男だけど、と返すと彼は可笑しそうに笑った。そしてポケットからハンカチを取り出し、俺の涙を拭う。
『俺は友悠。ね、君の名前教えてよ』
『友悠……。あ、俺は弦美。宜しく』
友悠は俺の家の隣に引っ越してきた少年だった。
優しくて聞き上手な彼に、誰にも話さなかった秘密を打ち明けた。
他人の焼きもちを感じると、意思と関係なく号泣してしまうこと。俺は他人に焼きもちを焼いても平気だけど、誰かが俺に焼いた焼きもちは駄目だということ。
友悠は最後まで静かに聞いてくれた。そして少し考えた後、腕を組んで頷く。
『……なるほど、わかった。妬かなければいいってことだろ』
『う、うん』
『OK。任せて』
彼はひとり納得した様子で、俺の手を引っ張った。
『大丈夫だよ』
思えば、この時の友悠が一番感情をあらわにしていた気がする。彼が秘めた決意を感じ取って、口を噤んだ。
『これからは俺が守るよ。俺は絶対、弦美のこと泣かさないから』




