#4
「お邪魔します」
友悠のマンションに到着し、靴を脱ぐ。途中コンビニで買った酒や弁当を渡した。
彼の部屋は見事に整頓されていて、俺の荒れた部屋とは天と地ほどの差がある。
「引越し手伝った時から全然変わってないじゃんか。さすが学校の先生」
「それは関係ない」
友悠は中学校教諭だ。忙殺されて生活リズムが狂ってもおかしくなさそうだが、オンオフをしっかり分けて暮らしている。尊敬しかない。
「いや、マジで大したもんだよ。さ~て……悪い、ちょっと仕事させて」
「何だ、まだ終わってなかったのか」
「うん。カフェでやってたんだけど、中断しちゃったから」
残業が許されない会社なのに、毎日定時近くにクライアントから依頼書と確認の電話が入る。定時で帰す気ないだろ、と思うのだが、それに反発する社員もいない為現状を受け入れている。
体制を改善する熱意はないし、かといって転職する気力もない。だから苦しくても胃薬を飲むことで耐えていた。
まあ、最近は新たな悩みもあるんだけど……。
思い出してまた鬱になってると、不意に前髪を持ち上げられた。
「弦美。ちゃんと寝てるのか? やっと腫れがひいたと思ったら、今度は目の下のクマやばいぞ」
「四時間は寝てるよ」
「早死にする。余計なお世話かもしれないけど、転職したらどうだ」
パソコンを開こうとした手を掴まれる。顔を上げると、友悠はこちらを見つめていた。
笑って返そうとしたのに、あまりに真剣な表情をしていた為息を飲む。
「心配かけてごめんな。でも、まだ大丈夫」
「まだ、ってことはいつかはしようと考えてるんだろ? なら限界が来るのを待つ前に動いた方がいい。それは逃げじゃないよ」
良い環境に変えようとしてるんだから、むしろ攻めの姿勢だ、と言われた。
「そう。……そうだな。うん……」
ネクタイを外し、俯く。
友悠の言うことはもっともだけど、そもそも“限界”が分からない。俺はきっと、崖っぷちに足をかけるまで危険信号は出ないのだろう。
「案外負けず嫌いだよな、お前」
そんな俺の心中を容易く見抜くのも、やっぱり友悠だ。長年のカンというか、悪路へ流れる俺の性格を知りつくしてる。
「今の仕事を辞めたくないならそれでいい。でも、今日はもう寝るぞ」
「えっ?」
腕を引いて起こされる。彼の寝室に誘導され、あっという間にベッドに押し倒されてしまった。




