#2
泣いた回数とからかわれた回数は大体同じ。大人になればなるほど嘲笑される機会は増える。
しかし笑われるより辛いのは、心底呆れられ、見放される時かもしれない。
心臓を握り潰されそうな、あの嫌な感覚。記憶のフォルダにしっかり綴じてるのに、ふとした瞬間に風が吹いて開かれる。
……やめやめ! 一刻も早く忘れろ、俺。
奥歯を噛み締め、黒のブリーフケースをわきに抱える。
みんな辛いし、みんな必死に生きてるんだ。あの新卒っぽい女の子も、顔色悪いおじさんも、笑顔で客引きしてる男の子も。
自分だけが辛い、みたいな顔をしちゃいけない。
気持ちを奮い立たせて隣のガラス窓に目をやると、この世の終わりぐらいボロ泣きしてる男が映っていた。
……。
早くも心が折れそうだけど、胸ポケットの中から着信音が聞こえて足を止めた。
スマホを取り出し、画面を見る。そこに表示されてる名前を見た途端、さっきまでの暗い気持ちは吹き飛んだ。
「もしもし」
『もしもし。……泣いてるのか?』
おお。
ひと言しか喋ってないのに何で分かったんだろう。内心小首を傾げながら、慌てて笑う。
「ははっ、あたり。カフェで仕事してたら、たまたま傍に喧嘩してるカップルがいてさ。最高に不審がられちゃったよ」
『……そう。今どこだ。迎えに行く』
「い!? 大丈夫だって! 具合悪いわけじゃないから!」
実際ただ泣いてるだけなので、全力でかぶりを振った。しかし電話の相手は来る気満々らしく、移動中の雑音が聞こえてくる。
『弦美』
「わ、分かった! 言う。言います」
抑揚はないが、妙に説得力のある声音だ。通話口から気圧されて、思わず敬語になる。
こちらの遠慮は彼にとってロスタイムなのだと気付き、諦めて居場所を伝えた。
三日月を乗っ取ろうと、灰色の雲が忍び寄っている。
駅のロータリーに面する橋上の通路で、空を見ながらぼうっと考えた。
月があんまり綺麗だから、誰かに盗られないよう隠そうとしてんのかもな。あの雲。
「分かる」
眠気と疲労が限界に達し、周りの目も気にせずうんうんと頷く。
今はないけど、俺も似たようなことを思った時期があった。
昔は“彼”が女の子に告白されるたびに不安になって、泣きそうになったっけ。
あぁ、俺ってゲイなのか、とか、こんな汚い独占欲があったのか、とか。同時に色々分かって衝撃だったことを覚えてる。
焼きもちを焼くのは悪いこと。そう思っていたから、彼に対する好意を必死で殺した。
俺は恋愛をするべきじゃない。焼きもちに過剰反応して周りを困惑させるんだから、せめて外野に留まろう。
……でも焼きもちに肯定的なことわざもあったな。それも彼から教わった気がするけど……何だったのか忘れた。




