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りんきおうへん!  作者: 七賀ごふん


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2/16

#2



泣いた回数とからかわれた回数は大体同じ。大人になればなるほど嘲笑される機会は増える。

しかし笑われるより辛いのは、心底呆れられ、見放される時かもしれない。


心臓を握り潰されそうな、あの嫌な感覚。記憶のフォルダにしっかり綴じてるのに、ふとした瞬間に風が吹いて開かれる。


……やめやめ! 一刻も早く忘れろ、俺。

奥歯を噛み締め、黒のブリーフケースをわきに抱える。

みんな辛いし、みんな必死に生きてるんだ。あの新卒っぽい女の子も、顔色悪いおじさんも、笑顔で客引きしてる男の子も。

自分だけが辛い、みたいな顔をしちゃいけない。

気持ちを奮い立たせて隣のガラス窓に目をやると、この世の終わりぐらいボロ泣きしてる男が映っていた。


……。


早くも心が折れそうだけど、胸ポケットの中から着信音が聞こえて足を止めた。

スマホを取り出し、画面を見る。そこに表示されてる名前を見た途端、さっきまでの暗い気持ちは吹き飛んだ。


「もしもし」

『もしもし。……泣いてるのか?』


おお。

ひと言しか喋ってないのに何で分かったんだろう。内心小首を傾げながら、慌てて笑う。

「ははっ、あたり。カフェで仕事してたら、たまたま傍に喧嘩してるカップルがいてさ。最高に不審がられちゃったよ」

『……そう。今どこだ。迎えに行く』

「い!? 大丈夫だって! 具合悪いわけじゃないから!」

実際ただ泣いてるだけなので、全力でかぶりを振った。しかし電話の相手は来る気満々らしく、移動中の雑音が聞こえてくる。


『弦美』

「わ、分かった! 言う。言います」


抑揚はないが、妙に説得力のある声音だ。通話口から気圧されて、思わず敬語になる。

こちらの遠慮は彼にとってロスタイムなのだと気付き、諦めて居場所を伝えた。



三日月を乗っ取ろうと、灰色の雲が忍び寄っている。


駅のロータリーに面する橋上の通路で、空を見ながらぼうっと考えた。


月があんまり綺麗だから、誰かに盗られないよう隠そうとしてんのかもな。あの雲。

「分かる」

眠気と疲労が限界に達し、周りの目も気にせずうんうんと頷く。


今はないけど、俺も似たようなことを思った時期があった。

昔は“彼”が女の子に告白されるたびに不安になって、泣きそうになったっけ。


あぁ、俺ってゲイなのか、とか、こんな汚い独占欲があったのか、とか。同時に色々分かって衝撃だったことを覚えてる。

焼きもちを焼くのは悪いこと。そう思っていたから、彼に対する好意を必死で殺した。

俺は恋愛をするべきじゃない。焼きもちに過剰反応して周りを困惑させるんだから、せめて外野に留まろう。


……でも焼きもちに肯定的なことわざもあったな。それも彼から教わった気がするけど……何だったのか忘れた。




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