#16
確かに、普段無表情で物静かな友悠がやたら饒舌だった。
完璧な友人として演技してるんだと思ってたけど、遅ればせながら腑に落ちる。
俺の為に怒ってくれてたんだ。
不謹慎だし申し訳ないけど、───嬉しい。
俺のぬれた目元に触れ、友悠はため息混じりに呟いた。
「不公平だよな」
「な、何が?」
「俺はお前を泣かせないよう、二十年近く感情殺して自制してきたってのに。お前のことを全く知らない奴らがお前を泣かせまくってることが、本当に不公平」
はあ。友悠が一番不満に思ってるのはそこらしい。
「高校の時とか……お前もよく女子に告白されてただろ。そのとき、俺も死ぬほど取り乱してたんだぞ。勿論死ぬ気で隠してたけど」
「そう……」
そうだったのか。てっきり、友悠は何の欲もない菩薩のような青年だと思っていた。
でも実際は、それなりに妬いてて。俺の為に色々我慢して、葛藤していたんだ。
「ごめん友悠。……でも、ありがとう」
俺も彼の瞼にそっと触れる。俺と同じで少しだけぬれていて、うっすら赤く染まっていた。
「焼きもち焼いてよ。俺、お前にならいくら泣かされてもいい」
むしろ、これからは彼の為に泣きたい。自分の為でも他人の為でもなく。幼い頃から俺を想い続けてくれた、唯一無二の青年の為に。
「ありがと。ま……お前の泣き顔を初めて見た時に誓ったからな。絶対、お前を泣かさないって」
友悠はふぅと空をあおぎ、近くの街灯に寄りかかった。
この体質は確かに厄介だ。どこへ行っても人の感情に振り回される。
でもそれは仕方ない。仕事も変えると思うけど、柔軟に、地に足つけて生きていくしかないのだ。
彼が傍にいるなら尚さら。
……どうしようもないほど、頑張れる。
「もう大丈夫だよ。最強の恋人ができたし」
「よしよし。いくらでも頼れよ」
「サンキュー! じゃあお前も! これからはいくらでも妬いてくれ!」
幼い頃に交わした約束。それは友悠にとって、呪縛に近いものだった。
もう絶対、彼に心を殺してほしくない。その為には自分が強くならないと。
「友悠!」
誰もいないのを良いことに、広場の中央で声高らかに叫んだ。
再び息を吸い、次に絞り出した声は震えていた。
「……ずっと言いたかった。大好きだよ」
夏の夜風が頬に当たる。
風化した想いに命を吹き込むように。荒々しくも、温かく。
「ということで! これからよろしく!」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
友悠は隣に並んで、わずかに屈んだ。そして風にも攫われない、優しい声で囁く。
「愛してるよ、弦美」
そのひと言を聞いた途端、全身が熱くなった。
顔から火が出そう。……こんな宇宙規模の感情を隠していたなんて、やっぱり凄すぎる。
これからはこの感情を独り占めできるんだ。そう思うと、怖いけど嬉しくてたまらない。
好きな人の焼きもちって、ちょっと良いかもな。
応変に使えば誰かの本音に触れられる。二十六年も生きて、初めて知った。
友悠は額に手を当て、ため息まじりに零す。
「実を言うと今すぐ押し倒してキスしたい」
「頼むから家まで我慢して」
この難儀な体質のせいで、人と衝突したり、誤解されたり、辛いことがたくさんあった。
でも明日からは、またひと味違う生活が始まるだろう。
友悠の手が俺の手に掠める。
今までで一番嬉しい誕生日になってしまった。一番祝ってほしいひとが、そのまま俺の元にやってきたのだから。
こみ上げる喜びを胸の中に押し留め、眩い光の方へ彼と歩き出した。
────こんなことわざがある。
『悋気は恋の命』。
焼きもちを焼くのは、恋をしているから。
苦しいことばかりじゃない。焼きもちは幸せの訪れなのだと、遠い昔に教えてもらった。ずっと忘れていたけど……ファイルの一番最後に綴じていたそれは、優しい風に吹かれ、眠っていた感情を揺り起こした。




