#15
「でもね……彼に会えれば充分なんですよ。世界で一番、大事な奴なので」
友悠は鈴原の横を通り抜け、下に向かうエレベーターのスイッチを押した。
「ほら。行くぞ、弦美」
「と、友悠……」
手を引かれたけど、男同士でこれは勘ぐられそうだ。案の定、鈴原は歯がゆそうに俺を睨んだ。
友悠に相手にされないから相当妬いている。目頭が熱くなるのを感じ、心臓が押し潰されそうになった。
「ははっ。城川さんは優しい人なんですね。そんな、いい歳してすぐ泣く楠木を庇うなんて」
「うーん……優しいかどうかは微妙ですね。好きな奴が目の前で貶されて、黙ってる人の方が少ないと思いますし」
エレベーターの到着音が鳴る。扉が開くタイミングで、友悠は俺の腰を抱き寄せた。中へ乗り込んで、爽やかに鈴原に微笑みかける。
「ところで鈴原さん、仕事が早く終わるって素晴らしいですよね。上司や、黙ってフォローしてくれる同僚に感謝したいですね」
エレベーターに乗り、扉が閉まる。
鈴原の極限まで引き攣った顔が印象的だったが、俺もほとんど同じ心境だ。
丁寧だけど、尋常じゃなく殺伐としたやり取りだった。
というか好きな奴、って……。
ぐるぐる考えていると友悠は一階のスイッチを押して舌打ちした。先ほどと打って変わって怒りを前面に出してる為、お世辞にも先生には見えない。
「電話切って戻ったら、お前らの会話の内容が聞こえて。仕事が遅いだの何だの、好き放題言ってただろ。すぐにあいつがお前に仕事押し付けてんだと分かったよ。胸ぐら掴んで壁に叩きつけてやろうかと思った」
「先生……それはまずいですよ」
一応ツッコんでから、ずっと悩んでいたことを吐露した。鈴原もゲイだということ。そして、告白を断ってから嫌がらせされていたことを。
友悠は苦しげに顔を歪め、腕を組んだ。
「その腐りようじゃ、俺が挑発したせいでもっと荒れ狂いそうだ」
「いや、大丈夫。鈴原もゲイだから、そっち関連で周りに言いふらしたりはできないよ。ただ仕事増やされるだけ。だけど、はあ~……。それでも行きたくない……」
「行かなきゃいい」
一階に到着し、建物を出る。目の前にある噴水広場へ移動し、友悠は振り返った。
「仕事、辞めろよ。俺が責任とる」
「責任?」
「恋人として、パートナーとして。一生支えていく」
「恋……」
呆然としてる俺に友悠は吹き出し、髪を撫でてきた。
「ははっ! 本当は食事してるときに言いたかったんだけど。お前の反応が怖くて、言い出せなくて。自己嫌悪でおかしくなりながら店を出たんだ」
彼はポケットに片手を突っ込み、困ったように笑う。
「でも、お前の同僚がお前に突っかかってるのを見て、我慢できなくなった。打ち明けるきっかけになったことは、今となっては結果オーライだな」
「本当に? 鈴原に言ってたやつ、冗談じゃないのか」
「冗談で言うわけないだろ。お前がいる前でこんなにムキになったの、初めてだよ」




