#12
思いがけない誘いに、一瞬で目が覚めた。二つ返事でパソコンのスケジュールに入力する。
「行く」
『はは。じゃあ、仕事終わったら会おう。無理すんなよ』
「おう。お前もな」
電話を切るのが惜しいと、こんなにも強く思ったのは初めてかもしれない。
「大丈夫そうだ……」
ちょっと話しただけで、すごく回復してる。
こんなにも会いたいと願うなんて、俺も末期だな。
スマホを放り、彼の声が出ていかないよう、しばらく両耳を押さえていた。
翌日。朝から期待を裏切らない仕事量を振り分けられたが、期限内に全て終わらせた。クライアントから御礼の電話も何件かかかってきて、俺をこき使ってる同僚達は面白くなさそうだった。
いつもの定時間際の仕事も昼から催促して提出した。正直今にも倒れそうだけど、これで心置きなく退勤できる。
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
今年初めて、誰よりも早く退社したんじゃないだろうか。
恨めしそうな同僚の視線を一蹴し、エントランスを抜けた。
叶うなら毎日こうしたい。でも体力的に無理だ。
今日ここまで頑張れたのは友悠のおかげ。毎日友悠に会う予定を入れてなければ絶対無理。
てか今もちょっと遅れてる……!
待ち合わせに遅れる連絡はしたけど、全力疾走で駅へ向かう。颯爽と登場できるハイスペじゃないので、乱れたスーツで友悠と落ち合った。
初デートだったら速攻で女性に冷められるやつ……。
肩で呼吸しながら改札を抜けると、こちらに気付いた青年が軽く片手を上げた。
「よっ。お疲れ」
「はぁ……はぁ……お疲れ……!」
俺のオアシス。
今の今までグロッキーだったけど、また何割か回復した。
いつもより綺麗めな格好の友悠が、俺の乱れた髪を手ぐしで整える。
「走らなくても良かったのに。店にも遅れるって連絡したから」
「でも、待たせんの悪いからさ」
「ははっ。……ありがと。じゃ行くか」
彼は俺の手を引き、歩き出した。いつもなら恥ずかしいと思うのに、息苦しさに負けて何とも思わなかった。むしろ引っ張ってくれるのが有り難い。
何年経っても、彼の背中を眺めてる。俺は構わないけど、友悠はどう思ってるんだろう。
優しいから、何とも思ってないか。
友悠が案内してくれたのは、ビルの高層階にあるフレンチレストランだった。
高そう、と喉元まで出かけて、慌てて飲み込む。こちらの意図が伝わったのか、友悠は肩を竦めた。
「心配すんな。誕生日だから特別」
「あぁ~……そうか、誕生日プレゼントか」
「自分の大事な日なんだから忘れんなよ」
友悠はそう言うけど、俺は仕事もプライベートもぐだぐたの男だ。誕生日を盛大に祝うのも微妙だろう。
けど、彼は俺の肘を軽く引き寄せ、前を指し示した。
「ほら。行こう」




