#11
手が震える。
迷ったものの、何とか通話モードに切り替えた。
「もし……もし」
『もしもし。……泣いてる?』
何か、前もこんなやりとりをしたな。デジャブだ。
可笑しくて笑うと、電話の先からも笑い声が聞こえた。
『アタリか。今度は誰に泣かされた?』
「……内緒」
『何だそれ』
いつも通りの、澄んだ声。
友悠。彼の声を聞いただけで、渇いた心に水が満たされていく。
「まあまあ。それより、こんな時間にどしたの?」
『あぁ……日付け変わったからな。でも、仕事して起きてるだろうと思って』
友悠にしては珍しく言葉を濁している。緊張しながら待っていると、彼は息を吸い、はっきり告げた。
『誕生日おめでとう。弦美』
「……!」
デスクに置かれた時計。……の横にあるカレンダーに視線を移す。
日をまたいで、九月十五日。すっかり忘れていたけど、自分の誕生日だ。呆然としていると、友悠の苦笑が聞こえてきた。
『反応薄いなー。やっぱり忘れてたか』
「う……ん。仕事のことで頭いっぱいで。まだ帰れないし」
『ほんとに? お前、マジでいつ休んでんだ』
「ははっ。明日行けば休みだから。大丈夫だよ」
スマホを耳と肩で挟みながら、散らかった書類を片付ける。
今はもう、寂しくなんてなかった。
「元気出たよ。ありがとう、友悠」
俺はやっぱり、お前がいればいい。
付き合えなくても、想いを伝えられなくても。こうして声を聴くだけで、胸の中がいっぱいになるから。
「この前の事故は本当にごめん」
『まだ言ってんのか。それはもういいって……』
「でも、すごく悪いことしたと思ってんだ。……俺の罪悪感と、お前が想像してる罪悪感は、多分別モンだと思う」
したくないのにしてしまった時と、……ずっとしたかったことをしてしまった時の重さは違う。
囁くように答えると、彼も黙った。一秒の沈黙が、十秒ぐらいに感じる。
「……それに、こうして誕生日コールしてくれる友達は一生涯お前だけだし。マジで感謝してるよ」
『馬鹿』
「あはは。だから早く幸せになれよ。お前が幸せになったところ見られたら、もういいんだ」
こんな、心を押し潰されそうなほど取り組んでる仕事も……必死に生きる意味すら取り払ってしまう。
それだけ大きな存在が、彼だ。
『……』
瞼を伏せて待っていると、哀感が漂うため息が聞こえた。
『やけに感傷的だな。深夜のテンションみたい』
「深夜だもん」
『分かった分かった。……なぁ、明日の夜会えないか? ケーキじゃないけど、何か食いに行こう』




