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りんきおうへん!  作者: 七賀ごふん


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10/16

#10



本当は分かってる。

友悠の言う通り、身体は悲鳴を上げてる。脳が鳴らす警鐘も、聞こえないふりをしてるだけだ。仕事中も目眩がして、時折横に流れそうになる。車の運転なんて間違ってもできない。

そしてこの不調に拍車をかける存在がいる。

出勤早々、膨大な量の書類を俺のデスクに置いてる青年がいた。彼は俺のことを認めるとニヤつき、すれ違いざまに肩を叩いてきた。


「それ昼までによろしく。設営スタッフ足りなくて停滞してる案件もいくつかあるから、頓挫しないよう頑張って」


この野郎……。


許されるなら回し蹴りをしたいところだが、エナジードリンクを飲んで踏みとどまる。ケースを置き、心を無にして仕事を始めた。

こんな量、昼までに終わるわけがない。これは嫌がらせだ。

さっきの男は鈴原といって、かつては仲の良い同期だった。拗れたのはここ数ヶ月のこと。

大きなプロジェクトが終わり、彼と二人で打ち上げに行った。そこで告白された。


同性愛者だったことは驚いたし、素直に嬉しかったが、恋愛をする気はないと穏便に断った。友悠以外に自身の体質を話すつもりはなかったし、友悠以外と付き合うなんて考えられなかったから。


だがそのせいで彼の恨みを買ってしまった。

憎しみを帯びた嫉みは、鋭利な刃と同じだ。彼が近くにいるだけで、涙が零れそうになる。気持ちは負けまいとしても、気合いで何とかなるものではなかった。


常に妬いてる彼の影響で、業務のさまざまな部分に支障が出ている。無茶な仕事の振り分けは勿論、涕泣による周囲の戸惑い。上司は中々捕まらず、人事に相談できるような雰囲気でもない。

俺の居場所はどんどん縮小して、追い詰められていた。


だから何だ、と思うぐらいには強くなったけど。……今日も、気付けばデスクの上に水滴が零れている。


「大丈夫……か」


日付けが変わり、フロアに誰もいなくなってから、ようやく本当の涙を流した。

これは他人の為の涙じゃない。

いつだって自分を心配してくれた、大切な人。……“彼”を想って零した涙だ。


スマホの電話のアイコンに触れ、履歴を眺める。

会おうと思えばすぐ会いに行ける距離なのに、大人になるほど気軽に連絡することが難しくなってしまった。

こうして、皆フェードアウトしていくんだろうか。

目の前のことに追われて、大切だった繋がりが断ち切られていく。込み上げる孤独に胸を押さえたとき、スマホから軽快な音楽が流れた。


「……あ」


スマホの画面に表示されている名前。それは、今一番声を聴きたい彼のものだった。




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