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悪役令嬢、乙女ゲームから降りる ~チート冒険者アウレリアは魔境の屋敷魔物に一生溺愛される~  作者: いぬぬっこ
序章

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2/2

第二話 未来への準備は、着々と

すくすく育って、気づけば七歳。

エルナとしての生活にも、もうすっかり慣れていた。


毎日は平和で、安全で、整っている。


――完璧。

少なくとも、表向きは。


完璧すぎて、たまに胸の奥が「ん?」ってなるけれど、

今はまだ、気にするほどじゃない。


朝。


「エルナ様、本日もお美しゅうございます!」

「今日も宝石のようですね!」

「いえ、もはや芸術です!」


(うんうん、知ってる)


私は無言で頷きながら、されるがままに髪を整えられる。

櫛が通るたび、淡い青の髪がさらりと揺れた。


鏡を見なくても分かる。


雪のように白い肌。

光を含んだ青い髪。

精霊に祝福されたとか言われる、澄んだ瞳。


……うん。

自分で言うのもなんだけど、出来はいい。


――出来が、よすぎるくらい。


視線にも、もう慣れた。


じっと見られる。

値踏みされるような、期待を測られるような目。


七歳の子どもに向けるには、少しだけ本気すぎる。


「可愛いですね」とか、

「元気いっぱいですね」とか。


そういう言葉は、最初から選択肢にない。


代わりに並ぶのは、


「完璧です」

「理想的ですね」

「将来が楽しみです」


(揃いも揃って褒め称えるの、やめよ?)


……評価、評価、評価。


(七歳だぞ。

 それなのに、今から肩が重いわ)


口に出さないだけで、

胸の奥では小さく息を吐いている。


王妃教育は、もう特別な行事じゃない。

完全に、日常だ。


身支度が終わると、そのまま机へ向かわされる。

分厚い本が一冊。


王家史。


王の名前。

戦争の理由。

条約の背景。


内容自体は、嫌いじゃない。

むしろ、普通に面白い。


読めば分かるし、

覚えろと言われれば覚えられる。


「素晴らしい理解力です」

「やはり、選ばれたお子です」


また褒められる。


……正直、できちゃうから困る。


(“選ばれた”って、何基準なんだろ)


抽選?

才能?

それとも、最初から決まってた役?


考え始めると、地味に気分が下がるから、

深掘りはしないことにする。


次は礼法。


背筋を伸ばし、

視線を落とし、

決められた角度で頭を下げる。


失敗しても叱られない。

とても丁寧に、優しく直される。


――だからこそ、逃げづらい。


「王妃とは、国の象徴です」


その言葉は、今日も当然のように落とされる。


早いとか、重いとか、

そういう感覚は、


「そういうものですから」


の一言で、きれいに回収される。


(便利な魔法の言葉だなあ)


夜。

部屋に戻り、一人になると、私はようやく息をついた。


(よし、切り替え)


この身体で、どこまでできるのか。

把握しておかないと、後で困る。


(ステータス、オープン)


半透明の表示が浮かび上がる。


名前:エルナ・フォン・ヴァレンティア

年齢:7


魔力量:多い(かなり)

制御:良好

加護:???(複数)


(加護はどれもまだ未判明か……何の条件達成したらわかるんだろ?)


まあ、今は気にしないでおこう。


スキル欄。


《魔力操作(中級)》

《属性適性:全》

《言語理解》

《身体強化(微)》

《直感》

《成長補正(極)》


(うーん、悪役令嬢テンプレ)


全属性。

中級操作。

成長補正(極)つき。


『星冠のアルカディア』でも、

エルナはトップクラスのキャラだった。


知ってる。

理解もしてる。


それでも――


(ちょっとチート過ぎじゃない?)


指先に意識を集める。

胸の奥の、熱と光が混ざった感覚を、少しだけ引き上げる。


――ぱちっ。


青い光が灯った。


「……お」


視界がわずかに揺れる。


踏ん張る。

七歳の身体は、正直だ。


《魔力操作(中級)》熟練度が上昇しました。


(体力、大事。ほんとに)


魔力量は十分すぎる。

でも、それを扱う器は、まだ成長途中。


使って、慣れて、覚えていくしかない。


ふと、昼間に窓から見えた光景を思い出す。


石畳の通り。

剣を腰に下げた人。

忙しなく、それでも自分の足で歩く大人たち。


王妃教育の時間割には、

きっと一生、載らない生き方。


(……ちょっと、楽しそう)


ステータス画面を閉じ、

私はベッドに横になった。


天井を見上げる。


ここは安全だ。

守られていて、失敗しないように整えられている。


それでも――

この中に、大人になった自分の姿を当てはめようとすると、

どうしても輪郭が定まらない。


嫌だ、というほど強い感情でもない。

怖い、というほど切迫してもいない。


ただ、しっくりこない。


(……まだ、考えなくていい)


七歳だ。

今すぐ結論を出す必要はない。


それでも、胸の奥に残るこの違和感は、

「ここにいない自分」を、確かに知っている感覚だった。


――外に出たい。


それは逃げたいからじゃない。

選ぶためだ。


目を閉じる。


消えないざらつきが、

静かに、確かに脈を打っていた。


それが、

この物語の始まりになることを――

今の私は、まだ知らない。

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