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鋼の女神への独占契約  作者: Lucy M. Eden


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3/3

鋼の女神への独占契約(3/3)

ボストンの冬の朝は、鋭いクリスタルのような光と共に訪れた。


レイチェルが目を覚ましたとき、視界に入ったのは見慣れた現場の埃っぽい天井ではなく、洗練されたアンスラサイトグレーの天井だった。カシミアの毛布の心地よい重みと、微かに残る「ジンとオゾン」の残り香。


(私、眠っていたんだ……)


あれほど頑なだった不眠が嘘のように、体は驚くほど軽い。起き上がろうとした瞬間、サイドテーブルに置かれた彼女のスマートフォンが震えた。画面には「エレン」の名前。


「エレン?ええ、大丈夫よ、今は——」


「その男の名前を、朝一番に口にするのは感心しないな」


低く、滑らかな摩擦音を含んだ声が、部屋の入り口から響いた。ルーク・サリバンだ。彼は昨夜の完璧なスリーピースから一転、シャツの第一ボタンを外し、少しだけ髪を乱した姿で立っていた。その僅かな隙が、かえって彼という男の危険な色気を際立たせている。


レイチェルは慌てて通話を切り、彼を睨みつけた。


「エレンは私の大事なパートナーよ。彼が心配して——」


「パートナー、か」


ルークは大股で近づくと、彼女の手にあったスマートフォンを奪い、無造作にテーブルへ放り出した。


「君を足場から救い、スープを飲ませ、この腕で眠らせたのは私だ。その間、その『パートナー』とやらはどこにいた?」


「それは……っ、あなたに連れ去られたからでしょう!」


「そうだ。私が君を奪った」


ルークの声が、万年筆が紙を裂くような、鋭くも深い響きを帯びる。彼はベッドの端に膝をつき、逃げ場をなくすようにレイチェルを覗き込んだ。


「レイチェル。私は慈善事業で君を看病したわけじゃない。……昔から、君が他の男の横で図面を引いているのが、吐き気がするほど不愉快だった」


レイチェルの息が止まる。かつて同じ事務所で背中を合わせていた頃、彼はいつも冷淡で、彼女の仕事に厳しい批判を浴びせるだけの存在だったはずだ。


「……嘘よ。あなたは私を、ただのライバルだと」


「ライバル?ああ、そうだ。私の視界を独占し、私の思考を支配する唯一のライバルだ」


ルークの長い指が、レイチェルのうなじを愛おしそうに、それでいて独裁的な強さでなぞる。


「君のその鋼のような意志も、誰にも頼らない頑固さも、すべてを私が屈服させたかった。……だが、昨夜、震える君を抱き上げたとき、私は自分が敗北したことを知ったよ」


彼は自嘲気味に笑い、彼女の耳元に唇を寄せた。


「君を壊したいのではない。君を守る権利を、私だけが独占したいのだ」


ルークの「ジンの香り」が、朝の清冽な空気の中で熱く熟成され、レイチェルの五感を麻痺させていく。彼女の中にあった「負けたくない」という意地が、彼の切実な独白によって、甘い熱へと溶かされていった。



一時間後。レイチェルは、ルークのデスクを借りて、一枚の図面を完成させていた。


昨夜までの混濁した頭では決して辿り着けなかった、完璧な修正案。ボストンの歴史への敬意と、現代的な機能美を融合させた、彼女のキャリア史上最高のアウトプットだ。


彼女は、執務椅子に座るルークの前にその図面を突きつけた。


「これが私の答えよ、サリバン氏。プロジェクトの主任建築家として、最高の仕事を完遂してみせる。文句はないわね?」


ルークは図面を一瞥し、それから彼女を見上げた。その瞳には、投資家としての冷徹な評価眼と、一人の男としての深い情熱が混在している。


「……完璧だ。君にしか描けない線だ」


彼は立ち上がり、ペンを手に取ると、承諾のサインをする代わりに、彼女の手首を優しく、だが逃がさない強さで掴んだ。


「仕事の契約はこれで更新しよう。だが、レイチェル。私はもう一つ、個人的な契約を提示したい」


「個人的な契約?」


「ああ。期限は無期限。対等なパートナーとしての独占契約だ。仕事の上でも、……そして人生においても」


ルークは彼女を自分の方へと引き寄せた。カシミアの毛布よりも温かく、ボストンの冬よりも厳しい、だが何よりも待ち望んでいた抱擁。


「今度は、私に弱音を吐くことを条件に含めてもいい。君が一人で背負う重荷を、半分、私が買い取らせてほしいんだ」


レイチェルは、ふっと肩の力を抜いた。長年着込んできた「完璧なプロ」という名の重い鎧が、彼の腕の中で音を立てて崩れ落ちていく。


「……高くつくわよ、サリバン氏。私はすごく我儘なんだから」


「望むところだ。そのための資金 (愛)なら、一生かかっても使い切れないほどある」


ルークの低い笑い声が、彼女の胸の奥を震わせた。彼が顔を近づけ、唇が触れる直前、あの「万年筆が紙を滑る音」に似た囁きが聞こえた。


「愛している、レイチェル。私の鋼の女神」


外ではボストンの街が、新しい朝の光に包まれて輝いていた。二人の間には、もはや勝ち負けなど存在しない。ただ、冷たい石造りのオペラハウスに新しい魂を吹き込むような、情熱的な口付けだけが、新しい物語の始まりを告げていた。

最後まで、ありがとうございました。

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