ある日、隣人の部屋を覗いてしまった。
初短編です!
楽しんでいただけたら幸いです!
「あーあ。本当に人生がつまらねぇなー」
ニ階建ての一軒家。
ゴミが重なったような、ずぼらな部屋に一人の青年がいた。
成木亮平――この男の名。
身の丈に合わない布団に寝転びながら、現在についての愚痴を零していた。
「こんな感じで毎日が過ぎてくんだろうな〜」
立ち上がる。
ふと外の景色を見ようとカーテンを指先で動かす。
別に広大で、綺麗な街景色などが広がっているわけではなく、隣人のベランダが大半を占めている。
ハシゴをかければたどり着けそう。そう子供じみた妄想が捗る距離だ。
「あれ、なんかやってんな」
隣人の窓に視線が釘付けになった。
奥が薄暗いのだろうか、窓からは光が反射し輪郭だけが確認できる。
「――いい体だな······」
つい声を零してしまうくらいには、隣人の体は魅力的に思えたようだ。
凹凸のある、素晴らしい発育の輪郭。それに成木は釘付けだ。
「お、まじか!」
次に見えたのは下着を脱いでいるであろう光景だった。
実際に見てもいなくとも、行為に及んでいるという情報だけで興奮を隠せないようで。
「くそっ! カーテンがなければ!」
悔しがるのも束の間、電気がパッと消えた。きっと着替えが終わったのだろう。
暫くすると、玄関から美人の女性が出てくる。
「モデルとかなんかな······」
周りには神々しい、それでいてオーラのある。フィルターがかかってしまうくらいの容姿。
諦めがついたのか、成木はカーテンを閉めて布団に寝転んだ。
頭に残るのは先程の素晴らしい光景と、玄関から姿を見せた美人の姿。
「近づきてぇな······」
成木は布団へと包まったのだった。
◇◇◇
次の日の朝。
「今日もなんか見れねぇかな」
成木はカーテンを開けていた。視線の先は隣人の部屋。
開いている、という幸運なことはなく、当然カーテンは閉まっており輪郭すらも見えない。
「さすがに無理か······?」
落胆の声が落ちた。
諦めようかと窓辺から離れようとした瞬間、パッと隣の部屋に明かりがついた。
「おっ! きたきた!」
無邪気な子供のよう。
念の為、バレないよう成木はカーテンを全開にはせず隙間から覗く。
「今日は何が見えるかな······っ!?」
言葉続きに動揺してしまった。
それは隣人の部屋の窓が全開になったからだった。
猫ちゃんパジャマに、綺麗な髪には寝癖が残ったまま、外の空気を吸い日光を浴びている様子。
そして緩まった胸元は無防備に写った。
「――うぉっ!」
隣人の窓が閉ざされた。
そして成木はひそかに、静まった部屋の中心でガッツポーズ。
いいものが見れた、ただそれだけだった。
「やばいな、俺本気であの人が好きだ」
二日
しかも、窓から一方的に覗くという犯罪行為から恋心を寄せている。
傍から見れば気持ちが悪いこと。だが成木には不思議にも容姿には自信があるようだ。
「いいもん見れたし。――よいしょっと」
そう陽気な声を残ぜば、机に置かれた飲料水を口にし、成木は布団へと包まったのだった。
◇◇◇
次の日。
「失礼しますよっと·······」
別に声量を下げる必要はないのだが、慣れた手つきでカーテンをズラす。
「そろそろ話しかけに行っちゃうかぁ·······?」
頭の中には隣人との素晴らしい日々を作り上げていた。
それ程までに、成木は隣人の女性に魅了されていた。
「さすがに彼氏はいねぇよな。うん、きっとそうだ」
事実の確認などしていない、憶測だけでそう判断したようだ。
成木から見れば、恋をした女性に自分以外の男がいてほしくない。まぁ、当たり前のことだった······。
「――は?」
体が固まった。
隣人の窓からは何も見えてはいない。視界の先には玄関前で、二人の男女が腕を組んでいる姿。
その女性は――隣人であった。
「なんで、なんで、なんで」
頭を抱えて、何度も呟く。二人の男女は家へと入っていった。
「いや、そんなわけ無い、きっと兄弟とかだろ。ああ、きっとそうだっ。そうそう」
鋭い眼差しでカーテンを覗く。
パッと薄暗い明かりがついた。そして輪郭が鮮明に見える。
――一人が抱き合しめれば、もう一人も同様に抱きしめる。そうして二人はそのままベットへと倒れ込んだ。
「あー、やだやだやだ」
もう一人が上へと跨り、上着を脱いでいるようだ。
「あーっ、やだやだやだっ!!」
叫ぶようにカーテンを閉じた。そして部屋の中にある物を乱雑に薙ぎ倒す。
机に乗る食料品や、側に置かれていた洋服を破き、おもちゃが転がる。
「――寝よう」
倒れるように布団へと寝転んだ。
◇◇◇
「なんかの間違い」
生気の感じない声音。
弱ったようにカーテンの隙間を指でひっそり開けた。
ボサボサになった長い髪の毛、目は酷く充血していた。
「違うんだ。あの人は俺のことが――」
奥に見える隣人の部屋は真っ暗、きっと寝ているのだろう。
だが、玄関前に一人の人物が立っていた。
「――誰だ?」
黒色のマスクを被っており顔は視認できない。全身も同様黒色だ。
だがそれよりも異様なのが、片手には鋭利な包丁を握っていた。
その男は流れるように玄関へと入っていった。
少しするれば、奥の部屋は薄暗い明かりがつく。
「うん······?」
ベットから人が起き上がった。そして慌てふためき、部屋から逃げようとし始める。だが長い後ろ髪を掴まれたのか、場に伏せられる。
「――あれ?」
唯一鋭利な包丁だけがよく分かった。それが何度も、何度も、場に伏せているであろう人物に突き刺ささる。
「――やばい」
脳裏にあることが過ぎった――襲われているのではと
成木は窓を思い切り開けた。
包丁が下へと振り下ろされるたびに、助けを求めるように手が昇る。
それすらも押されられ、包丁は止まらない。
「警察! 、そうだ警察」
ハッとして、スマホを取り出した。
怯えるように手が震え、いまいち番号が上手く打てない。
勢いのあまり地面へと落としてしまった。
「あれ······血······?」
すると視界が一瞬ノイズがかったように見えた。
だがそれは不思議と消え去る。
気のせいかと一蹴すれば、隣人のカーテンが開かれた。
「っ?!」
――男がこちらを見つめていた。
そしてゆっくりとマスクを取り外し、目視できたその顔。
長くボサボサの髪、剃り残しが残る髭に赤く充血した目――成木亮平だった。
「俺·····?」
また頭を抱えた。脳内には部屋中に響くインターホンの音。世界の見え方が切り替わるように、部屋が一変した。
「そうだ。そうだった」
なにかを理解したようだ。
同時に階段からは駆け上がるような足音が聞こえると勢いよく自室の扉が開いた。
「――警察だ!」
複数の警察官が入って来た。拳銃を向けられても、成木は動揺せず薄っすら笑みを浮かべていた。
部屋に散らばるのは黒のマスク、深紅に染められた液体が残るペットボトル――そして、びっしりとそれが付着した包丁だ。
「成木亮平。お前を殺人の疑いで逮捕する!!」
◇◇◇
『正午前、東京都内にて殺人事件がありました。犯人は隣人の被害者女性へストーカー行為に及んでおり、殺人へと至った模様です――』
今朝のテレビには物騒なニュースが流れていた。
『――犯人は『浮気されたんだ。だから殺したんだ』と供述しており。警察は調査を進めています』
テレビに映るのは黄色の規制線が敷かれた二つの一軒家。警察が大勢立っている。
パッとテレビが閉じた。
どこか、薄暗い部屋で男が笑った。
「あーあ。人生って本当につまねんねぇなー」
ここまで呼んでいただき誠にありがとうございます!
また誤字脱字等が確認できましたら、報告を貰えるとありがたいです······




