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第9話 幸運の青兎

「よし、これで目標の数を達成したな」


 俺達はダンジョンの第三層で5匹目の魔物を討伐した。

 今日の探索の目的は三層で魔物を引き倒す事だから、これで下層目的は達成した訳だ。


「それじゃあ帰りましょうか」


「まだ余裕がありますけど、もう帰るんですぁ?」


 と、エルメノがまだ余力があるからもう少し探索していかないかと提案してくる。


「いや、今回の目的は達した。慣れた者同士ならそれも良いだろうがまだ我々はお互いの力を深く信頼していないからな」


 うん、野良パーティを組む時は余裕があっても欲をかかないのが鉄則とされている。

 基本野良パーティを組む場合は新人同士である事が多いから、欲を張って引き際を誤る可能性があるからだ。

 そして慣れたソロの場合、未だにパーティを組まない理由がメンバーを危険に晒す可能性がある。


 なので、目的を達成したら即撤退は冒険者にとって精神的な成熟度の目安と言えた。

 余程の例外が無い限りは。


「じゃあ帰ろうか」


「そうですね。勿体ないけど諦めます」


「うむ」


 そんな感じで上の階層へ戻る会談へ向かおうと俺達が振り返ると、水色の兎が正面の十字路を横切った。


「あっ、今のってラッキーラビットじゃないですか?」


「ホントだ。縁起がいいなぁ」


「おお、私も生きているのを見るのは初めてだ」


 ラッキーラビットというのはダンジョンに棲息する凄く貴重な兎の事だ。

肉は凄く美味しく、素材は滅茶苦茶貴重な薬の材料になるもんだから、もし捕まえたら相当な稼ぎになる。

何せただの兎が一流である二等冒険者の稼ぎに匹敵する儲けをもたらしてくれるんだから。


「「「……って、え?」」」


 俺達はかを見合わせる。

 そして、お互いが見たものが幻じゃなかったと頷き合う。


「追いかけろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 俺達は駆け出した。

 だってラッキーラビットだよ! 金貨数百枚分の儲けだよ!?

 冒険者の精神的な成熟度? これが例外って奴だよぉぉぉぉぉっ!


 ラッキーラビットが横切った十字路を曲がって俺達は駆ける駆ける駆ける。


「「「ギシャアア!!」」」


「「「邪魔ぁぁぁぁぁ!!」」」


 俺が魔法をぶちかまし、メイリーンとエルメノが剣とメイスを叩き込む。

 生き残った魔物達は、俺達の勢いに気圧されたのか、こんなやべー人間に関わってられるかとばかりに逃げ出す。


「ラッキーラビットは!?」


「見あたりません!」


「もしかして今の魔物達に食べられたんじゃ!?」


 ありえる。無茶苦茶美味いって話だし。


「いや、魔物達の口は血で汚れてなかった! 無事な筈だ!」


 今の一瞬の会敵でそこまで見てたの!?


「魔物に驚いて走って逃げたんだろう! 追うぞ、運の良いことにこの先は行き止まりだ!」


「おお、それはラッキー!」


 これもラッキーラビットの幸運効果って事か!? 本兎は不幸だけどな!

 俺達はラッキーラビットを追って、通路を走る。

 そしてロザリーンの言った通り行き止まりにたどり着く。たどり着いたんだが……


「ラッキーラビットが居ない?」


 何で!? 行き止まりなんだぞ!?


「どこかで見落としていたんでしょうか? ダンジョンは薄暗いですし」


いや、それはありえない。俺には神様がくれた暗視の加護がある。

これのお陰で俺は薄暗いダンジョンが昼間のように見えるているんだ。

あんな目立つ色の兎を見逃すはずがない。


俺は行き止まりの地形をよく見て回る。

行き止まりに追いつめられた相手が消えたというのなら、考えられるのは隠し通路くらいだから。

 そして思った通り、俺は壁に違和感を発見する。


「あった、これだ」


 行き止まりの通路の右端に、丁度ラッキーラビットが入れそうなサイズの小さな穴が開いていた。


「これを通って逃げたのか」


「暗くて全然分かりませんでした。良く見つけましたね」


 ははは、神様のスパチャのお陰です。


「でもこれではラッキーラビットを捕まえるのは無理ですね。流石にこんな小さな穴では通り抜ける事も出来ません」


「手を入れたら届かないかな?」


 気配察知の加護がこの穴の奥に何か生き物が居るのを感じる。

 安全な場所に逃げ込んで安心してるんだろう。


「止めておいた方がいい。仮にも魔物だ。手を突っ込んだ瞬間指を噛み切られるかもしれんぞ」


 あ、それは怖い。


「しかたない、諦めよう」


 マジかぁ。せっかくラッキーラビットを見つけたのに。

 隠し部屋かと思ったら、ただの隙間だったとか肩透かしにも程がある。

 ラッキーの名前は俺達じゃなく本兎に微笑んだらしい。


「せめてダンジョンの壁を壊せたらなぁ」


 俺はコンコンとダンジョンの壁を叩く。


 ダンジョンの壁は基本的に滅茶苦茶硬い。

 これはダンジョンが何十層にも積み重なった構造物かつ、侵入者(人)と番人である魔物が激しく争う事から十分な強度を確保しているんだろうと推測されていた。


「ダンジョンの壁が簡単に壊せたら今頃私達は生き埋めになっちゃってますよ」


「そうなんだけどねー……ん?」


 未練がましく壁を叩きながら戻ろうとした俺は、急に壁の音が変わった事に違和感を感じる。


「なんだ?」


 俺は壁を叩く音を確認すると、少し戻ってまた壁を叩く。

 すると明らかに音が違う事が分かる。


「どうした?」


「壁の音が違う」


「何!?」


 即座に言葉の意味を察したロザリーンが周囲を伺う。

 警戒してるのは魔物じゃなく他の冒険者だ。


「本当か?」


「間違いない。ちょっと待ってて」


 俺は慎重に壁をコンコンと叩いてゆく。

 やっぱり音の反響が違う。


「っ、これは」


 一瞬音が変わった事からここに何かスイッチがあるかの思った俺だったが、なんだかすごく嫌な予感がしたのでそこから離れる。

 何だ今の感じ? もしかして何かの罠か?

 そう言えば以前神様から罠感知の加護を貰ってたっけ。あれのお陰か?


 俺嫌な感じがしない場所まで移動すると、また壁を軽く叩きながら指の感触に集中する。

 すると暗視の加護ではっきりと見えるダンジョンの壁が、俺の手に押されて僅かにヘコむ瞬間を確認する。


「これか!」


 しかしわずかに動いた壁は押してもそれ以上動くことはない。

 でも他の場所は全く動かないし、何かありそうなんだよな。

 もしかして引っ張るとか?


 俺は壁の石の動く部分を掴んでグイグイと揺らしてみる。

 すると壁の石が横にわずかに動いた。


「あっ」


 しかし石はそれ以上動かず、止まってしまう。


「違ったのか? いや待て、もしかしてこれ……」


 俺は手にした壁の石を指に伝わる感覚を頼りに上下左右前後に動かす。

 すると少しずつ石が動いてゆく。右に、上に、奥に、下に……


「やっぱりそうだ。これ箱根細工と同じだ」


「ハコネザイク?」


 俺の独り言を聞いたエルメノ達がなんだそれと首を傾げる。


「あー、カラクリ細工の箱だよ。決められた順序で箱の部品を動かさないとフタが開かない鍵を使わない宝箱なんだ」


「そんな宝箱があるんですか!?」


「鍵をかけなければ簡単に開けられてしまうのではないか?」


 そう思うのも無理はない。でも箱根細工ってマジで開け方を知ってないとええ!? そんな風に開けるの!? ってビックリするんだよな。

 興味を持った人は箱根に箱根細工で出来た家具を実際に触れる施設があるから、是非行ってみて欲しい。

 俺は異世界に居るからもういけないけど。


 そしてカチャリと音がすると、壁に隙間が生まれる。

「開いた!」


 俺は隙間に手をかけて引っ張ると、壁が横に開いてゆく。


『きゃー! 凄い凄い! よくわかったわね!』


『ふむ、異世界のカラクリ細工か。興味深い。後で見に行ってみるか』


 神様、異世界に旅行気分で行けるんだ。


『戦うだけでなく謎解きで隠し扉を発見するなんて、素敵だわ』


『そのきっかけが一匹の小さな魔物というのも面白いな。その前の欲望でギラギラした顔も面白かったが』


 それは忘れてください。


『―探索の加護を授かりました―』


『―工作の加護を授かりました―』


 おおー! やったやった! スパチャありがとうございます!

 今はお礼が言えないから心の中で言っておきます!

 後で改めてお礼の配信をしよう!


『―強欲の加護を授かりました―』


 待って、今の何?

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