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第7話 パーティを組め!?

「という感じで冒険者に襲われました」


 ダンジョンから脱出した俺は、冒険者ギルドに報告にやってきていた。

 冒険者ギルドの刃傷沙汰は決して珍しいわけじゃないが、襲われて生き残った方がちゃんと報告しないと目撃者がいた場合逆に襲った方と勘違いされかねないからね。


「で、これが襲ってきた連中の冒険者証です」


 冒険者ギルドから発行される冒険者証を受付嬢に渡す。

 コイツは冒険者のランクやらを確認するだけでなく、死んだ際のドッグタグみたいな扱いとしても使われるんだ。


「こんなに!? どうやって助かったんですか!?」


 ズラリと並べられた冒険者証に受付のパームさんが驚きの声を上げる。


「あー、うん。通りすがりの冒険者が力を貸してくれてね」


 流石に神様から加護を授かって全滅させましたとは言えんわな。


「……そうですか。本当に運が良かったですね」


 うんそうだねー。


「あと、杖を破壊されたから連中の持っていた杖を代わりに……」


「杖を!? それでよく助かりましたね!?」


 杖は魔法使いの命だ。それを破壊されたと聞いてパームさんが目を丸くして驚く。


「いやだから通りすがりの冒険者にね……」


「ですよね! やっぱり一人だと無理ですよ!」


 最後まで俺の言葉を聞かずパームさんが受付カウンターから身を乗り出す。


「ランプさん、パーティを組みましょう! 今回は助かりましたがいつまでも幸運は続きませんよ!」


 しまった、パームさんのスイッチが入ってしまった。

 この人俺が新人の頃から面倒見てくれた人だから、事あるごとに俺にパーティ組めって言ってくるんだよなぁ。


「いやー、パーティは……」


「なら俺と組もうぜ!」


「げっ、その声は……」


 一瞬で憂鬱な気分になった俺が振り返ると、そこには溌溂とした笑顔の男の姿があった。


「モッド……」


「ああ、お前のモッドだ!」


 断じて違う。

 あーこいつはあれだ。以前話した俺に告って来た冒険者だ。


「そうですよランプさん。モッド君ならお勧めですよ。何せこの若さで冒険者等級3のベテラン、にも拘らず奢ることなく爽やかで依頼主の受けも良し! なんですよ」


 ちなみに冒険者は6級から1級まであって、6は初心者、5は多少慣れた駆け出し、4は一人前、3は熟練、2は一流、1は超一流だ。

ちなみに俺は実力はそれなりにあるが、ソロだから実績が少なくて4寄りの5。

仲間に頼れるパーティに所属しているかも安定と信頼感といった等級の認定に関わってくる。


「いやー、ほら、私みたいな低ランクが入ったらモッドのパーティメンバーにも悪いし」


「ん? 儂等ならいいぞ。お前さんの事はコイツがいつも惚気ているからな。寧ろお前さんが来てくれれば儂等が惚気られなくて助かる」


「そうですね。貴方が加わってくださると我々も恋愛相談に突き合わされなくてすみます」


 パーティの仲間達、君ら本当はモッドの事嫌いなのでは?


「だが実力の低さは確かに気になるな。弱い者を縁故で採用したパーティは早晩壊滅するぞ」


 おお、よく言った仲間の人その3!!


「大丈夫だ! ランプなら強くなる!」


 やめろ、確証もないのに適当な事言うな!


「……確かに、後衛の魔法使いが数年間ソロで生きてこられた部分は評価する」


 そこは食い下がれよ!


「申し訳ないけど遠慮します。男だけの熟練者パーティに女が入るとパーティ崩壊のきっかけになるというのは昔から言われている話でしょう?」


 これは事実だ。熟練として名が売れているのに女のメンバーが居ないパーティってのは大抵女にもてない連中か、ストイックな連中の集まり。

 そこに突如若い女が入って来たらどうなるかは火を見るよりも明らかだろう。

 だから女メンバーを追加するのは、大抵最初から女が居るパーティくらいなんだよね。


「そんな事言うなよランプゥ~」


 まぁその辺は全部建前だ。最も重要な問題、それは……

 どれだけ有望でもコイツが男だからだよ! そしての俺の中身は男!

 男からのガチのラブコールとかまっぴらごめんなんだよ!


「という訳でごめんなさい」


 周囲からまたモッドがフラれたぞーと笑い声が聞こえてくる。

 うん、いつもの光景なんだわコレ。


「なら女性メンバーのいるパーティに入りましょうよ」


「それを本気で『私』に言いますか?」


俺は以前男女混合パーティに入った事がある。

 だがそこで前世が男だった事から距離感を間違えてしまい、事もあろうに彼女持ちのメンバーをガチ恋させてしまったのだ。

 そうなるともうパーティにはいられない。

 ちなみにメンバー内で片思いしてる相手が居るパーティに入ってしまった時も同じような事が起きた。

 もうね、胸に秘めた片思いとか知る訳ねーっての。

 そんなに大事なら自分者だーって名札でも付けておいてください。


「あー、そんな事もあったわねぇ……」


 ここまで来るとサークラならぬパークラ認定されて敬遠されるものだが、不幸中の幸いだったのは片思いパーティでやらかした事でメンバーの恋愛感情が露呈、それがきっかけで付き合う事になったパーティがあった事でこれ以上の悪評が広まらずに済んだのである。


 でも付き合う為のきっかけが欲しいから期間限定でパーティに入って欲しいって頼みに来るのは止めて欲しいんだわ。

 変な方向に需要を見出さないでほしいものである。


「という訳で色恋沙汰に発展しそうな話はお断りです。私はソロでやっていきたいので」


「でも心配なのよー」


「そうだぜ、俺も心配なんだよ。だから俺と結婚して家庭に入るとかならどうよ」


「何がだからか全く理解できませんのでお断りします」


「ガーン!」


「モッドがまた振られたぞー!」


「今日は二敗かー」


 そしてギルドでたむろっているおっさん冒険者達にからかわれるモッド。

 この若さで並外れて活躍してるコイツが嫉まれないのはこういうヌケたところがあるからなのかもなぁ。

 ん? そうなるとモッドの評判には俺が貢献してるって事か?

 やめやめ、この件は考えるのを止めよう。


 とにかくこれでまた暫くはパームさんのお見合いもといパーティ攻撃は無くなった訳だ。


「あ、あの!」


 しかしカウンターから離れようとしたその時、俺に二人組の女冒険者が声をかけてきた。


「はい?」


 正直に言えば、ここで返事をしてしまったのがまずかった。

 話を聞くにせよ、カウンターから離れた場所まで逃げるべきだったのだ。

 しかし、彼女達の意図に気付かなかった俺は、うっかり足を止めてしまった。

 そして彼女は口を開いてこういった。


「ソロ冒険者の方とお見受けします。もしよろしければ私達とパーティを組んで頂けませんか?」


「……え?」


 これが、俺の人生を左右する二人との出会「勿論歓迎よ! 是非この娘とパーティを組んであげて!」


「ちょっ、パームさん!? 何勝手に人のモノローグに割り込んでるんですか!?」


「何わけわかんない事言ってんのよ! それよりも女の子よ! 女の子の二人組が貴方とパーティを組みたいって言ってくれてるのよ! これは受けるべきでしょ!」


「いやいや、別の場所に男のメンバーがいるかもでしょ! 勝手に決めないでくださいよ!」


「いえ、私達は二人だけのパーティです。女性のメンバーを探してここに来たんです」


 マジで!? いくらなんでも女の子だけのコンビパーティって都合よすぎない!?


「私はエルメノ。治癒魔法使いです。こちらは剣士のロザリーン」


「ロザリーンです」


「治癒魔法使いと剣士と魔法使い。良いパーティじゃない」


 俺を無視してウンウンと頷くパームさん。


「よし決めた! 貴方達パーティを組みなさい!」


「いやだから勝手に決めないでくださいよ!」


「何言ってるのよ! 貴方の望んでいた女の子だけのパーティよ! こんなチャンス二度とないわよ! 女三人のパーティ、これなら不足した戦力を女の子だけで揃える事だって夢じゃないわ!」


「それはまぁ」


 確かに女一人で女性のみのパーティを組むのは至難の業だ。

 だけど三人のパーティなら最低限戦えるし、それならと四人目が加入してくれる可能性は高い。


 俺としても恋愛によるトラブルを心配しなくていいのは凄くありがたい。ありがたいんだけど……


「配信、どうしよう……」


 ◆


 結局、パームさんからギルド職員の強権が発動してパーティを組む事が決まってしまった。

 強権と言っても強制的な命令とかじゃなく、俺が危険な目やトラブルに遭いまくって来た事を理詰めで説得されたとも言える。


「ランプちゃんは今までパーティ運が悪すぎたから臆病になってるのよ。だからこのチャンスを逃す手はないわ。まずは試しに一回野良パーティを組むだけでもしてみなさい!」


 完全に善意で薦められた事もあって、俺はエルメノ達とお試しでダンジョンに潜ることになった。


「まぁそれに、女の子とパーティを組めるってのは悪い事でもないんだよなぁ」 


 実際エルメノ達は二人共可愛くて綺麗だし、女だけでパーティを組んでいれば元男の俺にはご褒美な場面にも遭遇できる可能性が出てくる。

 女の子同士で無防備に薄着でキャッキャウフフなシーンだって期待出来ちゃうわけだ。


「ただそうなると問題は配信なんだよなぁ。彼女に配信がバレるのはマズいしなぁ」


 実際には出来ない訳じゃない。エルメノ達に配信の事を教えて合意のうえで配信すればいいからだ。


「でもそれはそれでパクられる危険があるんだよな」


 そう、アイデアの窃盗だ。

 通信魔法を使った配信活動は、現在確認出来る限り俺しかやっていない。


「つまりスパチャが入れ喰いのブルーオーシャン状態だ」


 だがエルメノ達が俺の活動のメリット知った場合、俺と分かれた後に自分達もやってみようと行動に移すかもしれない。

 そうなったら彼女達の配信をきっかけに他の冒険者達に情報が洩れる恐れが出てくる。  するとどうなるか……


「冒険配信者が大量発生して俺が埋もれる危険が出てくる」


 うん、現代の配信者と同じだよね。金になると知った人達が大量に溢れ、画期的だった企画は陳腐なものになる。

 結果入れ喰いのブルーオーシャンどころかイモ洗いの海の如きレッドオーシャンになってしまうだろう。


「いつか配信がバレる可能性は考えてたけど流石に早すぎる。出来ればもうしばらく稼いで貯蓄を溜めないと」


 バレるのは先行者利益を得られるだけ得てからの方がいい。

 今のうちに視聴者を増やしておけば、一定数は固定ファンが残ってくれるだろうし。


「となるとエルメノ達との冒険は配信なしでいくか」



 別に全ての冒険を配信しなきゃいけない訳じゃない。

 実際の配信者も配信で楽しい部分だけ見せる為に動画を編集してる訳だしな。


「よし、エルメノ達との冒険は配信なしのプライベートにするか!」


 そう決めた俺だったが、後日うっかりやらかしてしまう事になる。


 ◆


「うん、良い感じ。ちゃんと直ってる」


 俺を襲ったおっさん冒険者達によって破壊された杖が修理から戻って来たので、エルメノ達との冒険前の試運転を兼ねて配信をしていた。


『直ってよかったわねー』


『思い入れのある品だったみたいだものね』


『―杖に不壊の加護を授かりました―』


「わっ、ありがとうございます!」


 おお、これは嬉しい! 魔法使いは杖が壊されるとマジでヤバいって実感したからなぁ。


「それじゃあ今日の配信はここまでとさせてもらいますねー」


『え? もう終わり?』


『早くない? もっとお喋りしようよー』


「すいません、明日は人と冒険に行くので早めに終わらせようと思って」


『って事は明日は他の子も一緒に配信するの?』


『楽しみー』


「あっ」


 やべっ! うっかり喋っちまった!


「い、いえ。明日参加する人達は配信の事を知らないので配信は無しの方向で……」


 しかし、俺が配信なしというと、一斉に光の人形達から文句が出る。


『えー、観たい観たい!』


『他の子と一緒に冒険するランプちゃんの活躍が観たい!』


 やべぇ、収集つかなくなった。

 しかもこの状況で強引に話題を切ったらノリが悪いと視聴者離れを招く危険も出てくるんじゃ!?


「皆さんの期待には応えたいんですけど、他の人達に配信のことがバレると色々トラブルになる危険もあるので……」


 主に俺のスパチャがピンチになる。


『……ならお前以外には見えないように秘匿すればよいのではないか?』


「え? 秘匿? どうやって?」


『しばし待て……うむ、これなら術式を少し弄れば問題ない』


 マジで!? 神様凄いな! 通信魔法のプログラムを弄れるの!?

 いや俺も配信をする為に術式を調整したけど、あくまでも素人改造というか、ゲームのオプション画面を設定するレベルだ。

 とても術式を他人に見えなくするような改造は流石に出来ない。


『こちらで改造した術式を用意しておく故、次回の配信までに一度術式受け取りの為に配信をするがよい』


「わ、分かりました!」


 こうして、俺の配信術式は神様によって秘密のシークレットモード搭載型に改造されることとなった。

 って言うかもしかしてこの神様、魔法開発の技術者さんだったりする?

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