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第6話 加護の神髄

「おっとそれまでだ」


 逃げようとした俺を待ち構えていたのは、以前俺がひったくりに遇った際に路地裏への深追いを止めてくれたおっさん冒険者だった。


「おっさん!?」


 何故ここにおっさんが!?


「おら、捕まえたぞ!」


「しまっ!?」


 驚いた隙にズボンを履きなおした男に捕まってしまう。


「運が悪かったな嬢ちゃん」


 ゆっくりと階段を降りてくるおっさん。

 しかしその身のこなしは万が一にも俺が逃げられないように警戒しているのが感じられる。


「何であの薬が効かなかったんだ?」


 薬、俺を眠らせようとしたあの布事を知ってるって事はやっぱり……


「アンタ、最初からグルだったんだな」


 あの時、俺が路地裏に入らないよう止めたのは、俺を心配したからじゃなく仲間が追いかけられないようにする為だったのか。


「いやいや、お前さんを心配したのは本当だぜ。俺達とは別のシマの連中に目を付けらたら大変だからな」


「そりゃどーも」


 ぜってぇ嘘だ。

 この慣れた感じ、コイツ等多分常習犯だ。

 もしかして、新人がお宝を手に入れる度にこうやって盗んでいたのか?


 ともあれこの状況はヤバ過ぎる。

 武器も荷物も奪われ身一つ。

 しかも相手はこっちにエロいことする気満々の野郎共ときた。


「荷物を捨てて逃げだそうとしたのは良い判断だったぜ。大抵の奴は荷物を惜しんでせっかくのチャンスを不意にしちまうもんだ。俺さえいなかったら逃げられただろうぜ」


「なら逃がしてくれませんかね?」


「そうもいかねぇ。俺達の顔を見ちまったからな。お前さんがあのまま寝ていたら、俺達が楽しんだ後で見逃してやっても良かったんだけどな」

 

 それ、寝てる間に魔物に襲われて死ぬだけでは?


「まぁ安心しな。大人しくしていれば痛い目には合わせねぇよ。なんなら次の就職先も斡旋してやるさ」


「それ絶対奴隷にする気だろ!」


 この世界には奴隷制度がある。

 大抵は犯罪者や借金のカタとかなんだが、悪党が人を攫ってなんてのもよく聞く話だ。

 問題は自分がその対象になるのはまっぴらごめんって事なんだが。


「っ」


 何とか拘束を振り切ろうとしたが、ガッチリと肩を掴まれていて全然抜け出せない。


「止めとけ止めとけ。抵抗するだけ痛い思いをするだけだぞ。杖も取り上げたから魔法も使えんだろ」


 その通りだよ畜生! この世界じゃ魔法使いは杖のような特別な道具が無いと魔法を使えない。

 だから魔法使いを無力化する一番の方法は杖を破壊する事ってのは定番の……


「オラッ!」


 バキィという音と共に俺の杖が折られる。


「ああーーーーーっ! 俺の杖!!」


 このやろうなんてことしてくれやがるんだ! 安物の杖だって高いんだぞ!!

 つーか師匠がくれた卒業の証なのに!


「これで完全に望みは断たれたわけだ」


 くっぞ! 何か方法は……ってソロ冒険者じゃ助けも期待できねぇーーーー!


「そんじゃ今度こそ楽しませてもらうぜ」


 再びカチャカチャと悍ましい音が鳴りだす。

 ああああああ、今度こそ詰んだぁぁぁぁぁぁぁぁ!


『大丈夫よ。私達に任せて』


「え?」


 その時、優しい声が耳元で囁いた。


『―純潔の加護を授かりました―』


 俺の目の前に新たな加護の表示が現れる。


「うへへへ、それじゃあお楽しみの時間だ……あ?」


 男の手が俺のパンツに伸び、グイッと勢いよく引きずり降ろそうとした時、男は奇妙な声と共に手を止めた。


「どうした、早くしろよ」


「い、いやそれが、脱がせられねぇんだよ」


「ああ? そんな筈ねぇだろ。替われ」


 男を押しのけて別の男が俺のパンツに手をかける。


「どうせ興奮し過ぎて手が震えたんだろ。そー……ら?」


 しかし交代した男も俺のパンツを握っただけで下ろす事は出来なかった。


「どうなってんだ!? 脱がせられねぇぞ!」


 なんだなんだと男達がきて代わる代わる俺のパンツを下ろそうとしては何も出来ずに交代してゆく。

 何だこの光景。


『貴方に純潔の加護を授けたのよ。この加護は貴方が心から体を許したいと思った相手にしか服を脱がせられなくなる加護なの』


「そんな加護あるの!?」


 全国のくっ殺女騎士と聖女垂涎の加護じゃん!

 あと俺の心は男なので一生体を許したいと思う男は現れません!


「駄目だ! 脱がせられねぇ!」


 力ずくでパンツを下ろそうと躍起になっていた男達が肩で息をしながらへたり込む。

 うーん、言葉にすると凄く間抜けな光景なんだけど当事者としては凄く助かってます。


「馬鹿かお前等。どんなからくりか分かんねぇがそんなもん切っちまえばいいじゃねぇか!」


 うわぁぁぁぁ! そりゃそうだ! ヤバイ今度こそ終わった!

 男のナイフがパンツの内側に差し込まれようとする。


『大丈夫よ。神様の加護を信じなさい』


「あ、あれ?」


 すると男は困惑した声でパンツを切ろうとするも、パンツは全く切れる様子もない。


「どうなってんだ!?」


 うおお、凄い。脱がすことも切り裂くことも出来ないとは!!


『ふふふ、凄いでしょう』


「ありがとうございます神様!」


「ちっ、何かのマジックアイテムか? 構わねぇ。このまま縛り上げて連れていけ! そんで奴隷として売っちまえばいい」


 ぎゃあぁぁぁぁぁ! それがあったぁぁぁぁぁ!

 どどどどどうするよ! 杖も剣も奪われて抵抗できねぇよ!


『落ち着くのだ。神を崇めよ』


『―剛力の加護を授かりました―』


 え? 剛力?


『戒めを振りほどいて全力で殴るがよい』


「え? いや流石にそれは……」


『神を信じよ』


「あーもう、こうなったらやけだ!」


「この女、何をブツブツ、うぉっ!?」


 自棄になった俺が男の拘束を振りほどこうと暴れると、拍子抜けするほど簡単に男の拘束を振りほどくことが出来た。


「おお!?」


『今だ、殴るのだ』


「は、はい! ええーい!」


 俺は振り向きざまに男を思いっきりぶん殴る。


「ぶべぇ!」


 すると男はドズンという重い音と共に一瞬浮き上がり、そのまま地面に崩れ落ちてゆく。


「え、ええ?」


 なにこれー、どうなってんの俺!?


『剛力の加護で今のお前はゴリラ……とまではいかないまでもかなりの力を振るうことが出来る。武器を奪い返して一気に勝負を決めるがよい』


「分かりました!」


 俺は男達を見回し自分の武器を持った男を見つけると、一直線にソイツ目掛けて駆け出す。


「「「「っ!?」」」」


 男達は俺を捕まえようと一瞬体を動かすが、すぐに自分が殴られたらと思ったのか腰が引ける。


「馬鹿野郎! その女に武器を渡すな!」


 おっさんの叱責を受けた男達がはっと我に返るがもう遅い。

 俺は男の懐に飛び込むと男のどてっぱらに拳を叩き込む。


「おごっ!」


 力が緩んだところでショートソードを奪い返すと、その勢いのまま通路を駆けだす。


「逃がすな!」


「逃げるかよ!」


 即座に反転して先頭の男を切りつけると、そいつを思いっきり蹴り飛ばす。


「ごはっ!?」


 いつもの俺ならせいぜい腹を抱えてちょっと痛がらせる程度だが、剛力の加護を授かった俺の全力キックは男の体を吹っ飛ばして追いかけてきた男たち諸共地面に押し倒した。


「……お前だ!」


 その中に居た魔法使いらしき男を見つけると、俺はそいつに飛び掛かって杖を奪い取る。


「いかん! 杖を渡すな!」


 おっさんが慌てて俺から杖を取り戻せと仲間達に命令する。

 だけどもう遅い! 俺は後ろに飛び退きざま杖を男達に突きだす。


 魔法を発動させるには呪文が必要だ。

 だが、この世界の魔法はしかるべき手順を踏んでいれば呪文を詠唱することなく魔法を使える。

 それが戦闘魔法使いの基礎。


「ファイアバーン!」


 呪文の名前を唱えただけで杖の先から魔法が発射される。


「「「「うわぁ!」」」」


「素材まで燃やしちまうからめったに使わない火魔法も、人間相手なら遠慮なくぶっ放せるぜ!」


『さっきダンジョンスパイダー相手に使ってなかったか?』


「……アレは焦ってたからノーカンで」


 師匠曰く、素材より命って教わったしね。


 とにかく火は強力な攻撃だ。

 燃える、というのはかなりヤバいダメージで、高熱なら喰らった部位が炭化して使い物にならなくなる

し、更に火傷や延焼といったスリップダメージが入るのも大きい。

 何より生き物は本能的に火に触れる事を恐れる。つまりパニックになる。


「ぎゃああ! あちい! あちいよ!」


「落ち着け! 水魔法だ!」


 しかし魔法使いの杖は俺が奪っているから魔法は使えない。どうやらおっさんも慌てているみたいだ。


「もひとつおまけに喰らえ! ファイアバーン!」


 止めとばかりに俺は男達を追撃する。


「くっ!」


 男達には命中したが、おっさんは位置が悪く階段に逃げ込まれる。


「逃すか!」


 ここでのあのおっさんを逃すのはマズイ。

 きっと俺が冒険者ギルドに通報するのを予想して、さっさとこの町から逃げ出すだろう。

 そして別の町で新しく犯罪を犯すようになるのが目に見える。


「あと壊した杖の代金を払わせてやる! 待ちやがれー!!」


「くっ、来るんじゃねぇこの化け物!」


「誰が化け物だ!」


 俺はおっさんをおっかけるが、おっさんも腐っても冒険者、差はなかなか縮まらない。


「うぉぉぉぉぉ!」


「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」


 だが、終わりは意外にもすぐに訪れた。


「ひぃっひぃっ」


 そう、おっさんの体力が尽きたのだ。

 体力が尽きたおっさんの逃げる速度が明らかに遅くなる。


「へへっ、卑怯な真似して鍛練をさぼってたんだろ! 罰が当たったな!」


「ひ、ひぃ!」


「喰らえ! ウインドエッジ!」


 俺が放った魔法は体力の尽きたおっさんをあっさりと捕えその足を切り刻み動けなくする。


「いぎぃっ!」


 そのまま足をもつれさせ地面に転がるおっさん。


「ようやく追い詰めたぜ」


『わー、こっちが悪役みたいねー』


 いや、そういうのは思ってても言わないでほしいなー。


「た、助けてくれ! もう悪さしねぇから!」


 もう逃げる事も出来ないと悟ったおっさんは恥も外聞もなく土下座して謝ってくる。


「……一応確認ですけど、こんな奴でも国民だから殺さず衛兵に突き出せとか言ったりします? 下手に生かしておくと連行してる途中で襲ってくる危険があるんですけど」


 ちなこれはマジな話で、犯罪者として捕まえた賞金首を活きたまま連れ帰ろうとしたら隙を見て隠し持っていたポーションで傷を治しこれまた隠し持っていたナイフで襲われて逃げられたなんて話がある。

 だから犯罪者は捕獲が難しいならぶっ殺してオッケーとされている。


『構わん。罪を犯すものは自らが犯した罪の重さに罰せられるものだ』


『それにこんな悪党は間違いなく地獄行きだもの。生かしておく分この世界のリソースの無駄遣いだわ』


『何より、私達が加護を授けた子に手を出したのは許しがたい』


『然り』


『この子は私達の大切な……』


『『『『おもちゃなんだから』』』』


 ですよねー。いや、配信者としては楽しんでもらえるのはありがたい……か?


『そら、外道が動くぞ』


 と、神様達からおっさんに視線を戻すと、土下座したおっさんが何かもぞもぞしている。

 うん、絶対何かしてますわ。


 俺は音を立てないようにそっと横に跳ぶと同時、おっさんが突然起き上がって何かをぶちまけた。


「死ねぇ!」


「お前が死ねや」


 思いっきり横から蹴っ飛ばすと、おっさんの体がサッカーボールみたいに転がってダンジョンの壁に叩きつけられる。


「ぐお!?」


 するとおっさんの手から何かの瓶が転がり落ちる。

 多分毒かな? あとナイフも握ってるからこりゃ弁解の余地なしだな。


「ウチの仏は三度も許さんぜおっさんよ。ファイアバーン!」


「ギャァァァァァァ!!」


 全身が燃え上がったおっさんが悲鳴を上げて転げまわる。


「まぁアレだ。火葬代くらいはサービスしておいてやるよ」


 突然の襲撃に巻き込まれた俺だったが、神様達の助けもあって何とか凌ぐことが出来た。

 っていうか、マジヤバかったな。ほんと神様達が居なかったらどうなっていたか。

 神様達には感謝しないとなぁ……


『ぷくく』


 ん?


『火葬代、くく』


 んん?


『サービスしておいてやるよ、ふっくく』


 え? 何? 何事?


『ぷははははははは! かっこいいー!』


「え!? ええ!?」


『いやー、凄いな。まさかそんな人間達の絵物語の様なセリフを実際に聞くことが出来るとは』


「は? え? どういう?」


『いいわー、凄くドラマチックだわー』


『目くるめく展開の連続だったわね。まさかアレだけ悲鳴を上げて助けを求めていた子が、最後には上から目線で火葬代をサービスだなんて……ふふふ』


「……はっ!?」


 し、しまったぁぁぁぁぁ! めっちゃビビって助けを求めてるところ見られてたんだったぁぁぁぁぁぁぁ!


「い、いやですね、今のはその……」


『よい、言わずとも分かっている。心身の無事を得られて安堵から出た言葉であろう? くくっ』


「ああああああああああああ! その生暖かい眼差しは止めてぇぇぇぇぇぇぇ!」


 光の人形だけどなんか凄く生暖かい視線を感じるのぉぉぉぉぉぉぉ!


『いやー面白かったわ。これは加護を与えた甲斐があったというものね』


 やーめーてー! 人を厨二病みたいに認識しないでくれぇぇぇぇーーーーっ!!


『人間ウォッチ、成程配信という行いもなかなか馬鹿に出来ないわね。次も見させてもらうわ』


 ああああああっ! 見てほしくないけど見て貰わないとスパチャ貰えないぃぃぃぃぃぃ!


「どうすりゃいいんだこれぇぇぇぇぇぇっ!」

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ライブ配信時の仕込みではないハプニングって盛り上がりますよね〜
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