第3話 儲けと泥棒
新連載二日目です。
ギルドの解体所に大量のバンデッドウルフを持ち込んだ俺は、ウッキウキで買取査定額が出るのを待っていた。
ははは、鞄から大量のバンデッドウルフが出てくるのを見た解体所の連中の驚いた顔はかなり面白かったぜ。
「おおー? 嬢ちゃん今日は機嫌が良いな」
と、ギルドに併設された酒場で飲んだくれてるおっさんが声をかけてくる。
「うん、今日は狩りの成果が良かったからね!」
「ほほー、そりゃ結構なこって」
このおっさんは俺に手を出そうとしてきた連中と違って俺をガキあつかいするもののクソみたいな事はしてこなかったから少しは信頼できるんだよな。
まぁ、それというのもこのオッサンの趣味が年上お姉さんエルフ好きだからなんだけどな。
曰く300歳くらいのエルフは俺達と同じ精神年齢でガキッぽいけど800歳越えのエルフは包容力が凄いらしい。
いやどうでもいい話なんだけど。だって今の俺にはエクスカリバーがついていないんだもん。
もしあったら是非おっさん御用達のお店に連れて行ってほしかった!
「ランプさーん」
「あ、はーい」
呼び出しを受けた俺は受付に向かう。
「本日の買い取り査定ですが、バンデッドウルフが10体、薬草が25本。バンデッドウルフが一匹銀貨1枚で、薬草が一本銅貨一枚なので、銀貨10枚と銅貨25枚。ここから解体費用で銀貨1枚を差し引かせて頂きます」
「おおー!」
凄いな、普通ソロの冒険者は頑張っても銀貨1枚くらいが精々なのに一気に10倍の儲けだ!
「全額持ち帰りますか?」
「ううん、いつも通り半分はギルドの口座に預けて半分だけ受け取る」
「畏まりました。ランプさんは堅実にお金を貯めるので見てて安心します」
いやー、冒険者には保険もないから、いざという時の治療費は確保しておきたいからね。
幸いこの世界にはポーションや回復魔法があるから、よっぽどの重傷でもなければすぐに治療する事が出来る。
勿論運が悪ければ簡単には治らないような傷や病気になる危険もあるけど、それは交通事故に遭う確率と変わらないから考えるだけ無駄だ。
「あとはこれでどこかのパーティに加入してくれれば安心できるんですけどねぇ」
「勘弁してよパームさん。私がチームを組まない理由は知ってるでしょ」
なじみの受付嬢さんだけに会話がいつもの流れになってくる。
「まぁ男女の問題はギルドも仲裁し辛いものね。でも貴方にアタックし続けてる彼、有望株よ。あんまり袖にしてると彼を狙う他の女に盗られちゃうわよ」
そう言う問題じゃないんだよなぁ。
俺の中身は男なの、どれだけ好物件でも男はノーサンキューなんですよ。
「それと……」
と、パームさんが声を潜める。
「貴女、今日バンデッドウルフを大量に持ち込んだのよね?」
「ああうん」
「どうやって持ち込んだの?」
「えっとそれは……」
って、やべ。貴族魔法で袋のスペースを拡張して貰った何て言えねぇわ。
貴族魔法の中には平民には秘匿されてるものもあるし、下手に言いふらしたら大変なことになりかねない。
「魔法の袋ね」
しかし、パームさんはニヤリと笑みを浮かべて見当違いの事を言い出した。
「超レアアイテムじゃない。どこで手に入れたの?」
「あーえっと……」
魔法の袋ってのはいわゆるマジックアイテムだ。
ゲームによく出てくるインベントリやアイテムボックスみたいな大量の荷物が入るアレである。
ただ、凄く貴重な品で一から作ろうとしたらとんでもない値段がするらしい。
とてもじゃないが俺みたいな平民が買えるもんじゃない。
手に入れるとすれば……
「ダンジョンで運良くね」
「やっぱり! 何層まで潜ったの!」
「えっと、比較的浅い階層だけど隠し部屋があってさ」
「隠し部屋!? 凄い幸運じゃない!」
「パームさん声が大きい!」
俺が諫めるとパームさんはヤバいと自分の口を塞ぐ。
よしよし上手くいった。これで倉庫の加護の事は誤魔化せただろう。
「成る程ね。事情は分かったわ。でもソレの事は絶対内緒にしなさい。ただでさえ貴女はソロであぶなっかしいんだから」
それを大声出した貴女が言いますか。
「うん、分かってるよ」
ともあれなんとか誤魔化した俺は、ホクホク気分で冒険者ギルドを出る。
「さて、それじゃ消耗品の補充と装備の手入れを頼みにいくかな。鎧にダメージはないけど杖を結構雑に扱ったからなぁ」
冒険者にとって冒険後の装備の手入れは必須だ。
一見問題ないように見えても、重要な部品が壊れかかってることだってある。
それに気付かず次の冒険に出て、肝心な時に装備が壊れて大惨事、なんてのは冒険者あるあるだ。
新人が冒険者になる時に受ける初心者講習では口を酸っぱくして言われる事故事例だった。
「あっ、そうだ。ついでに接近戦用の武器も買うかな。武人の加護で接近戦も出来る様になったし、次に加護をかけて貰った時の為に武器があれば杖を壊さずに済む」
魔法使いの杖は魔法を使う為のもので、格闘用の武器じゃないからな。
髙いヤツは杖術にも使えるくらい硬いらしいけどそういうのは高いんだよ。
「よーし、それじゃまずは武器屋に……うわっ」
その時だった。突然後ろから誰かがぶつかってきたんだ。
「な!?」
「っっ!」
何ボーっとしてんだと文句を言おうとした俺だったが、それだけじゃ終わらなかったんだ。
なんとぶつかって来た奴はそのまま俺の腕をガシリと掴んできた。
「ななっ!?」
更に他にも仲間がいたのか左右から俺の肩を掴む。
正気かコイツ等!? ここは大通りだぞ!? こんな所で人攫い!?
だが幸か不幸か、そいつ等の狙いは俺の誘拐ではなかった。
代わりに俺の肩にかけていた鞄をスルリと外すと、それを抱えて逃げ出したのだ。
「って俺の鞄――――っ!」
それには今日の収入の半分と荷物が!!
俺は慌てて男達を追いかける。
「待てっ!」
そんな俺の肩を誰かが掴んで止めた。
「ってまだ仲間が!?」
「落ち着け俺だ!」
振り返るとそこにいたのはさっき酒場で声をかけて来たおっさんだった。
「って、何で邪魔を!?」
「よく見ろ、アイツ等が逃げ込んだのは路地裏だ!」
「っ!」
路地裏という言葉に背筋がゾワリとする。
そうだ、街中に於いて路地裏はゴロツキ達がたむろする場所。
下手に治安の悪い路地裏に入れば、そのまま俺まで攫われてしまう危険があった。
「……ありがとうございます」
「おう、冷静になったみたいだな」
危なかった。おっちゃんが止めてくれなかったらどうなっていた事か。
これまでの人生でさんざん路地裏はヤバいって経験してたのになぁ。
荷物を盗まれて冷静さを失っていたよ。
「しかしこんな白昼堂々大胆な奴らだ。お前よっぽど貴重な品でも手に入れたのか?」
「え!? ああ、どうだろ。そんな事は無いと思うんですけど……」
金目の物……そんなものは報酬くらいしかないけど、白昼堂々大通りで奪うような物じゃない。
となれば考えられるのは……魔法の袋か。
さっきのパームさんとの会話を誰かに聞かれていたって事か。
「って事は犯人は冒険者か!?」
冒険者は決して漫画に出てくるような義侠じみた人間ばかりじゃない。
それどころか一皮むけば盗賊に毛が生えたような連中が山ほどいる。
俺がパーティを組まないのもそう言う連中に当たった事があったからだ。
きっとそう言う連中に狙われたんだろう。中身の荷物諸共。
◆
「どどどどうしようっ!」
買い物どころじゃなくなってしまった俺は宿のベッドで悶えていた。
「鞄の中身は今まで稼いだ金で集めた装備が入ってたのに! それに今日の報酬の半額が!!」
銀行に預けた分があっても盗まれた荷物で赤字だよ!
「ちっくしょー!」
ドン!
『うるせーぞ!』
「あっ、すいません!」
危ない危ない。宿屋の壁は薄いんだった。ちょっと冷静になった。
「ってそれどころじゃない。荷物だよ荷物」
あー、どうするよ。こんな治安の悪い世界じゃ衛兵隊に盗難届を出しても見つかる保証なんてない。
ああいうのは貴族や金持ちの商人相手でないと仕事してくれないんだ。
しかもこっちは流れ者の冒険者だから信用なんてないも同然!
「このままだと荷物がどっかに売りに出されちまう!」
鞄は魔法の袋なんかじゃなく、視聴者にかけられた貴族魔法の効果が切れたら普通の鞄に戻る。
だからそっちはそこまで損失じゃないけど、中身の冒険に使う消耗品一式を盗まれたのは本当に痛い。
特にポーションとかは消耗品なだけじゃなく賞味期限があるから定期的に買い替えなくちゃいけなくてコストかかるんだぞ!
「ああもう、せっかく沢山荷物が入る様にしてもらったのにそれが仇になるなんて!」
こういう時ゲームや漫画だと魔法の袋は持ち主専用で他の人間には開けられないとかなるもんじゃない?
俺は視聴者に加護をかけて貰った時の事を思い出すが、そんな都合の良い事を言ってくれた記憶は出てこなかった。しかし……
『倉庫の加護の座標は貴方の鞄に設定しておいたけど、貴方の意志で座標を変えられるわ』
「……座標?」
ふと視聴者の言葉を思い出し、俺は物は試しと服のポケットを見つめる。
「もう貴族魔法が切れてる可能性があるけど、万が一の可能性もあるし……ええとどうすればいいんだ? 倉庫の加護の座標をこのポケットに!」
一縷の願いを込めて俺は倉庫の座標がポケットに移るように願う。
すると、パシュンという音と共にポケットの口が小さく光った。
「今のって!?」
俺は恐る恐るポケットに手を突っ込んで鞄の中に入っていた荷物を思い出しながら手を握る。
すると、固い感触がジャラリという音と共に手の中に現れる。
「っ!」
バッとポケットから手を出すと、その内側には銀貨が五枚入っていた。
「間違えてポケットに入れた可能性は……」
そう思ってもう一度ポケットに手を突っ込み、こんどは間違えようのないものをイメージして掴む。
すると、ポケットの中から木の箱が出て来た。
その中には透明な水晶のような鉱石で出来た瓶と、中を漂う蛍光色の液体。
「ポーション!!」
間違いなく鞄に入れていた荷物だ!
「うっひょー! 取り返せたー!」
やったやった! 盗まれた荷物が戻って来た!
『うるせぇっつってんだろ!』
「すんませんっしたっ!」
『お、おう!? 気を付けろよ』
よかった! 本当によかった。
危うく収支がマイナスになる所だった。
「ああー、ホント貴族魔法の持続時間って凄いな。お陰で助かったぜ!」
こうしてあわや儲けがふいになるところで九死に一生を得たのだった。
相も変わらず貴族魔法がそんなに保つわけがないとも気付かず。
◆???◆
「なんだこりゃ!? 中身が空っぽだぞ!?」
アジトに戻ってきた俺達は、とある間抜けなソロ冒険者から盗んだ魔法の袋の中身が空っぽだったことに驚いていた。
「確かに金を入れてるところを見たんだが」
「まぁ良いだろう。魔法の袋ってだけで金になるんだ。ショボい荷物なんざなくても大儲けよ」
「それもそうか」
そうだ、コイツがあれば俺達は大儲けだ。
売ってよし、自分達で盗みに使って良しだからな。
そう思っていた俺達だったが……
「何が魔法の袋だ。こりゃただのボロ鞄だよ」
裏の店に持っていったら何の価値もないボロ鞄だと突っ返されちまった。
「そんなバカな! 俺達は確かにこの鞄から大量の魔物の死骸を取り出すのを見たんだ!」
「そりゃお前さん、化かされたんじゃねぇの? ほら帰った帰った」
店の親父は聞く耳も持たず俺達を追い返す。
「どうなってんだ?」
「分からん。だがあの女が魔法の袋を持っているのは間違いない。でなきゃあれだけの数のバンデッドウルフを女一人で持ち込めるわけがない」
そうだな。コイツ等の言う通りだ。
「よし、あの女が一人になった時を狙うぞ」
幸いあの女はソロの冒険者だ。
依頼を受けて外に出た時を狙って今度こそ魔法の袋を奪ってやる!
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