最終話 今日も今日とてソロ配信な日々
「「「なんか死んでるぅー!」」」
突如魔法陣が起動した事でドラゴンに何か異変が起きたのかと外に出た私達が見たのは、血まみれになって動かなくなったドラゴンの姿だった。
「酷いな。床だけじゃない、壁まで血で染まっている」
「見てください、天井も真っ赤ですよ」
二人の言葉通り、ボス部屋は壁も天井も辺り一面真っ赤に染まっていて、下手なホラーゲームのステージより怖い光景だ。
「ファイアバーン!」
俺達はドラゴンが死んだフリをしている可能性を疑い、宝箱の部屋の手前から魔法を放って様子を見る。
しかし魔法が命中したドラゴンが動く気配も……グラリ、ズズゥン!
「やっぱり生きてた!?」
「いや違う、衝撃でバランスが崩れただけだ」
それきりドラゴンは完全に動かなくなる。
「でもなんでドラゴンはこんな事に……」
「もしかして、報復の鏡の効果でしょうか」
「鏡の!? でもあれってドラゴンにも効くの!?」
報復の鏡の効果は、鏡に映った人物の呪いを呪いをかけた本人に叩き返すというものだった。確かにその効果を考えれば呪いをかけたドラゴン本人、いや本竜に帰してもおかしくはないんだけど……でもドラゴンだよ!? しかもダンジョンボスの。普通こういう相手って状態異常無効化とかしてこない? 大体のボスって即死系の特殊デバフ無効化うしてくるじゃん!
『報復の鏡は戦神達がダンジョン下層の攻略の褒美として作ったものだからな。相手がドラゴンでもあっても効果があるぞ』
「そうなの!?」
「何がだ?」
「あ、いえ何でもないです」
いかんいかん、うっかり神様のコメントに返事しちゃった。
けど神様が言うなら本当にそうなんだろうな。まぁそりゃそうか。即死系デバフ無効化とかゲームバランスを調整する為の仕組みだもんな。現実の世界ならシンプルに強ければ効果があるって事か。
でもそう考えるとヤバイな報復の鏡。
ダンジョン下層のボスクラスの呪いすら反射するって、大抵の魔物の呪いを跳ね返すんじゃね?
これ家宝とか国宝レベルじゃない?
「それにしても呪いを使うドラゴンが自分の呪いで倒されるなんて皮肉ですね」
確かに。まるで自分の毒で死ぬ毒蛇だよね。
「しかも自分の護っていた宝で死ぬとは何とも憐れな最後だ。せめて別の宝ならこんな事にはならなかっただろうに」
「いや、それは逆なんじゃないですか?」
「どういう意味だランプ?」
「お宝が呪いに関するアイテムだからボスも呪いに関するドラゴンが配置されてたんだと思います」
「その根拠は?」
「ほら、地上の魔物は倒すとその魔物由来の素材が手に入るじゃないですか。だからダンジョンのボスドロップの宝箱もそれに合わせてるんじゃないかなって思ったんです。ここは未開放エリアですし」
「ふむ、そう言われると否定は出来ないな」
「あとはこのドラゴンを倒したパーティはきっと呪いで満身創痍になってると思うんですよ。だからそのドラゴンを倒したパーティにはご褒美として呪いを解呪するアイテムが入ってたんじゃないかなって」
あれだ、ボス戦の後でHPMP全回復するゲームとかも偶にあるし。神様が訓練用にこのダンジョンを作ったのなら、訓練が終わった後に回復する手段を用意してくれていてもおかしくない。
「まぁ私達の場合、先に宝物部屋に降りて来ちゃったから、順序が逆になってドラゴンへの特攻武器が手に入っちゃったみたいですけど」
正直今回の結果って二週目以降のRTA(最短攻略)でプレイヤーが考えるハメ技みたいなクリアの仕方だったもんな。いや寧ろバグ技で『時間短縮とカースドラゴンの呪い対策に落とし穴を連続で落ちて報復の鏡を入手してボスを倒します』みたいな感じで。
「ともあれ、地上への脱出路が手に入ったのはありがたい。それにドラゴンの素材まで手に入ったとあればランプ、お前は一生遊んで暮らせるぞ」
「え? 何で俺? いや私?」
いきなり名前を呼ばれて戸惑う俺に対し、ロザリーンが呆れたように溜息を吐く。
「何を言っているんだ。私達の目的の品以外のお宝はお前に優先権を譲ると約束したじゃないか」
「あっ」
言われてみればそんな約束してたなぁ。
「我々の目的はこのボスドロップの鏡です。ならランプさんの取り分はボスの素材全部が妥当でしょう」
「いや流石にそれは取り過ぎじゃね?」
俺だって詳しい相場は分かんないけど、ドラゴンの素材が滅茶苦茶高いって事は知ってるぞ。それを丸々一頭分となればどれだけの金になるか。
「そんな事はない。我々には時間が無かったんだ。本当ならもっと時間がかかって最悪の場合助けたい人を助ける事が出来ずに終わっていたかもしれない。ランプと出会ったことで隠しエリアを発見してボスまで最短ルートで来ることが出来たんだ」
「それにロザリーンが倒れた時、ランプさんが命懸けで時間を稼いでくれました。あれがなかったら今頃ロザリーンは死んでいました」
ああうん。正直アレは俺も死を覚悟したわ。
「何よりこの鏡はドラゴンの呪いすら跳ね返す財宝だ。ならその効果を防げないドラゴンの素材は丸ごと貰ってもなお格下と言えるだろう」
それはまぁ確かに。
極論報復の鏡さえあれば呪いを使うドラゴン倒し放題だもんね。そんなポコポコ出会えたらの話だけど。
「どのみち我々はすぐに故郷に帰る必要がある。だからドラゴンの素材の買取りを待つ時間も惜しいんだ。これ程の巨体となれば売り切るのに結構な時間がかかるからな」
「巨体と言えば、これどうやって持ち帰りましょう。あと解体も」
流石に三人じゃ滅茶苦茶時間がかかるんじゃね? それに神様からもらった倉庫の加護にも入りきらないんじゃないかな?
『ふふふ、そこは私厨房の神と!』
『倉庫番の神に任せるがいい!』
「え?」
『―大物解体の加護を授かりました―』
『―大倉庫の加護を授かりました―』
『これでドラゴンでも楽々解体できるわよ!』
『そして我が加護でどんな巨体も収納できるぞ!』
おお、なんか神様が良い感じの加護をくれた。
でも厨房の神様の管轄なんか解体って?
『あら、調理で手ごろなサイズに切るんだから私の管轄でしょ?』
そういうもんかー。
「あー、もしかしたら私の魔法の袋に入るかもしれないので入るだけ入れてみますね」
そんな訳で、なんかいい感じにドラゴンを解体出来た俺はドラゴンをまるごとすっぽり倉庫に設定した袋に収納したのだった。
「……その袋一体どれだけ入るんだ?」
「あー、いやまぁダンジョンのドロップなんでよくわかんないです」
「そ、そうか、流石ダンジョン産だな。しかしこの事は他の人間に言わない方がいいぞ」
それはそう。まぁ盗まれても倉庫の座標を他の袋に入れかえればいいだけだけどね。
◆
あれから俺達は英雄になった。
たった三人でダンジョンの下層を攻略し、ドラゴンの素材を持ち帰ったのだから。
ただドラゴンの素材は持ち続けるのも色々危なそうだったので即座に売り払う事にしたんだが、何故か冒険者ギルドの勧めでオークションをすることになった。
これは高価すぎる素材だと冒険者ギルド支部の予算を超過して適切な価格で買えなくなるからとの事だった。
本音としては一部の貴族がギルドの支部に圧力をかけて不正に融通するのを防ぐ為だったりするらしいが。
「ふふふ、やっぱり私の目に狂いはありませんでしたね! パーティを組んで正解だったでしょう!」
などとドヤ顔で喜んでいるのは受付のパームさんだ。
まぁこの人が強引にパーティを組ませなければ未開放エリアに気付く事も無かったから間違いではなかったかもだが。
「つってもまたソロに逆戻りですけどね」
あれからエルメノ達はすぐに故郷に帰った。
大切な人にかけられた呪いを解くために。
ついでに彼女達と別れた少し後に、どこかの大貴族が突然苦しみ抜いて死んだという噂が聞こえてきた。
おそらくは報復の鏡の名の通りの出来事が起こったんだろう。
「ドラゴンでも耐えられなかったのに人間に耐えられるわけないもんなぁ」
ともあれそんな訳で俺はロザリーンの言った通り莫大な財宝を手に入れた……んだが。
「ランプ! 俺とパーティを組もう! 今の君なら俺達と組んでも誰にも文句を言わせない!」
「嬢ちゃん、ソロに戻ったんだって? 俺達と俺達と組もうぜ」
「あら、ランプさんは私達と組むのよね」
ドラゴン討伐の噂が尾ひれを呼びまくってやたらめったらパーティへのお誘いが来るようになっていた。
「何度偶然だって言っても聞いてくれないんだよなぁ」
それもその筈、コイツ等の大半は俺が手に入れたドラゴン素材のおこぼれと売り上げ狙いなのだから。
約一名はちょっと違う目的だが、結婚する気はないので無視。
それもあって冒険者を引退する事も考えたんだが、それを口にした瞬間どこの馬の骨とも知れない無数の貴族達からプロポーズが殺到した。
うん、言わなくても分かるよね。財産狙いの貧乏貴族です。
そもそも男はノーサンキュー。
「結局、またソロに戻るんだよなぁ」
下手に冒険者を辞めるのもギルドの後ろ盾が無くなる為、結局俺はソロ冒険者を続けるしかなくなってしまったのだ。
「折角お宝を手に入れて生活の心配も無くなったのに……」
『ところで……』
と、神様が話しかけてくる。
『この間のドラゴン退治の時に波乱万丈の加護と苦難大成の加護を授かったでしょ?』
「あ、はい」
『それで波乱万丈の加護については説明したけど、苦難大成の加護については説明してなかったわよね』
そう言えばあの時はそれどころじゃなかったしなぁ。
『苦難大成の加護はね、大きな困難を越えた先に成功を得る加護なのよ。つまり困難が大変である程、それを乗り越えた時に得られるご褒美が豪華になるみたいな』
「それって正にあの時の……」
宝箱を落ちまくって下層に落とされて、ドラゴンと戦って財宝を得た今の状況と同じだ。
『だからね、これから先の貴方は常に騒動と苦難に巻き込まれ、その結果大きな宝を得る事になるの。けど、そのお宝が時に貴方を新しい災難に巻き込む事になるでしょうね』
「マッチポンプじゃん! 誰だよそんな禄でもない加護を押し付けたの!」
『主神だ』
「しゅ?」
『主神、我等神々を率いる者にして最強の神。同時に暇を持て余したろくでなしの筆頭でもある』
「はぁぁぁぁーーーーっ!?」
神様の正体は貴族、って事はその貴族を率いる者ってつまり王様ってことか!
「ふざけんなー! 王様だからって何してもいいと思うなよー!」
くっそ、一体どこの王様だ! 何とかこの呪いみたいな加護を外させないよ!
「その主神ってのはどこにいるんですか!」
『どこってそりゃ神の国の玉座に……ってあれ? 居ないな? どこに行ったんだ?』
王様が消えた!? それって職務放棄じゃん!
『ほっほっほっ、儂の会いたければ探すが良い。この世界のどこかに儂に遭う為の道を用意しておいた』
「『『『『『え?』』』』』」
突然目の前に現れる光り輝く老人のようなシルエット。
『主神様!』
「これが主神!?」
『ランプちゃんの配信は儂も楽しく見させてもらっておるぞ。これからも頑張っておくれ』
それだけ言うと主神の姿が掻き消える。
「あっ待て!」
『あちゃー、本格的に目を付けられたな』
『可哀そうに。歴史の英雄達のような人生を歩む事になるわ』
『せめて悲壮な末路だけは迎えないと良いのだが』
「怖い事言わないでー!」
何なの!? 王様って人を弄ぶだけ弄んで飽きたらクシャッとしてポイするようなやべー奴なの!?
『安心なさい。今の貴方には私達が居るわ。主神様の悪辣な加護があれど、私達が加護を授ければ必ずや乗り越えられるでしょう』
そうか、私には神様達の加護があった!
いくら主神が最強の貴族魔法を使う王様だって言っても、大量の貴族を味方に付ければなんとかなる筈。
となれば今後の方針は決まった。
フォロワーを一杯増やして加護をたくさんもらって、主神の居る場所を探り出してぶん殴ってこの呪いを解かせてやる!
「よーし! 皆で頑張って主神の顔面ぶん殴るぞー!」
『がんばれー!』
『がんばってー!』
となればいつものアレだ!
「それじゃあ皆、今日の配信も頑張るぞー!こんランプー!」
『『『『『こんランプーッ!!』』』』』
こうして神様達の正体に気付かないまま、俺の冒険配信はまだまだ続く事になるのだった。
この後に待つ神様達の衝撃の真実とか、主神が原因の世界の危機とかで大冒険をしたりする事になるんだが、それはまたどこか別の話で語ることにしよう。
これにて本作は完結となります。
最期までお読みいただきありがとうございました。




