第23話 ドラゴンとの戦い
扉を開けた先に見えた、巨大なドラゴン……の背中だった。
「「「……」」」
俺達はそっと扉を閉める。
「「「……」」」
全員が無言でお互いに視線を送りあう。
「「「……」」」
無言で、肩を竦める。
「なんかドラゴンが居るんですけどぉぉぉぉぉぉぉっ!?(小声)」
「ドラゴンが居たんだがぁぁぁぁぁぁ!?(小声)」
「ドラゴンが居るんですけどぉぉぉぉぉぉ!?(小声)」
三者三様で悲鳴を上げる俺達。
「どどどどうするんですかドラゴンですよ!? 倒せるんですか!?(小声)」
「待て待て待て、分かっている分かっている。落ち着くんだ(やや小声)」
「落ち着いてくださいロザリーン声が大きくなってます!(普通の声)」
「「エルメノの方がデカいから!(大きい声)」」
「「「しーっ!(小声)」」」
慌ててお互いの口に口を当てて黙らせ合う俺達。
「あれってドラゴンですよね?」
「ああ、ドラゴンだった」
「間違いありません」
俺達は声を潜めて自分達が見た者がドラゴンだったと確認し合う。
「あれ、倒せるんですか?」
「いや、流石にあの大きさは無理だ」
「ですよねー」
となるとどうしたもんか。地上に戻るにはあいつを倒すか上手く足元を潜り抜けて階段まで脱出しないと。
「何とかドラゴンの攻撃を回避して階段まで逃げればいけませんかね?」
「無理だ、あのサイズとなると間違いなくボス。ボス部屋は倒すか全滅するまで封鎖される」
しまった、その問題があった。
この世界のダンジョンはボス部屋に入るとどちらかの勢力が全滅するまで脱出不能なんだよな。
「って事はアイツを倒さないと脱出できないのか……」」
しかし自分達の力じゃ倒せないってのは確認したばかりだ。俺もそれなりに強い魔法を師匠から教わったけど、それは平民に使える中ではのくくりで、とてもじゃないがドラゴンを倒せる魔法なんて使えない。そう言うのは多分貴族魔法の領分だ。
「せめて抜け道でもあれば……」
「流石にそれは都合が良すぎるだろう」
「でもダンジョンの最下層とかには大抵地上に戻る為のワープゲートとかあるのがお約束で……」
とそこまで言って俺は周囲を見回す。
そうだ、ここがドラゴンを倒した後にある宝箱の部屋なら、次の階層に降りる為の階段か地上に戻る為のワープゲートがあってもおかしくない。
「階段……はない。魔法陣は……あった!」
予測通り、魔法陣が見つかる。ただ、問題だったのは、その魔法陣が動く気配がなかった
って事だ。
「どうしたランプ?」
「多分この魔法陣が地上に戻るワープそ……転移魔法陣だと思うんです。でも動く気配がなくて……」
「これが……?」
「確かにダンジョンには私達の技術では再現可能な魔法技術があると聞いたことがあります。ですが動かし方となると……」
「となるとやっぱり魔法陣を起動させるにはボスのドラゴンを倒さないといけないのか……」
結局振り出しに戻ってきた。
倒せないから他の方法はないかって探してたのにさぁ!
「……何かいい方法はないですか?」
小さな声で神様達に相談してみる。もしかしたら何かいい方法があるかもしれないし。
けど……
『ないな。ダンジョンの構造は基本的に独立している。外部から操作する事は出来んし介入しようとするには技術を持った者が直接その場に出向く必要がある』
あー、駄目かー。攻略配信みたいに視聴者から攻略法を聞ければよか……いやダメだ。大抵こういう時は出鱈目を教えて配信者が「騙したなー!」と悲鳴を上げるのを聞いて笑うのがお約束だったわ。
「こうなったら戦うしかあるまい」
と、ロザリーンが覚悟を決めて剣に手をかける。
「無茶です! 相手はドラゴンなんですよ!」
当然相方のエルメノはロザリーンを諫める。
「だが他に方法はあるまい。エルメノに全力で支援魔法をかけてもらい、ランプに魔法でドラゴンの気を引いてもらう。後は私が全力でドラゴンの急所を狙う」
「そんなの作戦になってませんよ! ドラゴンの急所ってどこなんですか!?」
ドラゴンの急所って言うと逆鱗って言葉が思い浮かぶけど、あれ東洋の龍の話だから西洋のドラゴンとは関係ないんだよな。ゲームだと大抵関係なく逆鱗あるけど。
「どのみちここに居ても餓死するだけだ。それなら万全の状態で挑めるうちに挑む方が勝率が高い!」
「っ!?」
ロザリーンの言葉は事実だ。ボスを倒さなければ行くも戻るも出来ない以上、戦う以外の選択肢はない。
「どうしても無理だと思ったらすぐにこの部屋に逃げ込みますからね!」
エルメノがありったけの支援魔法をかけながら危なくなったら逃げろと念を押す。
「ああ、分かっている。私も犬死するつもりは無いからな」
なんて事を言いつつも、その顔は明らかに決死の覚悟で挑む人間のそれだった。
『うむ、良いな。戦士とはこうあらねば』
『―ロザリーンが不退転の加護を授かりました―』
『いいぞー、頑張れー』
『―ロザリーンが大物殺しの加護を授かりました―』
この状況を面白がった神様達がロザリーンに加護を授ける。
ああ、確かに凄く配信映えするシーンだもんなぁ。
「ガチで命の危険を考えなければだけど」
ともあれ神様の加護があればワンチャン行けるかもしれない。
せいぜい神様にスパチャを貰えるような戦い方をしますか!
「よし、行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
覚悟を決めた俺達は扉を開け、ドラゴンの待つ死合場へと飛び込む。
同時に、ドラゴンもこちらの存在を感じ取ったのか巨体を翻してこちらに視線を向けた。
「ファイアバーン!」
エルメノから注意を逸らすようにドラゴンの顔面に魔法を放つが、ドラゴンはフゥと息を拭くだけでかき消す。
「って防御すら無しかよ!」
腐ってもドラゴンって事か!
『ドラゴンに魔法で有効打を当てたいのなら、もう二等級は上の魔法でないと無理だな』
『ドラゴンは高密度の魔力を有した半魔法生命体といってもいい存在だから、生半可な魔法は逆に取り込まれて無意味ですよ』
魔法支援駄目じゃん! これだと煙幕代わりになってるかも怪しくなってきたぞ!
現にドラゴンは俺が魔法を連射しているにも関わらず、ロザリーンの方に顔を向けている。
『ドラゴンは戦闘生物だからな、本能的に最も戦闘力の高い敵を見分けているんだ』
『ランプちゃんも私達の加護でだいぶ強くなっているけど、突破力という意味ではあの騎士の子の方が上なのよね』
確かに俺の魔法は多数の敵を相手にする全体攻撃系で単体攻撃力の高い魔法は少ない。
んで、ドラゴンは俺の攻撃なんて脅威にならないからってガン無視。
もう完全に囮になってないじゃん! おもっきしロザリーンの攻撃に頼るしかない状況じゃん!
「くっそ、マジで頼むぞロザリーン」
「ゆくぞ!!」
ドラゴンに接近したロザリーンが大きく跳躍をする為に体を沈め、そして崩れ落ちる。
「……え?」
え? どういう事? ピョーンとジャンプするんじゃないの? まさか死んだフリ?
「ロザリーン!?」
一瞬何かの演技かと思ったのだが、エルメノが本気で驚きの声をあげているので、何かの演技という訳じゃないらしい。
「って、ヤバッ!」
ドラゴンがゆっくりと前足をロザリーンの頭上へ移動させる。
「押しつぶすつもりか! エルメノ、ロザリーンを回収しないと!」
「私が行きます! クイックムーブ!! フラッシュダッシュ!!」
自身に移動補助の魔法を二重にかけ猛スピードで駆け出すエルメノ。
その時だったゆっくりとロザリーンの頭上に前足を移動していたドラゴンがニヤリと笑った気がした。
「っ!?」
瞬間、あの巨体から想像もできないような速さでドラゴンが前足をふり下ろしたんだ。
「ロザリーン!」
エルメノが必死で駆けながら叫ぶが到底間に合いそうもない。
「くっ! 何か魔法を」
しかし俺の魔法ではドラゴンの体を揺らす事すら出来ない。
何か、何かドラゴンの気を引く方法でもあれば……っ! そうだ!
「一か八か! 『幻楽の加護』!!」
俺が声を張り上げると、ボスの間にズゥンという大きな音が響き渡る。
「ヴォッ!?」
これにはドラゴンも驚いたようで、何事かと周囲を見回す。
その間にも音は鳴り響き、演出のエフェクトが宙を舞う。
「魔法が効果なくて無意味なら、魔法じゃない訳分からんもんなら興味湧くだろ!」
BGMが盛り上がるにつれ、光のエフェクトを自分に集める。
その光景はまさしくアイドルコンサートのそれだが、観客は恐るべきドラゴン。
「でもさ、こっちを見て嗤ったって事は間違いなく知性があるよな。それも人間を絶望させて喜ぶような悪趣味な奴がさ!」
なら、間違いなくこっちに注意が向くはず!
「~~~~ッ!!」
俺が歌ったのはノリノリのアイドルソングだった。
静かでシックな部分とかは一切ない、とにかくハチャメチャに騒がしくて人目を引く奴だ。
「ゴォウ?」
案の定ドラゴンは「え? こいつなにしてんの?」みたいな顔でこっちを見ると、倒れたロザリーンを無視し地響きを立てながらこちらにゆっくりと近づいて来た。
うぉぉ怖ぇ!! 特撮番組の怪獣が近づいてくるのってこういう気分かーっ!
「~~~~ッ!!」
けれどここで逃げるわけにはいかない。というか逃げたら間違いなく気が変わってあっさり殺される!
俺は歌いながらも視界の隅で動くエルメノの姿を確認する。ただしドラゴンに気取られたくないので視線は動かさない。
そしてエルメノがロザリーンを担いで宝箱のあった部屋に逃げ出したのを確認したところで俺も逃げ……逃げ……どうやって逃げよう。
いやマジでどうしよう。ドラゴンは完全にこっちにロックオンしてるから、さっきも言った通り俺が歌を止めて逃げだしたらその時点でプチッとなるのは間違いない。
しかしここで歌い続けていても飽きた瞬間プチッだ。
歌いながらこの状況を打開する何か良いアイデアは……そうだ!
「~~~~っっっっ!! ~~!!」
ここで俺は歌にダンスを織り交ぜる。
「ッヴォウ!?」
体を動かした瞬間ドラゴンが反応するが、何とか攻撃されずに済んだ。
よし、これならいける!
激しいダンスを繰り広げながら、少しずつ位置を移動してゆく。
ドラゴンもなんか変なのが変な動きしてるのかと興味津々でこっちをジーッと見ている。
後はドラゴンが興味を失わないように、ダンスの動きも単調にならないように、とにかくアクロバティックに同じ動作はしないよう気を付けながら全力で踊り続け、そして宝箱の部屋の前に到着すると……
「だぁーっ!!」
思いっきり飛び込んでドアを閉じた。
しゃー! 逃げ切った! 逃げ切ったけど……
「つ、疲れた……」
全力で歌いながら踊ったことで俺は息も絶え絶えになっており、力尽きるように床に崩れ落ちたのだった。




