第22話 復讐するは我等にあり?
「報復の鏡だっっっ!!」
「やりました! ついに見つけましたよ!!」
報復の鏡と呼ばれた鏡を物騒なアイテムを見つけた二人が、これまで見たこともなかった喜びようを見せる。
「ええと、もしかしてアレが二人の探していた物ってこと?」
『ところで……』
と、はしゃいでいる二人に声をかけてよいものかと戸惑っている俺に、神様が話しかけてくる。
『さっき波乱万丈の加護と一緒に貰った苦難大成の加護なんだけどね』
あーなんかそんなのも貰ったよね。でも波乱万丈以上にこっちはよくわかんない加護なんだよな。名前から予想できないって言うかさ。
『苦難大成の加護はね、大きな困難を越えた先に成功を得る加護なのよ。つまり困難が大変である程、それを乗り越えた時に得られるご褒美が豪華になるみたいな』
「それって結構よくないですか?」
もしかしたら二人が喜んでいるアイテムを見つけたのもその加護のお陰の可能性がある訳だし。
『そうなんだけどね、この場合ご褒美を先に貰った形になってるじゃない』
「それは落とし穴に連続で落ちた事が試練になったって事では?」
『いや、単に連続で落とし穴に落ちただけだ。運は悪かっただろうが苦難とは言えまい』
そこに他の神様も話題に加わって来る。
「という事はまだ試練は終わってないって事ですか?」
『ああ、試練とは二通りある。一つは困難を踏破する事。もう一つは』
と、光の人形が外へと出る扉を指差す。
『無事に安全な場所まで脱出したところで達成を意味する場合だ』
『つまり遠足はお家に帰るまでって事ね』
「その遠足、ちょーっと物騒過ぎませんかね?」
俺は今もまだ喜ぶエルメノ達に気付かれないようにそっと扉を開けて外を覗き見る。するとそこには……
「…………」
そっと音を立てないように扉を閉じると、俺は未だはしゃぐ二人に話しかける。
「あのー、お二人共」
「え? なんですかランプさん?」
「おお、すまないな。私達ばかりはしゃいでしまって!」
うわー、ロザリーンもなんかキャラが変わってるよ。
「そのアイテムって良いものなんですか?」
とりあえずジャブの話題から。
「「っっ!?」」
すると二人はハッとした顔になって気を引き締める。
「あ、ああ、勿論だ」
「ええ、その通りですよ」
「でも名前からして結構危ないアイテムに見えるんですけど、もしかして呪いのアイテムだったりします?」
というか誰かに悪事を働くつもりなんじゃ。
二人の人となりを考えるとそれはなさそうなんだけど、あまりにもアイテムの名前が疑わしすぎる。
「ち、違います! これはそんな悪い物じゃありません!」
しかし二人は慌てて俺の言葉を否定してきた。
「この報復の鏡は呪いを解く為のアイテムなんだ!」
「呪い? でもそれなら名前が真逆じゃないですか?」
寧ろぶっ殺す気満々な名前なんだけど。
「呪いを解くなら解呪の鏡になるんじゃないですか?」
「それはこの鏡の解呪の仕方が関係しているんだ」
と、ロザリーンが報復の鏡の説明を行う。
「この鏡に呪われた者を映すると、鏡に呪われる原因となった者が映し出され、その者に呪いが跳ね返されるのだ。その効果から報復の鏡と呼ばれるのだ」
ああ成程、確かにその効果なら呪いを解くアイテムと言えるし名前にも納得がいく。
「でもそれ普通の解呪じゃダメなんですか?」
呪いの解除自体は教会などに頼めばやってくれる。
強力な呪いだとかなりお金いやお布施はかかるけどロザリーン達なら十分支払えるだろう。
「それは……」
そこでロザリーンが口ごもると、ちらりとエルメノに視線を向ける。
「かまいませんロザリーン。ランプさんなら大丈夫でしょう。何よりここにこれたのもランプさんと組んだ事がきっかけなのですし」
「それは……確かにそうだな。それに見つけた後なら問題あるまい」
エルメノに許可を得るという事はもしかして……
「ランプさんも察したと思いますが、呪いを受けたのは私のお母様です」
やっぱりか。
「お母様は二年前突然倒れました。原因は誕生日の送り物に紛れていた呪いのアイテムだったそうです」
「問題はその呪いだ。通常の呪いなら教会で解呪する事が出来たのだが、彼女の母が受けた呪いはかなり古いものでな。呪いというのは古いもの程強力になるのだという。送られた品はそんな呪いを封じる為のものだったらしいのだが、専門家が調べたところ意図的に破壊された痕が見つかったそうだ」
つまりわざと古代の呪いを封印したアイテムを破損させ、暫くしたら自然に呪いが溢れてくるように細工されていたって事か。
その時点でかなり呪いとマジックアイテムの扱いに長けた連中だよなこれ。
マジックアイテムは専門家じゃないけど、師匠の話だと作るのかなり大変らしいからなぁ。
「お母様にかけられたものが強力な呪いと知った私達はすぐに教会に解呪の専門家の派遣を頼みました。しかし教会からは他に優先しないといけない案件が多くてすぐには送れないと言われ一年が過ぎても派遣の目途は立ちませんでした……」
「間違いなく呪いをかけた者が手を回していると判断した私達は、独自に呪いを解く事にしたんだ。その旅の途中で知ったのがこの報復の鏡という訳だ」
「この鏡の優れた所は、呪いを力づくで破壊するのではなく、因果の意図を手繰り、その縁を利用して原因となった者に押し付ける事で高位の呪いから解放される事なんです」
成程、解呪の手段を選んでこのアイテムにしたんじゃなく、強力な呪いを解けるアイテムを探したらこれになったって事か。
他人に押し付けるってのも前世の漫画とかで見た呪術の話でも基本だったしな。
呪いを解呪しないって意味では問題の先送りだけど、その分厄介な呪いに対応できるんだからこれを作った人は発想の天才だったんだろうな。
「このアイテムを探している事がバレたら絶対妨害されていただろうから表向きは呪いを解呪できる者を探す事とその為の資金を集めるという名目で動いていたんだ」
ああ、間違いなくダンジョンで待ち伏せされて襲われてただろうね。
でも解呪できる人間を探すという事なら、自分達が教会を抑えているから無駄な努力と考えたんだろう。
「ですが遂に私達は報復の鏡を手に入れました! 後はこれをお母様の下に持っていくだけです!」
うん、それはよかったね。でもね。その前にする事があるんだよ。
「ええとですね二人共。その件でお二人に見て欲しいものがあります」
俺が改めて言うと、二人は一体何事かと首を傾げる。
「いいですか、絶対声を出さないように注意してこの扉の向こうを見てください。いいですか、絶対音を立てないようにですよ」
おれは二人に念を押すと、外に出る扉を音を立てないように開く。
そして二人がそっと隙間から外を見ると……
「「……っ!?」」
一瞬で顔面が蒼白になった。
それもその筈。そこにいたのは一匹の巨大な……ドラゴンだったのだから。




