第20話 神装備デビューとデビューライブ?
「どうもー! こんランプーッッッッ!!」
『こんランプー!』
『こんランプー!』
町から離れた人気のない場所でやけくそ気味の挨拶で配信を始める俺。
今回の配信はエルメノ達の居ないソロ配信だ。
だがそれには深い深い事情がある。
『はやくはやく!』
『ワクワク!』
リスナーの神様達からさっそく期待の声と視線が刺さる。
「ちょ、待ってくださいよ。心の準備ってもんが……」
今の俺は足元まで届くマントを纏って前を隠した状態だ。
冬ならともかくこの時期はちょっと暑い。
だが、隠さずにはいられない事情があったんだ。
『もー! こんなので隠さないで早く見せなさーい!』
「あっ!?」
視聴者を表す人型の魔力塊が俺のマントを引っぺがす。
『『『『おおーっ!!』』』』
マントに下から現れたのは、可愛らしい衣装、前回のダンジョンドロップを身にまとった俺の姿だった。
『かーわいいー!』
『うんうん、すっごく似合ってるわ!』
「ぐわぁぁぁぁ! 見るなぁぁぁぁぁぁ!」
『とか言って、見て欲しいから着てきたんでしょ?』
『うふふ、ランプちゃんも女の子なのね』
「アンタ等が着ろって言ったんだろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
そうなのだ、前回の配信の時、このアイテムが見つかった瞬間神様達から着ろ着ろコールが凄かったんだ!
配信者たるもの視聴者の期待を裏切る事は出来ない。
というかそんなことしたら視聴者離れ間違いなし、スパチャという名のバフが貰えなくなってしまう!
最悪の場合今かけて貰ってるバフも消える恐れがあるんだ!
「うう、いっそ殺せぇ……」
『―着こなしの加護を授かりました―』
『―シワシミ(衣服)の加護を授かりました―』
いらん加護付いたぁぁぁぁぁ!
『ほらほら、恥ずかしがってないでポーズとって!』
「ポーズってどんな!?」
『こうよこう!』
と、魔力で出来た人型がポーズをとる。
うごご、そんな恥ずかしいポーズを俺にとれと!?
だが、視聴率の為、視聴率の為!!
「こ、こうです……か?」
キャルン、とかキュインとか擬音が尽きそうなポーズをとらされる俺。
恥ずか死ぬっっっ!!
『キャァァァァァァァ!』
『パシャパシャパシャパシャッ!!』
何か撮影してませんか!? 当方は無断撮影お断りですよ!?
『―偶像の加護を授かりました―』
『―魅了の加護を授かりました―』
『―写真写りの加護を授かりました―』
おおーい! 今変な加護があったぞ! って言うか全部変な加護だろ!!
『ハァ、ハァ……すっかりハッスルしてしまったわ』
『近年まれに見る満足感ね』
やっと満足してくれたか。心底疲れた。
『まだよ』
だが、そこに凛とした、それで蕩けた様な不思議な声音の声が響く。
『貴方は、舞の神!?』
何か相撲取りみたいな響きの神様来たぞ。
『綺麗な服、可愛い女の子、大変結構。でも一番大事な物をみんな忘れているわ』
これ以上どんな面倒事があると?
『それは……』
『それは?』
『歌と舞いよ!!』
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
歌と舞!? 何言ってんのこの神!? こちとらただの一般人ですよ!?
『そうだわ! そうじゃない!』
『お着替えが可愛すぎてつい失念していたわ! 私達と言えば歌と舞いの奉納よね!!』
「え?」
『うーた! うーた!』
『まーい! まーい!』
そして始まる謎の合唱。
「いやいやいやいや、歌も舞も出来ませんて!」
『―歌唱の加護を授かりました―』
『―音程の加護を授かりました―』
『―美声の加護を授かりました―』
『―絶対音感の加護を授かりました―』
『―歌姫の加護を授かりました―』
『―七色の声の加護を授かりました―』
『―肺活量の加護を授かりました―』
『―体幹の加護を授かりました―』
『―柔軟の加護を授かりました―』
『―体術の加護を授かりました―』
『―舞踊の加護を授かりました―』
『―神楽舞いの加護を授かりました―』
「なんか大盤振る舞いぃぃぃっぃぃぃっ!!」
加護の無駄遣いだろぉぉぉぉぉぉ!
『『『『『『『さぁっ!!』』』』』』』
気が付けば無数の光の人形に囲まれた俺は、逃げ場を無くしていた。
「って、増えてるぅぅぅぅぅ!!」
『『『舞が見れると聞いて!』』』
『『『歌が聴けると聞いて!!』』』
周囲は光の人形で埋め尽くされ、期待の眼差しが突き刺さる。
「わ、分かりましたよ! やりますけど下手でもおこらないでくださいよ!」
『『『『『『『おおーっ!!』』』』』』』
「楽器も無いからマジでアカペラで歌うだけですからね! 白けても知りませんよ!」
『―幻楽の加護を授かりました―』
「なんですか今の?」
『巫女が人の侵入を禁止された場所で神にささげる舞いを踊る時に与えられる加護よ。楽器が無くても音が鳴るの』
つまりアニメでヒロインが突然歌う時にBGMもついてくるシーンが再現できるって事? 加護万能過ぎない?
「……ハァ」
仕方なく俺は覚悟を決める。
体を小さく逸らしつつ大きく息を息を吸い、吐くと共に歌を歌い始めた。
「~~~~~っ!」
歌うのは前世でお気に入りだった歌い手系配信者のオリジナル曲だ。
それに3Dモデル配信者のダンスを被せて踊る。
驚いたことに体は頭の中のイメージ通りに動き、記憶の中のダンスを踊る。
体がブレない。思った位置で腕が、足がピタッと止まる。止まった後でも揺れたりしない。
大量にかけられた加護のおかげか、俺の体は信じられないくらい綺麗に動くのが実感できる。
歌いながら踊るとか凄く大変な筈なのに苦も無く出来る。
これも加護のお陰って事か。
『―照明の加護を授かりました―』
『―演出の加護を授かりました―』
何か変な物を貰った気がするけど集中だ。
これも加護のお陰か、理性が舞いに集中しろと注意してくる。
「~~~~っ!」
伸びる声、張りのある声、艶やかな声、凛々しい声。
イメージがそのまま体から出力される感覚。
そして歌の終了と共にピタッと止まる肉体。
「…………っ」
『『『『『『『…………』』』』』』』
訪れる静寂。
『『『『『『『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 』』』』』』』
遅れてやってくる歓声。
『素敵よぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
『とっても可愛かったわ!』
『今まで聞いたことのない不思議な旋律の歌で新鮮だったわー』
『舞も見た事のないものだった。しいて言えば南部の様式が似ているか?』
『いや、これは東部方式の方が近くないか?』
興奮した神様達はアレが良かったコレが良かったと前世の歌とダンスに大興奮だ。
どうやら馴染みのない異世界のコンテンツがお気に召したらしい。
『ねぇ、もっとないの!?』
「え?」
『そうだ、もっと舞いを見たいぞ!』
『私も別の歌が聴きたいわ!』
ええ!? まだやるの!? もういいでしょ!?
『『『『『『『アンコール! アンコール!』』』』』』』
「アンコールの概念この世界にもあるの!?」
『『『『『『『アンコール! アンコール!』』』』』』』
「う、うう……」
『『『『『『『アンコール! アンコール!』』』』』』』
「うぐぐぅ……一回だけですからね!」
『『『『『『『やったぁぁぁぁぁぁ!』』』』』』』
神様達の期待に負け、俺は再び歌とダンスを披露する羽目になる。
とはいえ、本気で歌って踊って観客の歓声に包まれると、頭がフワフワした気持ちになって来る。
羞恥心よりも全力を出して体を動かすことに、声を張り上げる事に、意識が夢中になってゆく。
そんな時だった。
「……」
ふと、視界の奥にえた冒険者らしき男と目が合った。
「えっ?」
見られた。
「……」
見られた。この格好で歌って踊っている光景を。
それは、あえて言うなら、実家の部屋で女装してアイドルの配信を見ながら自分も歌って踊っている姿を親に見られたかのような気持ちで……
「~~~~~~っっ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
見られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
人に見られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
よりにもよってこの姿で歌って踊って跳んで跳ねてる姿をっっっ!!
「あっ! おい!?」
俺は全力で背を向けて逃げ出した。
「ぎゃああああああ! 見られた見られた見られた!」
ちゃうねん! 自分の意思じゃないんだ! 流れで断れなくて仕方なくなんだ!
「に、二度とこんな格好しないぞぉぉぉぉぉぉ!」
そう心に誓いこの衣装を封印すると決めた俺だったが、時すでに遅しだった。
◆
「ホントだって! 凄いキラキラした女の子が無数の精霊に囲まれて物凄く綺麗な歌を歌いながら踊ってたんだって!」
夕刻、冒険者ギルドで一人の青年が激しく興奮した様子で周りの冒険者にまくし立てていた。
「嘘つけ。そんなの居たらすぐに噂になるだろうが」
しかしそれを聞く冒険者達は彼の言葉に懐疑的だった。
「ホントだって! マジで見たんだ! 西の方の人気のない場所で、踊ってたんだって!見たことも無い踊りと聞いた事もない歌をまるでリリマ鳥みたいな綺麗な声で! 遠目で顔は分からなかったけど、雰囲気だけでも凄い美人なのが分かったんだよ!」
「どうせ近くで見たらブスなんじゃねぇの?」
「違うって! マジだって! もう人間とは思えないくらい綺麗だったんだって!」
激しく興奮した様子の彼を見た冒険者達は、彼が何かに化かされたのではないかと呆れる。
「案外、本当人間ではなく精霊だったのかもしれませんね」
と、話題に興味を持った魔法使いが会話に加わる。
「精霊?」
「ええ、周囲に無数の精霊が居たのでしょう? ならば上位の精霊の舞いに惹かれた下位の精霊が集まってそのような幻想的な光景を作り出したのかもしれません。上位の精霊なら人間離れした美しさというのも納得できますし」
「でも上位精霊なんて簡単に見つかるもんなのか?」
「非常に稀ですが、目撃例が無いわけではありません。上位精霊に遭遇した者は皆彼のように激しく興奮する事でも共通点がありますね」
「マジかよ、じゃあ本当にこの辺りに上位精霊が出たのか……?」
「彼女が精霊……精霊を探せば彼女にまた会えるのか……」
魔法使いの言葉を聞いた青年は、熱に浮かされたように呟く。
「決めたぞ! 俺は彼女を探す! 彼女に逢ってまたあの歌と踊りを見せて貰うんだ!!」
こうして、何も知らない若者が一人道を踏み外した。
だがそれも無理はない。ランプの舞は初めて見た物珍しさがあったとはいえ、神をも熱狂させたものなのだから。
ただの人間が見れば脳を破壊されるのは当然なのであった。
そして、その土地ではまことしやかにこんなうわさが流れる事になる。
人気のない場所で、精霊に囲まれた麗しき少女が二つとない歌と舞いで見た者を魅了すると。
のちに精霊灯りの舞姫と呼ばれる伝説の始まりであった。