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第19話 2体目のフロアボス

「そろそろフロアボスがくるな」


 更にフロアを降りて探索を続けていると、ロザリーンがボス戦が近いと警告してくる。


「あれ?でもボス戦って一定階層ごとですよね?」


 ダンジョンでのボス戦は最初にボスと戦った階層の倍数ごとというのが常識だ。

 そして前にボスと戦ったのは三層で今は五層だからボスに会うなら次のフロアになる。


「通常はな。だが一般に知られているこのダンジョンのボスは五層からだ。未踏破エリアの三層にボスがいるのは明らかにおかしい。そしてそういう場合ボスの出現パターンも例外になるのだ」


 成程、言われてみればそうだった。

 俺もソロ活動で生きるのに大変でそこまでダンジョンのことは詳しくないんだよな。


「ちなみにボスフロアが近いという根拠は?」


「勘だな。長くダンジョンに潜っているとそろそろボスと遭遇しそうだと分かるようになるんだ。学者でもいればその辺りを理屈で説明出来るかもしれんがな」


 冒険者の勘か。二人は俺よりも年季の入った冒険者だしその勘はバカに出来ないな。


「ちなみに私達が年の功という訳ではなく短期間で密度濃くダンジョンに潜っているからだな」


「え? あ、はい」


 何で急にそんな事言い出したんだろう?


『女には譲れない部分があるのよ』


 はぁ、そういうもんスカ。俺なんちゃってエセ女子何でよく分かんないっス。

 なんて話をしながら先に進んでいくと、ロザリーンが言った通りボス部屋の入り口が見えてきた。


「おお、本当にあった」


 俺達はボス部屋の前で軽い休憩を取りつつケガの治療やアイテムのチェックを行う。


「では入るぞ。二人とも警戒を怠るな」


「「はい!」」


 重苦しい音を立てて扉を開くと、ボス部屋へと入ってゆく。


「いきなり奇襲とかはなさそうですね」


 フロア内部は広さこそ以前と大差なかったが天井が前回のボス戦と違い目で見える程度の高さだ。


「上からの奇襲はなさそうだな」


 一体何が現れるのかと警戒していると、グルルルという唸り声と共に大きな狼の魔物が姿を現す。

 普通の狼と違うところと言えば、この狼は全身がカラスのように真っ黒な体をしており、反対に目だけは真っ赤に輝いていたことだ。


「ウルフ系のボス、それもダークウルフか!」


 その不気味な容貌に対し、なぜかロザリーンは嬉しそうに快哉をあげる。


「気をつけろ、奴は自分の影から無限に使い魔を生み出す!」


「なのに何で嬉しそうなんですか⁉︎」


「それは勿論奴と私達の相性が良いからだ! エルメノ補助を頼む!」


「はい!ハードニング!スラッシュニング!アウェイクニング!」


 エルメノがありったけの補助魔法をロザリーンにかけると同時に、ダークウルフも影から使い魔を生み出す。その速度はゲームみたいに1ターンに一匹なんて悠長なレベルではなくポコポコと大量に湧き出てくる。


「って多すぎぃ!」


 いくら何でも数が違いすぎる!


「心配するな。それよりのボスまでの道を切り拓いてほしい。まとめて攻撃できる魔法があるのならそれを頼む。ああ使い魔からは素材は取れないからそこは心配しなくていいぞ」


 そんな事は心配してないんだってば!

 とはいえ早く倒さないとどんどん増えるのは確かか。


「やるしかないか!ブレイドストーム!」


 次の瞬間、ボスを中心に魔物の群れ全体を包む嵐が生まれると中の魔物達を切り刻む。

 ブレードストーム、広範囲の竜巻の中に敵を閉じ込め無数の真空のヤイバで切り刻むかなり強力な魔法だ。

 しかも発動中は敵を嵐の中に閉じ込めて逃がさないおまけ付き。

 この間師匠に会った時にダンジョンは危険だからって教わったものだ。

 正直こっちの方が危ないんじゃないかって思ったけど今は師匠に感謝したいくらいだ!


「よし、エルメノは任せた!」


「え⁉︎」


 言うが早いかロザリーンは嵐が止むと同時に混乱が収まらない影の狼達の群れに突っ込んでゆく。


「ちょっ、ロザリーン!」


 いくら混乱してるとはいえあんな多勢の群れに突っ込むなんて無茶だ!


「大丈夫です」


 しかしそんな無謀な行動をエルメノは確信を込めて大丈夫だと言う。


「ほら、あの人なら問題ありません」


 エルメノが指差した先には、使い魔達の中を掻い潜ってボスへと一直線に向かうロザリーンの姿。


「はぁぁぁっ!」


 使い魔達の攻撃をガン無視して自分に突っ込んで来るものだからボスのダークウルフも困惑を見せる。


「ウォォォォォン!」


ダークウルフが雄叫びを上げると、使い魔達がダークウルフの前に集合し壁を作る。


「それこそ臨むところだ!」


 刹那、ロザリーンは大きく跳躍すると使い魔達の上に乗りその体を足場にダークウルフの懐へと飛び込む。


「はぁぁぁぁぁ!」


 そしてダークウルフが反応する前にその首を両断した。

 するとダークウルフの体が崩れ落ちると同時に使い魔達も溶けるように消えていった。


「ふぅ、終わったぞ」


 何事もなかったかのように手を振ってくるロザリーン。


「お疲れ様ですロザリーン。傷の手当てをしますね」


 その光景に動じる事なく彼女の元へ向かうエルメノ。


「ええと……ええ?」


「ははは驚いたか? だがこれが私達のいつものやり方なんだ」


「これが?」


「ええ、私が掛けられるだけ補助魔法を掛け、強化したロザリーンがボスに単身突撃して急所を狙って短期決戦を仕掛ける形です」


 なにそれぇ、流石に脳筋すぎない?

 前世のゲームでももう少し皆で協力プレイしてたぞ。


「ああいや、よく考えたらゲームによっちゃ一人のアタッカーにメンバー総員でバフ掛けてバ火力でぶん殴るゲームもあったか」


 そう考えるとリアルでもありなやり方なのかコレ?


「今回は相性が良かったのもあるな。使い魔を呼ぶタイプのボスには倒すと部下も消えるタイプが結構いるんだ。つまりボスだけに専念すればあとのことは気にしなくて良い」


 だからさっき相性が良いって言ったのか。


「ダークウルフの使い魔が消えるタイプだと知ってたんですか?」


「そういうことだ」


 成程ねぇ。消えるなら放置でボス集中の理解……いやそれでもやっぱ無謀だわ。めっちゃ使い魔に群がられてたじゃん。


「装備の性能もそうだが、エルメノの補助魔法を信用しているからな。あの程度の使い魔の攻撃なら問題ない」


 俺の表情から何を言いたいのか察したロザリーンが、エルメノの魔法を信用していたからこそと補足してくる。

 成程、エルメノはヒーラーだけでなくバッファーでもあったのか。


『ははは、これは愉快。闘神が見たら大喜びした事だろうな!』


『ーエルメノが突貫の加護をさずかりましたー』


『ーエルメノが狂戦士の加護を授かりましたー』


 あ、また加護を貰ってる。

 というか騎士の貰う加護じゃないんだわ。


「その分動きを封じてくるタイプの搦手の敵はやりにくいな。そういう意味では前回も今回もランプが魔法で援護してくれてかなり助かった」


「なんかあんまり役に立った気がしないんですけど」


「そんなことはないですよ。ランプさんは剣も使えますし私も安心して支援に専念できました」


「そう言ってもらえるとこちらも立つ背がありますけど、こんな闘い方が出来るほど強いなら他に魔法使いや戦士を仲間に出来るんじゃないですか?」


 ソロの女冒険者が信用できる仲間を集めるのは難しいけどこれだけの速さと勢いでボスを倒せるなら女2人のコンビでも信用を得られそうなんだけど。

 しかし2人は曖昧な笑みを浮かべる。


「信用できる相手というのもなかなかな」


「寧ろソロでギルドの受付の方から信用されているランプさんに出会えた私達の方が幸運でしたから」


 いや俺の場合は単純にいつまでもソロでフラフラしてて心配されてただけなんだけど。


『あら、ランプちゃんってばぼっちなの?』


 ボッチじゃなくて信用できる人に出会えなかっただけです! あと心を読まないで!


「それじゃあダークウルフを収納したら宝箱を確認するとしよう」


「今度こそロザリーン達のお目当てのものが見つかるといいですねぇ」


「ははは、さすがにこんな上層では見つからないさ」


 ということはロザリーン達のお目当ての品は下層でないと見つからないレベルの貴重品ってことか。

 2人との付き合いはまだまだ続きそうだな。

 そんな話をしつつボス部屋の奥へとやって来た俺達は、そこで見つけたボスドロップの宝箱の中身に困惑することになった。


「「「これは……」」」


 中に入っていたのは一着の服。


「一応は防具なのか? だがこのデザインは……」


 宝箱箱から出した服を広げると、そのデザインはとても可愛らしくて……なんというか漫画に出てくるようなヒロインの衣装のそれだった。しかもミニスカ風味。


「あー、私は騎士なので鎧に引っかかるような服はちょっとな」


「わ、私もこのように足が出る服を着たら叱られてしまうので……」


「「だからこれはランプ(さん)に!」」


「いらないですよ⁉︎」


 さすがにこんな服を着て冒険とか恥ずかしくて無理だからね!


『あら可愛いわね! ランプちゃんに似合いそう!』


「流石にこんなの着ませんからね!」


 女に転生した事はもう慣れたけど、こんな可愛いの来てたらまた他の女冒険者に男に媚びてるとか言われて逆恨みされかねないぞ!

 流石にアレをまた経験するのは勘弁して欲しい。


「ま、まぁダンジョンドロップだからな。鑑定して貰えば意外といい品かもしれないぞ」


「そうですよ。何ならお店で売ればいいんですから。上層階のボスドロップで装備品は珍しいですし、きっといい金額で買い取って貰えますよ!」


「そ、そうですよね」


 そうだよな! 売ればいいんだ、売れば。

 ボスドロップだから売ればそこそこの金になる筈!


『ふふふ、良い事考えたー』


 だが、俺の希望は最悪の形で裏切られる事になる。具体的には神様のイタズラで。


 ◆


「鑑定の結果ですが」


 冒険者ギルドに戻ってきた俺達は早速手に入れた装備の鑑定を依頼した。

 その結果……


「防御力の向上効果、打撃、斬撃、魔法に対する高い防御効果がありますね。布製ですが金属鎧のように身を守ってくれますよ」


「ええ!? 布の服で!?」


「もしやマジックアイテムか?」


 鑑定結果は驚きの高性能。こんなペラペラな服なのに!?


「下層を長期間探索して出てくるかというレベルですね。よくこんなお宝を見つけましたね?」


「それは……その」


「まぁ苦労してな」


「ええ、苦労しましたね」


「でしょうね。ただ、ちょっと問題もあるんですよ」


「問題?」


 これまで褒めっぱなしだった装備を今度は困ったような様子で口を濁す受付の人。


「これだけの装備ですからね、ある意味相応の制約があってもおかしくはないと言えるんですが」


 もしかしてこれ、装備すると何か別方面でデバフかかったりする奴だったりする?


「この装備、どうも神器のようなんですよ」


「「「神器?」」」


 神器、と聞いて以前神様達にパワーアップさせられた装備の事を思い出す。

 いやいやまさかそんな。いくら貴族でもダンジョンドロップにまで何かできるわけないよね。


「まさか神器があんなじモガッ!?」


 あんな上層でと口を滑らせそうになったエルメノの口をロザリーンが塞ぐ。


「あはは、それで神器だとどうなるんですか?」


「それがですね。持ち主が固定されていて他の人には使えないみたいなんです」


「持ち主が固定? 既に使用者が決まっていたという事ですか?」


「はい、持ち主はランプさん、貴方です」


「え? 俺?」


 まさかの自分が持ち主認定されていたと言われ、俺は思わず素の口調で返してしまう。


「多分ですが最初に触った人が持ち主として登録される品だったんでしょう」


「言われてみれば最初に触れたのはランプだったな」


「って、事はコレを売る事は……」


「ランプさん以外の人には使えませんから買取拒否でしょうね」


「そ、そんなぁー!!」


 いやいや、流石にコレを着るのは嫌だぞ!


「でも良かったじゃないですか。もしパーティに男の人が居てその人が最初に触れていたらこの服は男性専用になってたんですよ。それに比べれば、ねぇ」


「気休めになってないーっ!」


 って言うか中身的には正にそれなんだよーっ!

 こうして、ダンジョンで手に入れた可愛い服は、俺専用装備となってしまったのだった……

 せめて武器の方が良かったー!

 



 

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