第18話 魔法使いの剣士修行
フロアの魔物の強さが分かった事で、ロザリーンの剣術指南が始まった。
「強い魔物が現れるまでは魔法を使わず剣で戦うように。道中で教える立ち回りを実際の戦闘で行って実戦経験を積んでもらう。何かあったら私がサポートに入るから安心して戦いに専念してくれ」
「はい!」
道中、俺はロザリーンから色々な戦いのコツを聞く。
騎士の剣技というよりは実戦でよくあるミスや対応の仕方を彼女は教えてくれた。
「技というものは地道な鍛錬を経て覚えるものだからな。口頭で聞いた内容を実戦でいきなりやらせようとするのは無謀だ。まぁ中にはそう言う事をする者もいるが……」
妙に実感がこもっている溜息を吐くロザリーン。きっと知り合いにそういうのがいたんだろうな。
そんな彼女の講義には立ち回りとは関係ないものの面白いものもあった。
「探索中はいつ魔物と遭遇しても対応できるように常に剣を手に持って移動する。それゆえ武器を選ぶ際は長時間持ち続けても負担にならない物を選ぶのが常識だ」
まぁ当然だよな。強いからって持ち歩くのも大変な重い武器を持ち歩くバカはいない。多分。
「しかし懐事情に余裕がない新人冒険者やランプのマジックアイテムのような別の品に替えられない場合もある。その場合は持ち方で工夫することになる。例えば肩に乗せて運ぶとかだな」
「両刃の剣の場合はどうするんですか?」
肩をザックリやっちゃうと思うんだけど。
「肩鎧のみを金属製にして乗せる、もしくは探索時のみ使う簡易鞘を用意するなどだな」
「簡易鞘?」
「安全性を無視して吊り下げる事だけに特化した鞘だ。半分に割って上に乗せる感じで使う鞘や刀身に特別な加工をした革製の輪を通して肩にかけるものなど様々だな。勿論街中や道中では危なくて使えないし衛兵に見つかったら説教ものだ。あくまで探索中の間に合わせと思え」
はえー、そんな鞘があるんだな。
「興味を持ったのなら武器屋で相談してみるといい」
「分かりました」
成る程ねぇ。でも幸い俺には剛力の加護と倉庫の加護があるから、その辺の心配はいらなさそうだな。
「そら来たぞ。さっそく戦ってみろ」
通路の向こうから向かってくる魔物を見つけ、ロザリーンと共に魔物に向かってゆく。
「せぇぇぇい!」
ロザリーンから教わった立ち回りを意識しながら魔物と戦う。
「教えを意識して回避がおろそかになるなよ!」
「はい!」
俺は回避と教えの両方を意識しながら戦うが、なかなかうまくいかない。
というか二つの事を考えながら戦うってかなりきつくない!?
『あらあら、苦戦してるわねぇ』
『そもそも魔法使いだからな。いきなり白兵戦を上手くやろうというのが無理な話だ』
見てるだけの神様は気楽だなぁーっ!
『ならこういうのはどうかしら?』
『―並列思考の加護を授かりました―』
「え?」
その直後、俺の中で二つの思考が形を持って浮かび上がる。
―敵の攻撃の癖を見極める―
―敵の攻撃を可能な限りギリギリで避ける―
「これは?」
さっきまでは二つのタスクを何かある度に片方が真っ白になりかけながらこなしていたのが、今はハッキリと脳内でそれぞれのタスクを意識し続ける事が出来ている。
『脳内の思考を分割出来る加護よ。複数の作業を同時に行うのに最適なの』
ありがとうございます神様!
これなら戦いに専念しながら教わった内容を実践できる。
「ほう、大したものだな」
「凄い……」
そうして完璧とは言いがたいものの、ロザリーンの教えを活かして俺は魔物を倒す事が出来た。
「思った以上に剣の才能があるようだ。これは教え甲斐があるな」
すんません、才能じゃなくて加護なんですよ。いや本物の神様からの加護を生まれ持った人にとっては才能で間違いないのか?
うーん、才能と加護の違いってなんなんだろうな。
ともあれ、ロザリーンから習った立ち回りはソロで探索する時の大きな力になってくれそうだ。
「うむ、これだけ剣の才があるのだ。今後は冒険に出ない時も剣の手ほどきをしてやろう! 鍛錬の内容はどうするか。とりあえず素振りは500回から……」
「本業は魔法使いなのでほどほどでお願いします!」
500とか普通に死ぬから!
「ふふふ、ロザリーンったら嬉しそう。女性で騎士を目指す人は才能の有無もあって少ないから楽しくて仕方ないのね」
「あとは模擬戦連続50抜きも組み込むか。暇をしている冒険者を誘えば質はともかく人数は集まるだろう」
「ひぃっ!?」
なんかヤバイスイッチが入ってる!?
あかん、異世界に鬼コーチが爆誕してしまう!
「助けて神様!」
『あらあら、大変ねぇ』
『―疲労回復の加護を授かりました―』
『―良質睡眠の加護を授かりました―』
それ対処療法であって根本的解決じゃないのではぁーーーーっ!?