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第16話 お師匠様(ジジイ)はツンデレ

『連絡』


「お?」


 ピコンという音と共に俺の前に魔力で作られた文字と手紙マークが浮かび上がる。

 魔力を込めてマークを触れると光の人形が姿を現す。


『生きておるようじゃな』


 それだけ言うと光の人形は消滅した。


「いっけね、最近師匠の所に行ってないや」


 俺は慌てて今日の予定を全部キャンセルすると、商店街で手土産を買って貴族街の端っこに向かう。

 貴族街、それはこの町の特権階級が暮らすエリアだ。

 住む事が出来るのは当然貴族だけ。例外は貴族に仕える使用人くらい。


 なので当然防犯の為に貴族街の入り口には門番が守っている。


「こんにちは!」


「ああ、ランプか。久しぶりだな」


「はい、お久しぶりです!」


 かつては通るのに苦労した貴族街の入り口。

 しかし正式に師匠の弟子となってからはこの通りだ。

 しばし歩き貴族街の端の屋敷にたどり着く。


「師匠ー、生きてますかー?」


 屋敷に入ると俺は師匠が居るであろう部屋にノックもなしに入ってゆく。


「ふん、ノックくらいせいバカ弟子が」


「あっ、生きてた」


「あったりまえじゃ! 儂ゃ千歳まで生きるぞ!」


 そこに居たのはいかにも魔法使いと言った感じの偏屈お爺さんだった。


「それもうエルフじゃないですか」


「ふん、魔法で延命なんぞ魔法使いなら基本じゃ」


「でもその延命魔法もコストに見合ってないんでしょ」


「それをなんとかするのが研究者の腕という奴じゃ」


 この人はラサラム=グランバーグ元子爵。王都でも有名な魔法研究者だった人だ。

 ただし元。偏屈なこの人は敵味方が極端に分かれる人で、引退の際は政敵に追い落とされる形で強引に引退させられたらしい。


 この人こそ俺の魔法の師匠なのである。

 といってもこの人は二人目の師匠だ。一人目の師匠は村で色仕掛けをして魔法を教えて貰ったおじさん魔法使いね。


 ともあれこの師匠偏屈だけど腕は確かで、この人を慕う弟子や友人もそれなりにいるんだとか。

 俺はそんな人、一人しか会った事ないけどね。


「ふん、暫く見ないから死んだかと思っていたが相変わらずしぶとい奴じゃ」


 ちなみにこれは悪口とかじゃなく『心配したぞ』と言っている。

 そう、この人はツンデレなのだ。

 いや、正しくはツンのフリをしたデレというべきか。

 口は悪いがかなり優しい人なのである。


「お土産持ってきましたよ。師匠プレンナン亭のやわらかクッキー好きでしょ」


「ふん、こんな甘いものを持ってきおって。苦い茶でも入れんととても食えんわい!」


 そんな事を言いながら二人分のお茶を入れてくれる師匠。

 こういうところがツンデレなんだよなぁ。


 さて、何故俺が貴族街に住む魔法研究者と、それも貴族と知り合いなのかを説明しておこう。

 それは以前貴族のお嬢様の護衛をした際に知った通信魔法を学ぶ為だ。

 護衛で王都にやって来た俺は、そのまま王都に滞在して通信魔法についての情報と貴族魔法を学ぶ機会を探し求めた。


 その結果、より高度な魔法を学ぶなら貴族の魔法使いに弟子入りするのが一番確実と分かった。

 ただし貴族から魔法を教えて貰うにはかなり信頼を得ないといけないという面倒な問題があったんだけど。


「一番楽なのは貴族の愛人になる事だな。それも奥さんと仲の悪い貴族がお勧めだ。そういう男が心も体も安らげる関係を作れば貴族の魔法を学ぶ機会も得られるだろう」


 そんな事を言いながらスケベ顔で太ももを撫でて来た情報屋を蹴っ飛ばしたりしつつ、俺は魔法を学ぶのに適した貴族の情報を集めた……んだが碌なのが居なかった。


 だって貴族魔法って貴族の秘匿技術なんだもん。

 そりゃ口も堅くなるよ。んで、そんな貴族の口が軽くなる関係といったら情報屋の言ったような愛人関係。


 でも愛人を作るような貴族がどんな人間かなんて考えるまでもない。

 はい、油ぎったおっさんばかりです。あとは見た目はマトモでも性癖がヤバい奴。

 そんなヤバイ連中の愛人になるなんてごめんだ。だって俺の中身は男なんだぞ。

 ここまでの情報を得る為に結構なお金を使ったよ。使ってなかったら酷い目に遭ってたから今となっては必要経費だけどさ。


 という訳で次に考えたのが引退した魔法使いに弟子入りするパターンだ。

 性欲の枯れたお年寄りの魔法使いならワンチャンあるんじゃないかと!

 その結果見つけたのが我が師匠ラサラム=グランバーグなのである。


 うん、師匠に弟子入りするのは大変だったよ。

 何せ色仕掛け以外で弟子入りしようにも俺には賄賂も権力も無いからね。

 なので真正面から行きました。


「私を弟子にしてください!」


 貴族街に入る事の出来る依頼を受けた俺は、そのついでに師匠の屋敷に出向き弟子入りを懇願した。まぁその結果は……


「帰れ!」


 だったけどね。

 しかし俺は諦めなかった。なんとか理由を付けて貴族街にやって来ては弟子入りを申し込んだ。

 ついでに強引に食事の用意をしたり草むしりを引き受けたりして何とか押しかけ弟子として外堀を埋める事に勤しんだのである。


 普通に考えれば貴族相手にそんな事をしても何の意味もない。

 だが師匠はちょっと事情が違った。

 というのも師匠、貴族なのに一人暮らしなのだ。


 実は師匠、職場でも偏屈で通っていただけあって、家庭でもまぁご家族と仲が良くなかったのである。

 といっても家族と争っているとかじゃなく、単純に口下手というか人づきあいがへたくそなのだ。

 そして仕事に真面目な人間でもあった為、家族との時間もなかなか取れず、その結果娘さんとお孫さんに大変恨まれる事になってしまったらしい(情報屋調べ)


 そんな環境では家に居づらく、猶更仕事に打ち込む。

 結果仕事が無くなった師匠は家に居場所がなくなり、こうして小さな屋敷で一人暮らす事になったのだそうな。


「はん! 家事なぞ魔法とたまに来る使用人にやらせれば何の問題もないわい!」


 なんて強がっていた師匠だったが、俺が事あるごとに顔を出すようになると、ほんの数回であっさりとデレた。


「ふん、どうせ来たんだ。茶くらい飲んでいけ。別にお前の為に入れた訳ではない。お湯を沸かし過ぎただけだ!」


「ふん! 知り合いに甘いものを押し付けられた。儂ぁ甘いモンは好かん。お前が処分しろ!」


 もうね、完全に素直になれないお爺ちゃんですよ。

 孤独な独居老人を救うのは人のぬくもりでした。

 そんな感じで暫く押しかけ生活をしていたら、遂に師匠は魔法を教えてくれるようになった。


「かー! こんな低俗な魔法しか使えんのか! 儂の弟子を名乗ろうとする身の程知らずの癖に情けない! 少しはまともな魔法を覚えんか!」


 とか言って。

 そうして俺は師匠から色々魔法を学び、遂には死亡確認をするのが面倒くさいという理由で念願の通信魔法も教えて貰えたのである。

 まさか本命の魔法を生存確認の為に教えて貰えるとは思わなかったけどね。

 そんな紆余曲折があり、俺は魔法配信者デビューを果たしたのである。


「あっ、そう言えば師匠に聞きたい事があったんですけど」


「なんじゃい」


「貴族って貴族魔法が使えるじゃないですか」


 ここで俺は配信で感じた疑問について師匠に尋ねてみる事にした。


「既得権益を守る為に平民には教えない特別な魔法。そういうのって同じ効果でも違う魔法だったりするんですか?」


「例えば炎の矢を産み出す魔法があったとして平民用の弱い炎の矢と貴族用の強い炎の矢の魔法がそれぞれ別にあるかという事か」


「そうです。あと持続時間も平民用と貴族用で違ったりするんでしょうか?」


 配信で神様達からかけてもらった倉庫の加護とか、未だに効果があるんだよな。

 それとも定期的に新しくかけて貰ってるんだろうか? でも通知があったのは最初の一回だけだったしだけどなぁ。


「結論から言うと無い。既存の魔法は統一する為に全て同じものとなっている。でないと個人の覚えた魔法によって性能にムラが生じ、指揮官が作戦立案をする際に不安要素となる」


「あー、全員の装備を整えないと弱い装備の人間からあっさり負けて数の差が出ちゃうからって事ですか」


「そうだ。貴族が秘匿する魔法と平民に与えた魔法との間に類似性はない。例外としてはあまりにも規模が違い過ぎる場合か」


「規模ですか?」


「同じ炎の魔法でも炎の矢を1本出す魔法と、戦場全体を一瞬で焼き尽くせる規模の炎を産み出す魔法は別物じゃろ」


 あー、そういう規模か。拳銃の弾とミサイルの違いみたいなもんだな。


「そして持続時間じゃが、こちらもそこまで差はない。戦闘に使う魔法の持続時間は平民の戦闘も貴族の戦闘もそこまで差は無いからの。長時間戦う戦争の場合はそもそも付与魔法よりも大規模破壊魔法の方が主力となる。大抵の魔法は発動中魔力を消費し続けるしの」


「じゃあ貴族専用の何十時間も効果のある付与魔法とかは……」


「そんなモンただの魔力の無駄使いじゃ。というか技術的に不可能じゃ」


 あっさり否定されてしまった。

 でもそうなると神様達の加護ってなんなの? まさか本当に神様……いや流石にそれはないよな。

 魔法配信にたまたま神様が観にきてスパチャの代わりに神の加護を授けてくれるとかありえんでしょ。


「それかマジモンの国家機密ってヤツ?」


 それはそれでスパチャされてた事がバレたら俺の身がヤバそうなんだけど……

 ともあれ一応は聞きたいことも聞けたし、師匠に顔も見せたから今日の所はこれで帰るとするか。


「バカ弟子! 今日はもう遅い! お前のようなボンクラが夜に出歩いたらあっという間に襲われてしまうわ! 仕方ないから今日は泊っていけ!」


「はーい、ありがとうございます師匠!」


 加護の謎は深まってしまったけど、それはそれとして師匠のツンデレぶりは本物だと思うんだ。

 まさか異世界に転生して本物のツンデレに出会えるとはなぁ……

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>>そんなヤバイ連中の愛人になるなんてごめんだ。だって俺の中身は女なんだぞ。 あれ?いつの間に「女」だったことに?
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