第15話 魔剣のお披露目
「みなさーん、こんランプー!」
『『『こんランプー!』』』
だいぶ慣れて来た挨拶をしつつ俺は配信を始める。
『あら? エルメノちゃん達は居ないの?』
「今日は神様達とお喋りしながら配信したいのでソロ配信です!」
『良いわね、あの子達が居るとお喋りできないものね』
『私はあの子達ともお喋りしたいわ』
『いや、我等の事を軽々に広めるべきではない。知らせぬ方が良いだろう』
と、神様達はエルメノ達を参加せるべきか否かで口論を始める、
いかん、感想欄が荒れてきた。なので話題を変えよう。
「今日の配信はおなじみダンジョン探索です!」
俺はクルリと体を半回転しつつダンジョン大げさに手を広げながらダンジョン内を指し示す。
『可愛い』
『愛い』
『未探査エリアを探索するのね』
「いえ、そっちはエルメノ達と探索する為に取っておきたいので今日は実験を兼ねて普通の依頼をします」
『実験って?』
「これです!」
俺は満を持して腰に装備していた剣を取り出す。
「これは前回のフロアガーディアンとの戦いで手に入れたマジックアイテムです。今回はコイツの性能を試しがてら討伐依頼を行おうと思います」
『ほほう、ダンジョンアイテムの試運転か』
『わくわく、どんな性能なのかしら?』
よし、神様達の気を逸らす事が出来たな。
「今回の依頼はダンジョンバット10匹の討伐です。強さ自体はそこまでじゃないですけど、空を飛んで襲ってくるので地味に嫌われている魔物ですね。素材としても美味しいわけじゃないので大抵は逃げたりしてやり過ごすんですが、放置し過ぎると繁殖して後々厄介になるので討伐依頼が常に告知されている魔物なんです」
こういうのを常設依頼と呼び、大抵は冒険に慣れていない新人の救済措置や金が無くて仕事が選べない期間を活かして新人が成長する為に必要な経験を積ませるという目的がある。
なので常設依頼を全種類受けてランクを上げた人と派手な討伐依頼しか受けずにランクの上がった人だと、前者の方がランクが上がりやすくまた冒険者としての寿命が長いのだとか。
「魔法で狙い撃てば楽勝なんですけど、今回は新装備のお披露目なのでこの魔剣だけで攻撃します!」
『がんばってー!』
「はい! 頑張ります!」
さっそく俺はダンジョンバットを探してダンジョン内を探索する。
すると少し歩いただけであっさりダンジョンバットを発見する。
というかダンジョンバットは雑魚なのでそこら中に居るからね。
「いました! それじゃあいきます!」
手にした魔剣の宝玉に魔力を注ぎ込むと、さっそく戦闘を開始する。
「たぁぁぁ!」
ダンジョンバットに聞こえるように雄たけびを上げて突っ込むと、向こうもこちらに気付きキィキィと威嚇の声を上げて襲い掛かってくる。
「ダンジョンバットは空を飛ぶ魔物。なのでこちらへの攻撃を誘発して攻撃の届く高さまでおびき寄せる必要があります!」
ダンジョンには天井があるから高さに制限があるけど、それでもピョンピョンジャンプして天井にタッチするのは不可能だ。
少なくとも俺くらいのレベルじゃ。
なんか上位の冒険者は素の身体能力で天井までジャンプして空を飛ぶ魔物を討伐するとかいう漫画みたいな連中が居るって噂もあるけどな。
いやこの世界自体漫画みたいな世界だけどさ。
「ギィーッ!」
ダンジョンバットが数体一斉に群がって来る。
近づいてくると分かるけど、その大きさは翼を広げて50㎝ほど、胴体だけでも15㎝と普通のコウモリに比べたらかなり大きい。
「ふっ!」
俺は小さく息を吐き、それらの攻撃を回避してゆく。
そしてすり抜けざま宝玉に魔力を注ぐと一気に魔物達を切り裂いた。
「ギィーッ!?」
攻撃を受けたダンジョンバットはあっさりと地面に落ちる。
『あら? 何も起きないわね』
そう、前回の戦いと同じく魔剣は発動したにも関わらず何も特別な効果を発揮しない。
見た目の上では。
「はい、実はこの魔剣、ぱっと見だと何が起きてるか分かんないですよね」
『宝玉が発光しているという事は発動はしているようだな』
神様の言う通り、魔剣の核である宝玉は俺の魔力を得てうっすらと光り輝いている。
『つまりこの魔剣の効果は見ただけでは分からないものという事か』
「その通り! この魔剣の能力、それは!」
「ギィィィィィィィィィッ!!」
魔剣の性能をお披露目しようとしたその時だった。
ひと際甲高い音がダンジョンに響き渡る。
「あれは……!?」
一体何事かと音のした方向を見れば、ダンジョンの闇から巨大なコウモリがこちらに向かって飛んでくるのが見える。
その大きさは周囲にいるダンジョンバットの実に三倍以上。
「まさかグランバット!?」
グランバット、ダンジョンバットから極稀に生まれる特異な個体。
見た目の通りダンジョンバットよりも大きく、強さと凶暴さは三倍どころじゃないという厄介な敵だ。
「さては常設依頼をサボってたな!」
『依頼をサボるってどういう事?』
「常設依頼で魔物の間引きをするのって、ああいう特異個体が生まれるのを防ぐ役割があるんですよ!」
特異個体は極稀にしか生まれない。
でも魔物の数が増えれば全体の母数が増える。それはすなわち特異個体が生まれる確率が上がるって事だ。
「そうならないように、冒険者ギルドは常設依頼を受けるように推奨するんです!」
『だが旨味が少ないのなら好き好んで受けないのではないか?』
「その辺はランクアップの査定が少し良くなるんですよ。他人がやりたがらない仕事でもやってくれるやる気のある人間だって」
これはギルドの受付嬢のパームさんが教えてくれた事だ。
そんな査定に関わる事を教えても良いのかって思うけど、どうもこれわざと教えて冒険者の出世欲を刺激する為の情報っぽいんだよな。
そして本当に大事な査定箇所は隠してるくさい。
「ちょっと厄介だけどまぁ魔剣のお披露目にはあれくらいの方がいいか!」
グランバットを迎え撃つべく、俺は魔剣の真の力を解放する。
「ファイアバーン!」
魔法の発動と共に刀身に炎が宿る。
「はぁ!」
そして突っ込んできたグランバットに燃え盛る剣を振り下ろす。
「ギギィ!?」
突然炎を噴き出した剣を慌てて回避しようとするグランバット。
しかし飛ぶという挙動は地上で活動する生き物のように足で急ブレーキをかける事が出来ない。
結果回避が間に合わなかったグランバットは燃え盛る剣に切り裂かれ更に炎が全身を焼く。
「ギィィィ!」
これには堪らずグランバットは地面を転がって火を消そうとする。
『剣が燃えた? 炎の魔剣って事?』
『いや違うな。剣に炎が宿る前に魔法を発動していた。もしやこの魔剣……』
「はい! この魔剣の能力は『自分が使った魔法の効果を剣に宿す』です!」
『『『『なんか微妙』』』』
『それなら普通に魔法を使った方が早くないか?』
『射程短くなってるわよね』
ぐわぁぁぁぁ! やめろ! 本当のことを言うな!
正直自分でも思ってたけどあえて目を背けていたのに!
『いや、そうでもなさそうだぞ』
「え?」
戦闘中にも関わらず悶絶しかけた俺だったが、配信を見ていた神様の一人が皆の反応に待ったをかけた。
『このまま魔剣を維持した状態で戦ってみろ』
「わ、分かりました!」
俺は言われた通り、魔剣に炎を灯したままグランバットと戦い続ける。
「とりゃ!」
「ギィィ!」
グランバットは爪と噛み付き、それに大きな羽の羽ばたきから生み出す突風で俺のバランスを崩そうとするが、武人の加護の効果で体勢を立て直すとチャンスとばかりに突っ込んできたグランバットにカウンター気味の一撃を叩き込む。
「キィィ!」
「もういっちょ!」
もう一撃叩き込むとグランバットが態勢を立て直そうと天井近くに逃げる。
流石に高いところに逃げ込まれると剣じゃきついな。やっぱ普通に攻撃した方が効率がいいわ。
『やはりな。この魔剣の優位性が見えてきたぞ』
しかし俺の戦いを観察していた神様の意見は逆だった。
『ねぇ、一体何が分かったの? もったいぶってないで教えてよ』
神様の焦らしにしびれを切らした他の神様が種明かしをせびる。
『落ち着け落ち着け。その魔剣の真価、それは持続時間だ』
「持続時間?」
『そうだ。通常攻撃魔法は一度敵に命中するとそのまま消滅してしまう。だが魔剣に発現した魔法は数度敵を攻撃しても消えていない。つまりこの魔剣の真価とは、一発分の魔力消費で数発分の魔法を放ったのと同じ効果が期待できるという事だ』
「なんと!?」
そう考えるとかなり便利な効果じゃない!?
『おそらく魔剣の発動に使った魔力消費を引いてもおつりがくるレベルだろう。今はまだランクの低い魔法だから実感が沸かないかもしれないが中級魔法レベルになれば目に見えて効果が違ってくるぞ』
おおー、確かに威力と魔力消費が大きい魔法程メリットがはっきりしてくるな。
「もしかして思ったよりもこの魔剣って当たりだったりする?」
『使い手によるな。普通の魔法使いがこの魔剣を使ってもまともに戦えんだろう。剣士が使うにしても、毎回魔法をかけもらう為に後ろに下がっては敵もすぐに察して妨害してくるようになる』
確かに、神様の言う通りこの魔剣を十全に使おうとすれば魔法使いが剣士並みに強くなるか、パーティが高いレベルで連携する必要がある。
いやまてよ、って事は……
「私ならこの魔剣を活かす事が出来るんですよね」
『そうだ、武人の加護だ』
やっぱり! 俺には神様にかけてもらった武人の加護があるから、魔法使いにもかかわらず剣士のように接近戦でも戦う事が出来る。
この利点を生かせば俺はこの魔剣を最大限活用できるって訳だ!
「うおおー! 燃えてきたー!」
俺は文字通り燃える魔剣を手にグランバットをぶった切る。
「うりゃうりゃうりゃうりゃー!」
「ギィィィーーーッ!?」
ファイアバーンのかかった魔剣で滅多切りにされたグランバットはあえなく撃沈した。
「よっしゃー! 残りもぶった切るぞー!」
ノリに乗った俺は、そのままダンジョンバットも纏めてぶった切る。
「10匹! よし! これで依頼達成!」
そうして、俺はそう時間をかけることなく目的の数のダンジョンバットを倒し終える。
「あとは討伐証明の部位を剥ぎ取れば依頼たっせ……あっ」
そこで俺は気づいてしまった。
『どうしたの?』
「証明部位、燃えてる……」
そう、俺が倒したダンジョンバットの討伐証明部位は見事に燃えて到底証拠として使えなくなっていたのだ。
「し、しまったー!」
やっちまったー! 炎の魔法は素材収集に向かないんだった!
魔剣のお披露目の為に分かりやすい炎の魔法を使ったのが失敗だったーっ!
「うおお……全部やり直しぃ……」
しかもグランバットの素材も燃えちゃってる。こっちは普通に素材として金になったのに。
『あらら』
『運が悪かったわねぇ』
『そうそう、頑張って。きっと良いこともがあるわよ』
『―ささやかな幸運の加護を授かりました―』
うう、スパチャありがとうございます……。