第12話 燃え盛るネイキッド
「よっし、自由になった! 覚悟しろこのボス蜘蛛!」
糸球から自由になった俺は、反撃を開始した。
「喰らえファイアバーン!」
俺は躊躇う事なく攻撃力全振りの炎の魔法を放つ。
相手はボスなうえに糸球で無力化してくる。ならボスの素材を諦めてでも確実に糸球を燃やせる炎の魔法を主体で攻めた方がいい。
「な、何で裸なんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と、なんかエルメノの悲鳴が聞こえてきた。
うん、今の俺は裸なんだ。ストリーキング、王様じゃなくて全裸ね。フルなフロンタなんとかさんだ。
というのもボスの攻撃が俺に直撃した事が不幸中の幸いだった。
魔法使いである俺の防具は全身を覆うローブだ。なので俺自身の体には糸が絡まっていなかったんだ。
なので糸に触れないように這いずってブーツとローブ、それに手袋を外して脱皮する蛇のように糸球から抜け出した次第。
あっ、一応糸球に当たらなかったパンツは履いているよ! 謎の光に頼らなくて済むな!
『きゃー破廉恥だわー!』
『―チラリズム防止の加護を授かりました―』
何かよくわからん加護を授かった気がするが今は戦闘に専念だ。
『おお、見えそうで見えない。これはこれで趣がある』
『―擦過傷保護の加護を授かりました―』
『これで肌が擦り傷を負う心配はなくなった。思う存分チラるが良い。出来れば日常的に』
「あっ、どうもありがとうございます」
俺はボスが放つ糸球を焼き落とし、時には回避して相手の気を引きつける。
するとボスも自分の攻撃を邪魔する俺がうっとおしくなったのか、ロザリーン達よりも俺を優先して攻撃するようになった。
「そうだ! こっちにこい!」
より一層激しくなったボスの攻撃を俺は武人の加護も相まってアクロバディックに回避する。
「いやぁあぁぁっぁあ! 見えちゃう! そんな激しく動いちゃ駄目です!
いやそんな事言っても命がかかってるし。
あと神様の加護のお陰でギリギリ見えないから安心して欲しい。
「大丈夫! 恥ずかしくないですから!」
だって俺は男だもん!
「見てる方が恥ずかしいんですよぉぉぉぉ!」
それはごめん。我慢して。
ともあれボスの攻撃を回避しつつの魔法連発は割ときつい。
魔力の自然回復量が上がっているといっても連発は出来ない。
「最悪の場合は接近戦になるかも……」
幸い、武器は炎の魔法で糸ごと焼いたから確保できている。その所為でちょっと焦げちゃったけど、まぁ使えるから良し。
流石に防具は一緒に燃えちゃいそうだったので武器だけ確保して燃えてる糸を切ってその場に放置した。
そんな訳で俺はほぼ全裸で武器だけを持って戦場を駆けまわるという大変センシティブな光景を晒していた。
「くっ、仕方がない! 我々で早く終わらせるぞ! エルメノ強化魔法を!」
「は、はい! エンチャントソード!」
エルメノがロザリーンの剣に杖を翳して魔法を発動すると、彼女の剣が淡い光を帯びる。
「よし、ゆくぞ!」
自分に向かって突撃してくるロザリーンに気付いたボスだったが、糸球を無効化できる俺の方が危険という判断は変わらなかったらしく俺への攻撃を継続するボス。
そしてロザリーンの攻撃は回避で乗り切ろうと横に跳ぶ。
だが奴はロザリーンの事を侮っていた。
「エンチャントスピード!」
ロザリーンが魔法を発動した瞬間、彼女の速度が一気に上がってボスのを大きく切り割いた。
「シィィィィッッ!!」
想定外の痛手を受けた事で、ボスが悲鳴を上げながら真上に糸を飛ばし、天井へと逃げる。
成程、天井が高いのはボスの避難エリアだからか。
「でも攻撃が止んだぞ!」
天井に逃げる為に糸の射出口がふさがった事で、ボスの糸球攻撃が止む。
「ウインドカッター!」
俺の放った魔法がボスの体と天井へ伸びる糸を切り割く。
「シィィィッ!?」
「せやぁぁぁぁぁ!」
糸を切られて落下してきたボスをロザリーンがカウンター気味に切り割いた。
そしてズズシャアという重い音が落ちる音と潰れる様な音が同時に鳴り、真っ二つに切り割かれたボスの体が地面に叩きつけられたのだった。
「よっしゃ、完全勝利!!」
明らかに死んだボスの死骸を確認し俺は勝利のポーズを決めたのだった。
「「良いから服を着てくださいっっっ!!」」
あっ、はい。
俺は猛烈な勢いで駆けよってきた二人に頭からマントを被せられたのだった。
◆
「私の所為で本当に申し訳ありません」
戦いが終わり、エルメノが心底ションボリした様子で俺に頭を下げてくる。
これでもう五度目だ。
「まぁアレはしゃーないですよ。あんな大量の糸球を連発されたら他のパーティだって当たってましたって」
事実、糸球の機関銃攻撃は回避以外の選択肢がない攻撃だった。
完全な初見殺しの攻撃だった以上、エルメノを攻めるのは酷というものだ。
なので俺はエルメノを許す。
実際冒険をしていれば誰かのミスでピンチになる事は少なくない。
その度にミスした奴を攻めていたら次に自分がミスった時に鬼のように責められてパーティの空気は最悪になるだろう。
だから余程戦犯な事をしたり同じミスを連発でもしない限り、パーティ内でのミスは許す事が通例になっていた。
……ぽっちな俺はそんな経験した事ないけどな!!
「すみません……」
「ちっちっちっ」
それでも落ち込んだままのエルメノに俺はちちちと指を振る。
「こういう時はありがとうで良いんだよ」
どっかで見た漫画のようなセリフを言ってエルメノを窘めると、エルメノはくすりと笑みを浮かべて頷いた。
「助けてくれてありがとうございます。次に何かあった時は私がこの身を賭してあなたをお助けします」
「いや、そこまでしなくていいんですけど」
しかし借りを作ったと思ったエルメノはフンスと鼻息荒く俺に借りを返す事を決意していた。
「まぁいいか。それじゃボスの素材も剥ぎ取った事だし、ボス部屋の奥を確認しに行きましょうか!」
「「その前に服が先でしょう!!」」
えー、お宝の方が大事じゃない?