第11話 絡めとる糸
「蜘蛛の魔物!?」
天井から降って来たのは、巨大な蜘蛛の魔物だった。
「上層の魔物じゃない! ダンジョンスパイダーの亜種かもしれん!」
魔物の姿を確認したロザリーンから、相手が普通のボスじゃないと警告をしてくる。
「蜘蛛の魔物って事は、攻撃は……糸っ!」
予想した通り、魔物は俺達に向けて糸を放ってきた。
しかもダンジョンスパイダーとは違い、一度に複数の糸弾をショットガンのように散弾で放たれる。
「散弾でもダンジョンスパイダー並じゃん!」
糸弾の大きさはダンジョンスパイダーのものとほぼ同じの癖に数が増えてるからかなり厄介だ。
幸い武人の加護を貰っている俺は糸玉の乱射をなんとか回避できていた。
「キャア!」
しかしエルメノの服に糸玉に掠って地面とくっついてしまう。
「ふ、服が、取れない!」
「落ち着いて! ナイフで切って!」
「わ、分かりました!」
俺のアドバイスを受けて自分の服を切ろうとしたエルメノだったけれど、なかなかうまく服が切れないで戸惑っていた。
「だ、だめ。このナイフじゃ私の装備は切れない!」
なんと彼女の服の防御力が高すぎて手持ちのナイフでは切り取る事が出来なかった。
マジかよ、漫画とかだと布装備って普通に切れない? いや切れたら防具の意味ないか。
ファンタジーの布の防具って本当に良い奴は凄いんだな!
「シィィィ!」
なんて言ってる場合じゃなかった!
ボスがエルメノに追い打ちをかけるべく再び糸を吐く動きを見せる。
「させん!」
ロザリーンがボスの注意を引こうとするも、ボスはロザリーンを無視してエルメノへの狙いを外さない。
「ファイアバーン!」
俺はボス目掛けて火魔法を放ちながらエルメノに向かって駆けだす。
ボスは俺の魔法を回避してエルメノに糸球を吐く。
だが回避行動をした分俺の方が少し早い。
「はぁ!」
俺はエルメノの服ごと糸を切る。
「よし!」
狙い通り! 神器になった剣ならいけた!
彼女が完全に糸から解放されたのを確認する前に俺はエルメノの体を突き飛ばす。
「きゃっ!?」
直後、俺の体にボスの糸球が命中した。
「ぐぇっ!」
きっつ! 直撃でもバスケットボールがみぞおちに直撃したくらい痛いぞ!
「ランプさん!?」
突き飛ばされた事で追撃を受けずに済んだエルメノが血相を変えてこっちにむかってくる。
「すぐに助けます!」
「来るな! 触ると巻き込まれる!」
「っ!?」
無防備に触れようとしてきたエルメノを叱責して足を止めさせる。
「で、でも今フロアガーディアンに狙われたら……」
「これじゃすぐには逃げられない! 俺よりもロザリーンの援護を!」
しかし自分の所為で俺が身動き取れなくなった事に責任を感じているのか、エルメノは動けないでいた。
「この状況でも魔法ならなんとか援護できる。それよりもロザリーンの治療を出来る人間が自由に動けない方が不味い。急いで! 一人じゃ彼女でも支えきれない!」
事実ロザリーン一人でボスの相手をするのはかなりきつそうだ。
敵の攻撃は掠るだけで動きが多は場に制限される。直撃でなくとも連続して糸弾に触れたら身動きできなくなってしまう。
そうなったら剣士のロザリーンはおしまいだ。
「っ! 分かりました! すぐに倒して助けに戻ります!」
「任せた!」
エルメノがごめんなさいと言ってロザリーンの下へ駆け出す。
『だがどうする? フロアガーディンに狙われたひとたまりもないぞ』
そうなんだよね。魔法で援護できるって言ったけど、ボスにアイツうっとおしいから先にやっちまうかって思われたら逃げる事も出来ずに詰むんだよな。
エルメノもその事は分かっていただろうけど、同時に彼女が持つナイフじゃ切れなかっただろうし、ロザリーンの援護に専念してもらうか、なんとか彼女と交代して糸を切ってもらうしかないだろう。
「剣……はダメだな。手首を曲げ……あたた、こりゃ無理だ」
糸で剣で糸を切れればよかったんだけど、おもいっきり胴体に直撃して腕まで固定されてるから無理だな。
無理に剣の持ち方を変えようして手元が狂ったら自分の指を切りかねない。
「魔法なら……あっ、駄目だ」
困った事に杖も糸球に絡み取られていたので、この角度からボス目掛けて魔法を撃つのは無理っぽい。同時に糸だけを器用に切るにはちょっとバランスが悪い。下手したら自分ごと真っ二つとかしかねないわコレ。
「うーん、何か他に方法はないかな。直撃喰らってるから碌に動けないけど……あっ、
そっか直撃なら」
そこで俺はある事を思いつく。これならいけるか?
『え? ちょっ、ええ!?』
『な、何してるのランプちゃーん!!』
◆エルメノ◆
「私の所為だ!」
私がどんくさかったせいで、ランプさんが代わりにフロアガーディアンの攻撃で動けなくなってしまった。
この状況じゃ私よりもランプさんの魔法の方が有効なのに!
「ロザリーン!」
「エルメノ!? ランプはどうした?」
「私の代わりに糸に! 私の刃物じゃ助けられない!」
「何という事だ!」
ああ、ロザリーンも落胆してる。当然よね。探していた遠距離攻撃の出来る魔法使いが私の所為で戦いに参加できなくなってしまったんだもの。
「私が囮になります。ロザリーンはランプさんを助けて!」
「無茶を言うな! こいつは見た目よりも早い。至近距離で避けるのは無理だ!」
「私じゃ補助魔法以外フロアガーディアン相手に有効な援護は出来ません! 私を囮にしてランプさんを自由にした方が確実に有利になります!」
フロアガーディアンが私達目掛けて八本ある足の内の四本を使って猛烈に攻撃をしてきます。
至近距離だと糸球が撃てない代わりに沢山の足で連続攻撃を!?
「くっ!」
ロザリーンはその攻撃を上手く受け流しますが、私ではあそこまで綺麗には避けれずどうしても大きく下がって避けるしかありません。
そしてそれがフロアガーディアンの狙いでした。
「いかん、避けろ!」
距離が離れた事でフロアガーディアンが糸球を乱射してきたのです。
「そんな!?」
完全に直撃コース。せっかくランプさんが私を助けてくれたのに!
「ファイアバーン!!」
けれど、その攻撃は私に当たる事はなく、横から放たれた炎によって焼き尽くされたのです。
「ランプさん!?」
まさか、あの状況で魔法を!?
私は自分でも血の気が引く思いで糸に絡まって動けないでいるランプさんを見……
「よっし、自由になった! 覚悟しろこのボス蜘蛛!」
瞬間、私の顔は耳まで真っ赤になってしまいました。
だってそこに居たのは……
「な、何で裸なんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
真っ裸になって仁王立ちで杖を構えるランプさんの姿だったのですから!