第1話 視聴者は神様!?
新連載始めました。
初日は朝夕の2話投稿となります。
「すぅーー」
俺は大きく息を吸い込むと、魔法の発動と共に元気よく挨拶をする。
「みんなー! ランプの冒険配信はじまるよー!」
すっかり慣れた配信テンションに呼び出されるかのごとく、周囲に空飛ぶ人形達が次々と現れる。
『待ってたよー!』
『これで数百年は生きれる!』
『わくわく』
どこから見ても動画サイトの配信活動風景だ。
唯一違うのはコメント欄の代わりに魔力で動く人形が喋ることくらいか。
いや、もう一つあったな。
『今日は何をするの?』
「はい! 今日はダンジョンに挑戦しようと思います!」
人形達の問いに答える俺は、真っ黒な口を開けた地下構造物、ダンジョンの前に立っていた。
そう、ここは異世界なのだ!
『おっ、ダンジョンか。いいねぇ』
『―毒耐性の加護を授かりました―』
ピコンという音と共に加護を授かったというコメントがポップアップする。
『あっ、ずるい! 私も私も!』
『俺も!』
『儂も!』
『―暗視の加護を授かりました―』
『―高速回復の加護を授かりました―』
『―即死防御の加護を授かりました―』
「ありがとう神様! 頑張りますね!」
何より違ったのは、俺の視聴者は人間ではなく、全員が神様という事だった。
◆数週間前◆
「異世界って思ったより良いもんじゃないな」
コンビニもネット通販もないから不便だし、不衛生だし食べ物も貧乏人は焼くか煮るかよくて塩だけで不味いし、なにより……
「民度が最悪だ」
さて問題です。
文明が未発達な世界に女の子が居たらどうなる? 答えは……
「へへへ、姉ちゃん俺達と良いことしようぜ」
男達に襲われそうになったり、人攫いに攫われそうになったりと散々だった。
不幸中の幸いだったのはどっちもギリギリで衛兵に助けて貰って九死に一生を得たけど。
そこそこの大きさの町に住んでいてかつ裏通りには近づかないようにしていてもこれなんだから異世界は治安が悪いってもんじゃない。
だから思ったんだ。
「自衛する方法が欲しい!」
という訳で魔法使いの弟子になった。
「お願いします! 何でもしますから弟子にしてください!」
近所のおじさん魔法使いに頼み込んで、時にはプチ色仕掛けをして(ただし一線は越えさせない)なんとか自衛できるだけの魔法を習う事に成功した事で一念発起して女でも稼げる冒険者になった。
こうして異世界で魔法使いな冒険者デビュー! と思ったらここでも面倒が発生した。
「〇〇、俺お前の事が……」
数回組んだだけの冒険者に勘違いされたり……
「アンタ私の彼氏に色目を使ったでしょ!」
うっかり前世のバグッた距離感のせいで彼氏持ちの女冒険者に勘違いされたり……
「へへへ、ここなら誰の助けも来ないぜ」
人気のない探索中にかこつけてやっぱりエロい事をしようとした冒険者に襲われかけたり……
「冒険者もクソだな!」
そんな感じで男と冒険する危険を嫌というほど思い知った自分は、ソロで活動する事にした。
うん、ぼっちなんだ。だって女冒険者って結構少ないんだよ。
居るにはいるけど大抵はパーティの男と良い関係になってるか、パーティの姫になるから女だけのパーティっていないんだ。
あと女冒険者は、まぁ不幸な目に遭いやすい。
どう不幸な目に遭うかは、自分のこれまでの半生を見て察してください。
そんな訳でソロの俺は安定した収入も得られず、受けれる依頼もショボイものばかりだった。
「お前まだ強がってるのかよ。そろそろ俺達のパーティーに入りなよー」
「俺、今でもお前の事待ってるからな」
うぐぐ、このままだと食っていくために男を受け入れないと行けなくなるのか!?
嫌だ! それだけは絶対嫌だ! だって、だって……
「俺の中身は男なんだーーーー!」
はい、そうなのです。俺の前世は男でした。
しかし何の手違いか、転生した俺は女の子になっていたのだ!
◆
そんな俺に転機が訪れたのは、とある貴族の依頼を受けた時だった。
貴族のお嬢様が王都に行く用事が出来たから、傍で護衛する為の女冒険者の募集があったんだ。
すぐさま応募したところ、珍しいソロの女冒険者でかつそこそこ経験を積んでいた事もあって、俺は見事護衛の座を射止める事が出来た。
まぁいざという時は身を挺してお嬢様を守る肉壁になれって事なんだけどね。
で、そのお嬢様なんだけど、突然馬車の中で大きな箱に向かって話し始めたんだ。
ぬいぐるみじゃなくて箱とお喋り!? もしかしてこのお嬢様ヤバイ娘!?
ビックリした俺だったけど、なんとその箱から本当に男の声が聞こえてきたもんだから更にビックリ!
「お嬢様、何なんですかソレ?」
お嬢さまが箱との会話を終えたのを見計らって尋ねると、意外にもお嬢さまは気さくに答えてくれた。
「これは通信用のマジックアイテムよ」
「通信用のマジックアイテム!? これが!?」
「ええ、お父様が私が心配だからって用意してくれたの」
まさか携帯電話なのかコレ!? ミカン箱くらいデカいぞ!?
異世界で初めて機械文明の香りを感じた俺は、興奮のあまりお嬢様に質問をしまくった。
お嬢様の世話係のメイド達は渋い顔をしていたが、お嬢様は自分が人に教える側に立ったのが面白いのか、色々と教えてくれた。
「通信のマジックアイテムは貴重なものだから持っている人は少ないわ。裕福な大貴族が個人的に所有するか、軍人や官僚が遠方の情報を得る為に使っているくらいね」
成程、軍事目的がメイン、いや元々その為に開発された技術っぽいな。
確か電子レンジも元々は軍事用技術の転用って話だしな。
で、技術が開発されて間もないからこんなに大きいのか。
更にお嬢様と話をしていると、お嬢様は通信マジックアイテムの仕組みついても大雑把に教えてくれた。
「専門家じゃないから私に分かるのはこのくらいね」
「いえいえ、凄く参考になりました。ありがとうございますお嬢様」
深々と頭を下げてお嬢様にお礼を言うと、お嬢様がニッコリと笑う。
「では今度は貴方の事を教えて貰えるかしら?」
「え?」
「私、女性の冒険者に会うのは初めてだから、沢山聞きたい事があったの!」
「ええと、そんなに面白い事はないですよ」
その後、通信マジックアイテムの事なんて目じゃないくらい俺はお嬢様とおしゃべりをする羽目になった。
それこそさっきまで渋い顔をしていたメイドさん達が庶民には縁の遠い砂糖たっぷりの甘ーいお茶を出してくれた程に……
尚、お嬢様が一番興奮した話題は俺に告白してきた冒険者とのくだりだった。
女の子は恋愛モノが好きだよね……
◆
「貴方との旅はとても楽しかったです! 次の機会があれば是非護衛をお願いしますね!」
「は、はい。こちらこそ」
恋愛物語にウッキウキのお嬢様と別れた俺は、冒険者ギルドで報酬を受け取ると適当に選んだ安全そうな宿に泊まる。
「はー、疲れた。でもまぁ貴族のお嬢様と縁が結べたのはだいぶ収穫だよな」
でもそれ以上に俺は有益な情報を得た。
「通信魔法なんてものがこの世界にあるとはね」
しかも通信魔法を使っているのはほぼ金持ちのみ。
「これは金になる! さっそく明日から動くぞ!」
◆
「よし、それじゃあやるぞ!」
数週間後、全ての準備を終えた俺は、さっそく近くの森で魔法の試運転をする事にした。
「『リンク、スピーキング』!」
契約コードが光を放ち体から魔力が抜ける感覚が走ると、俺の右側に小さな光が一つ浮かび上がる。
「よし、成功!」
魔法が無事起動した事を確認すると、俺は光に向けて話し始める。
「ランプの冒険配信始まるよー!」
くっ! これ思った以上に恥ずかしいぞ!
この世界で女として十数年暮らしてきたから女としての振る舞いは慣れてきたつもりだけど、可愛い女の子を演じるのはそれとは別の恥ずかしさがあるんですけどーっ!
だがこの世界で生きていくためにはやらなければ! 一度やると決めた以上やり切るんだ俺!
「私は冒険者のランプ! よろしくね!」
さぁ、どうだ? 誰か反応してくれるか?
おっと忘れてた。ランプってのは俺のこの世界での名前だ。
この世界の俺の両親が夜を照らすランプの灯りのように、希望を見つける事が出来るよう名付けてくれたらしい。
『……何者だ?』
その時だった。右側を漂う光から声が聞こえた瞬間、光がぬいぐるみのような輪郭になる。
「やった! 成功!」
俺は興奮しつつも声の主に語り掛ける。
「初めまして! 私は冒険配信者のランプです!」
声音を調節してギリギリぶりっ子過ぎないバランスで挨拶をする俺。
イメージは前世で人気だった3Dモデル配信者のトークだ。
『冒険配信? 祈祷ではないのか?』
ん? 祈祷? どういう意味だ? 通信なら分かるけど。
「祈祷ってのはよくわかりませんけど、これは私の配信番組です!」
『配信番組?』
声の主はますます混乱したらしく、俺の言葉にオウム返しになる。
よし、ここがチャンスだ!
「はい! この通信は私が冒険者として活動する姿を皆さんに見て貰う為の配信放送なんです!」
『訳が分からん。何故そんな事をする?』
うんうん、初めての事だから分かんないよね。
「それは娯楽の為です! 冒険者の活動って興味はあるけど、実際にどんな活動をしているのかを見た事がある人は少ないと思うんです。でもこうやって配信で実際に冒険している姿を見れば自分も一緒に冒険している気分になれるじゃないですか!」
そう、俺が考え付いたのは冒険者の活動を安全に楽しむ為の配信者活動だ!
冒険者に憧れがある人、冒険に興味がある人はいるけど、実際にやるのが怖かったり、才能の問題で慣れなかったり、立場もあって周りに止められていたりと様々だ。
だから俺はそんな人達が安全に冒険者気分を楽しめる娯楽を提供する事を考えた。
つまりゲーム配信のリアル版だ。
「皆さんには私の配信を楽しんでもらい、代わりに私は皆さんに冒険の支援などをして貰いたいと思っています。私の冒険が面白くてもっと冒険を楽しみたいと思ってくださったら、こちらの冒険者ギルドの口座に支援金を振り込んで頂けると私も装備を整えて冒険を提供する事が出来ます!」
これはいわゆるスパチャという奴だな。
ここでお金を振り込んでもらえれば、俺は装備のメンテやポーションなどの消耗品を補充するのも容易になるから、冒険者として安定した戦いが出来るようになる。
そしてこの通信魔法に反応できるのは金持ちの貴族だけ。
誰か一人でも面白がって支援してくれれば万々歳って訳。金持ちの道楽期待してるぜ!
そして貴族の子供達が堅苦しい家を飛び出して冒険やロマンチックな出会いをしたいというのは物語のお約束だ。
俺が護衛をしたお嬢様も恋愛話には興味津々だったからな。
だから金持ちおじさんの道楽だけでなく、冒険をしたい若い貴族達にバーチャル冒険体験を楽しんでもらって、資金援助の名目でパーティの一員を疑似体験してもらおうって寸法だ。
これで人気が出れば、スパチャで得た金で消耗品だけじゃなく良い装備を買う事だってできるだろう。
『へぇ、面白いことしてる人間がいるわねぇ』
と、そこにもう一つ光のぬいぐるみが増える。
「あっ、ようこそ初めまして! ランプです!」
『初めましてランプちゃん、その支援って『加護』でも良いのかしら?』
「加護ですか?」
加護って言うと時折神様が人間に授ける特別な力の事だっけ。
って、流石に神様な訳ないよね。何かの貴族的な隠語かな?
「はい! 私の冒険に力を貸してくださるならなんでも!」
『ならさっそく私の加護を与えてあげる』
『―探索の加護を授かりました―』
え? 何これ? こんなコメント機能実装してないよ?
通信魔法のデフォルト機能か? 今度師匠に聞いておかないと。
「ええと、これって?」
『探索の加護よ。何かを探すのに役立つから、試しに薬草でも探して見なさいな』
「薬草……」
俺は周囲を見回す。すると自分の視界がおかしなことになっている事に気付く。
「あれ? 何か光ってる」
そうなのだ、周囲にあるいくつかの草がぼんやり光っていたのだ。
『その光ってるのが薬草よ。さっそく採取してみて』
「は、はい!」
言われた通りに採取してみると、本当に光っていたのは薬草だった。
念のため光ってない草を見るも、そっちは普通にただの雑草だ。
『探索の加護は探したい物が光って教えてくれる加護よ。上手く使ってね』
「ありがとうございます!」
凄い! 周囲が薬草だらけじゃん!
視界の中にはまばらに薬草が一本一本生えているのが見える。
普通に探していたら雑草を含めて全部探して時間がかかるけど、これなら探す時間なしで薬草だけピンポイントに採取できるからめっちゃ時短になる!
『成る程、そういう事か。なら俺からはこれをやろう』
『―武人の加護を授かりました―』
おお、また新しいのを貰えた!
『さっそく敵が来たみたいだ、使いこなしてみろ』
「え? 敵?」
「「「グルルルル!」」」
気が付けば俺は魔物に囲まれていた。
しまった! 薬草採取に夢中になってた!
「げぇ! しかもバンデッドウルフの群れ!?」
群れで獲物を襲う狼の魔物!? 俺みたいなソロ魔法使いの天敵じゃん!
何でこんな森の入り口に居るのさ!?
「ガォウ!」
「うひゃああ!」
俺は慌ててバンデッドウルフの攻撃を回避する。
「「「ガオゥ!!」」」
更にバンデッドウルフ達が続けざまに襲い掛かって来る。
「うひぃぃぃ! 死ぬうぅぅぅ!」
『落ち着け、武人の加護で避けられているだろう』
「え?」
光のぬいぐるみに指摘され俺は自分がバンデッドウルフの攻撃を回避できている事に気付く。
「あれ? ホントに避けられてる?」
一応ギルドで戦闘の手ほどきを受けたけど、魔法使いの俺はこんなに回避が上手くなかったはず。
なのにまるで熟練の戦士みたいに攻撃を回避する事が出来ている。
「これって……」
『それが武人の加護の力だ。お前は魔法使いでありながら戦士と同じように体を動かす事が出来るようになった』
「ええ!?」
何それ、そんな魔法聞いた事もないぞ!
「はっ! そうか! 分かったぞ! 加護の正体!」
さっき出て来た知らないコメント機能、そして戦士もビックリの身のこなしになった俺。
そこから導き出される答えは……
「これ、貴族魔法だ!」
そう、これは平民には秘匿されている貴族の特別な魔法、通称『貴族魔法』の効果だ!
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