友達
私―――――雨下霞は高校二年生になった今、日々に絶望している。
何で私、生きてんだろう……?
狭い部屋から雨を降らす赤い雲を見上げて、意味のないことを考えた。
何も知らなければずっと楽しくて、幸せな毎日が送れたかもしれないのに……。
この世界のすべてを見せるこの目のせいだ。
▲▼▲▼
今日は高校生になって、初めての登校日。
私は視線を下に向けて、学校へと歩いた。
私の通う学校は、魔法科がある。最近、東京の学校では魔法科が増えている。
みんな、魔法科で魔法の勉強をして魔法を使った仕事に就きたいのだ。
例えば、警察や医療系の仕事。
警察には、特集警察という魔法で起きた事件や、今も出現する魔物の退治をしたりする。
医療系では、魔法で大きな傷の治療や病気を治したりする仕事もある。
他にもたくさんあるが、有名なものだと、この二つが挙げられる。
まぁ、私には関係ないんだけどね。
だって、魔力がないから魔法使えないし。
だから今日から通うのは魔法科ではなく、学科の方に勉強するために通うのだ。
私はおばあちゃんが病気で入院してることもあり、一人暮らしを始めた。
今日から始まる高校生活は毎日休む暇もないくらいに大変なものになるだろう。
学校に通いながらバイトで生活費を稼いで、勉強しないといけないからだ。
一応、学費と生活費の半分はおばあちゃんにもらってるけど。
校門を通り、周りの人たちに気になりながらも校舎の中に入った。
一年の学科の教室に向かって廊下を歩いてると、コソコソと話しながら歩く女子二人がこっちを見て、ニヤニヤと笑みを浮かべるのが見えた。
私はそのクスクスと笑う女子二人に嫌悪感を抱いた。
中学の時に、あんなふうに何度も影で笑われてきたけど、やっぱり慣れない。あの二人もこの目をバカにしてるのかな。
「はあ……」
自分のクラスの目の前でため息を吐いた。
今日から、大丈夫かな……。
不安に思いながら引き戸を開いて、顔が見られないように視線を下に向けたまま教室の中に入った。
見られたくないのは顔ではない。詳しく言えば目だ。
私の目は、青い瞳に正三角形が描かれてい、てその真ん中に瞳孔があり、人と違って変なのだ。
この、特殊な模様が入った目を隠すために、前髪を伸ばしている。
同じクラスの人にはそのうち気づかれるかもしれないけど。
教室の中は、まだ人が集まっていないのか、三、四人しかいない。シーンとしていて、別のクラスのガヤガヤとした声がよく聞こえてくる。
黒板の真ん中には、自由席と書いてあったので、窓際の真ん中辺りの席に座った。
ここの席なら、授業もちゃんと耳に入るし、気分転換に景色も見れるいい席だ。
窓の外には、いつもどおりの東京の景色が広がっていた。
たくさんのビルが建ち並ぶ東京の街並みの中央には巨大構造物が聳え立っていた。
その建物はどうやら、魔王の拠点を作り変えて、今は特殊警察の本部になっているらしいけど、詳しいことはよく知らない。
巨大構造物を中心に赤い膜みたいなものが半円形状に東京の中心を囲っている。
あれは何だろうといつも思ってしまう。
窓の外から視線を教室の中に向けた。静かな教室の中は人がだんだんと集まっている。みんな大人しく席に座り、授業が始まるのを待っている。
そんな中、一人だけ色んな子に話しかけ回ってる元気な女子がいる。
私には来ないといいな。
小学生の時も、中学生の時も、この特殊な模様が入った目のせいで友達一人もできなかった。
あの子がもし話しかけてきても、この目をバカにして終わるだろう。
別になりたくてこんな目をしてるわけではないのに……。
机の上に筆箱と数学の参考書を置いて、ひたすら書き込んだ。
何かやってれば話しかけて来ないかもしれない。
しばらくしすると、ついに私の前にもその女子がやってきた。
「ねーねー、何してるの?」
チラッと、女の子の方に視線を向ける。
身長は私より少し高く、綺麗に伸びた黒髪はサラサラしていて、胸は大きいのにスタイルはすらっとして、滑らかな白い肌に、顔は整っていて誰が見ても見とれてしまうくらいの美人さんだ。
そして、この子は私と同じ青いオーラを纏っていた。
「勉強してる……」
優しく話しかけてきた子に対して、見向きもせず冷たく返す。
「何で勉強してるの?」
「だって……」
話しかけられないように、するためとは言えないし。
「勉強すると将来のためになるから……」
「へー将来のために勉強してるのかぁー……すごいね、君は将来何になりたいの?」
「えっ……」
私、将来のことなんて何にも考えてない……。
てか、無視すればいいのになんで私、普通に返してるんだろう?
とりあえず無視しよう。
―――――一分後
「ねーねー」
「…………」
まだ話かけてくる……。
――――さらに一分後
「ねーねー無視しないでよー!」
「……」
もう二分もたってるのに、この子まだ話しかけてくる。どうしよう。
「あの、もう授業始まるし、自分の席に戻った方がいいと思うよ」
顔を向けず、俯いたまま声を出す。
「じゃ、私この席に座ろうっと!」
「え……」
私の前の席にその子は座った。
「いいでしょ別に、自由席だし」
「まぁ、そうだけど……」
チャイムが鳴って、教壇に活気のない細身の眼鏡をかけた先生が立って授業が始まった。
▲▼▲▽
昼休みを告げるチャイムが鳴って、私は昼ごはんのお弁当を鞄から出した。
「ようやく昼だぁー!」
前に座る日坂さんが体を伸ばした。
先生が出席を取る時に名前を覚えてしまった。日坂麗華と言うらしい。
チラっと振り向いてこっちを見たので、私はすぐに視線を逸らす。
早く食べよっと。
がんッ。
「霞、一緒に食べよう!」
突然、机を180度回転させ正面にくっつけてきて、そんなことを言う日坂さんに私は驚いて目を見開く。
てか、名前呼ばれた。しかも下の名前で。
「う、うん……」
すぐに視線を逸らして、断れないまま頷いた。
な、なんで私なんかと……。
冷静を装って、お弁当箱を開いた。すると、すぐ隣にいる日坂さんが私のお弁当の中身を見て、声を上げる。
「すごーい!うまそう!」
「そ、そうかな……」
そう言われると、なんか照れる。
「そうだよ!誰が作ってるの?」
「そ、それは……自分で作ったよ」
「そうなの!?霞って、すごいね」
一人暮らしで贅沢はできないので、残り物とかで頑張って色とりどりのお弁当を作っているから、褒められるとニヤニヤしてしまう。
「そんなことないよ……えへ」
「私、料理苦手だからお母さんに作ってもらってるんだ。もちろん手伝いはしてるよ。けど、自分の手で作るってところに夢があるよねぇ」
「そうなんだ」
夢があると言うけど、私にはお母さんに作ってもらうご飯が食べられるなんて良いなって思うけど。
最後にお母さんが作ったご飯を食べたのは、十年くらい前の私がまだ七歳ぐらいの時だ。
突然、大きな地震が地響きと共に揺れた。
お母さんが急いでテレビをつけると、東京の中心にいきなり巨大構造物が現れたとみんなが騒然とするようなニュースがやっていた。
その、突然の出来事をみんなは『魔王襲来』と言った。
巨大構造物の中には、ものすごい力を持った魔物がたくさんいて、それを指揮して動かしていたのが魔王だった。
そして、その魔物たちが暴れたことによって私の両親は死んでしまった。
その日から、お母さんの作るご飯は食べてない。
だから、日坂さんが羨ましい。
「霞、どうしたの?ぼーっとして」
「あ、いや何もない」
一瞬、日坂さんを見て目があったような気がしてすぐに視線を落とす。
「一つ聞いていい?」
「な、何……」
「なんで、ずっと下向いてるの?」
私は、その質問に答えられず言葉に詰まる。
「あれ、聞いたらダメなことだった?」
「別にそういうことじゃないけど、見てもいいものじゃないよ……」
「それでも、霞の顔見たいな、これから同じクラスで過ごすんだから顔ぐらい覚えておきたいじゃん!」
でも、みんなそう言って目を見たら、気持ち悪いとか、不気味とか言うんだ。そうやってみんな勝手に離れていくから、私はいつも一人なんだ。
別になりたくて、こんな目になってるわけじゃないのに……。
「そんなに顔を見せるのが嫌なら!」
「えッ……」
いきなり、日坂さんが顔を両手で挟んで、下に向いた視線が無理やり上げられる。
ふわっと長い前髪が浮いて、一瞬視界がクリアになった。
私は驚いて目を見開く。
「……」
日坂さんは、唖然としいる
すぐに、手を払って視線を下に向ける。
見られた……。
今の一瞬で日坂さんの目と目があったような感じがした。確実にこの変な瞳が見られた。
「ごめんね。こうでもしないと、ダメかなって思ったから」
「…………」
「でも霞、隠すほど変な顔してないよ。てか、可愛い顔してたし」
「え……」
「なんで、隠してるの?」
「わ、私の……目、変だから」
「どこが変なの?」
小さな声で振り絞って答えると日坂さんからすぐに返事が返ってくる。
「その目のどこが変なの?確かに変わった瞳だなって思うけど、変だと思わないよ」
「で、でもずっと、変だって言われてきたから……」
「そっかそっか、でも、私は顔もその瞳も全部可愛いと思うよ」
初めてそんなこと言われた……。
私は胸を撫でおろすような気持ちになった。
日坂さんなら、この目を見せてもいいかも。
「もう一回見せてよ」
「う、うん……」
私は視線をゆっくり上げて、おずおずと日坂さんの方を見た。
すると、日坂さんが前髪を片手でどかし、顔を近づけて、次はまじまじとしばらく私の顔を見る。
こんな近くで、見られるの初めて……恥ずかしい。
「あれ、顔赤いよ霞」
「だ、だってこんなに顔見られるの初めてだから」
そう言うと、日坂さんはニヤリと口角を上げる。
「照れてるんだぁ~。霞、可愛い~」
「う、うるさい……」
この日、人生初めての友達ができた。
放課後は、バイトもあったけど、ない日は麗華と一緒に服を選んだり、パフェとかクレープとかほかにも色々食べ歩きしたり、休みの日はプールや遊園地とかに行って遊んだりして毎日が初めてや、驚きで楽しくなった。
麗華はからかってきたりとかするけど私にとって太陽みたいな存在だ。
暗い影の中にいた私を照らしてくれる太陽、それが麗華。
けど、私と麗香の関係はある日、突然壊れた。